2009年01月05日

パッシブハウス研(PHI)の目標値は日本の目標に相応しいか?(上)



パッシブハウス研究所(PHI)の掲げている目標数値は下記のとおり。

http://www.passivehouse.com/English/PassiveH.HTM

この図から年間暖房費15kWh、年間給湯費6kWh、年間換気費4kWh、年間家電費11kWh、計36kWhと読みとることが出来る。
つまり、二次エネルギーの燃費が36kWh/uaで、一次エネルギーが97.2kWh/uaで上がる住宅のことを指すのだと考えていた。

この数値を達成させるためには、外壁などの熱貫流率(K値)0.15W/u以下で、サッシは0.8W/u以下であるべき。そして気密性は0.6tims/50pa(相当隙間面積0.3cm2)以下でなければならせない。また換気の熱回収率は80%以上であることが絶対的な条件になると言っている。
そして、パッシブハウスという名称を用いた理由は、ヨーロッパで広く用いられている温水ラジエーターによるセントラル輻射暖房装置を、住宅から追放してゆくという目的を明確にするためであった。
つまり、「セントラル温水式輻射暖房装置を追放した住宅」ということ。

日本では、北海道だけでなく10数年前からV地域やWa地域でもこのセントラル温水式輻射暖房のクリーンさと快適さが認められて、かなり広く普及してきている。
東京ガスなどが提案している床暖房よりもはるかに温度コントロールが容易で、セントラルシステムとして使いやすく、床暖房よりはるかに快適だから。
しかし灯油価格の高騰から、この給湯方式が寒冷地では見直されてきている。
V地域やWa地域では、深夜電力のエコキュートを使えば、灯油よりもはるかに安くなってきた。このため、灯油から深夜電力利用の給湯方式に切り替わった。
しかし、北海道などではエコキュートのCOPが低いので、温水輻射暖房から深夜電力利用の「チクダン」などへ切り替わってきている。
残念ながら、暖房機器の本格的な追放運動は起きていない。
「無暖房住宅」という勇ましい掛け声は聞こえてくるが…。

そういった点から考えると、ヨーロッパ人が不可欠と考えていたセントラル温水式輻射暖房装置の追放を叫んだパッシブハウス研究所の先見性と、それを推進してきた馬力には頭が下がる思いがする。
しかし、昨年秋に同研究所を訪ねた時「新しく冷房負荷基準として15kWhを加えるつもりだ」と言われた時、裏切られた思いがした。
まさしく「100年来の恋いが醒める」想い。
今までの二次エネルギー36+15=51kWhとなる。
これだと、単純計算をすると一次エネルギーは137.7kWh/uaとなってしまう。今まで唱えていた120kWhが霧散してしまうではないか、と考えた。

横浜国大建設卒で、ドイツStuttgart大建設学部でDiploma学位を取得し、アイルランドでパッシブハウスの普及に努めているMiwa女史から昨年秋にメールが入った。そして近くパッシブハウス研を訪れる予定があることを知った。
その折に、2つのことを訊いていただくように依頼した。
(1) 昨年末までにパッシブハウスの累積建築戸数は2008年末に1万5000戸に達すると聞いたが、この数値はむPHIのコンサルタントが一戸一戸確認した数値か、それともおおよその推定値か。
(2) 新しく冷房の15kWh/uaが加えられるということだが、その根拠と具体的な内容について細かく教えていただきたい、と。

この2点についての返答メールが、12月15日にとどいた。
(1) 1万5000戸というのはPHIの社員と認定コンサルタントが一戸一戸確認し、認定した数値だという。
したがって、R-2000住宅やQ-1住宅の累計戸数が推定4000戸というのとは訳が違う。改めて、凄い数値だと感じさせられた。
(2) 新しく追加される冷房負荷については、COPを1とした場合の建物が必要としている上限のエネルギー量であるとのこと。

つまり、kWhで表現するから二次電力使用エネルギーと私などは勘違いしていた。そうではなくて省エネ基準で定義されている年間冷暖房負荷と同様の建物性能の定義。つまりギガジュール(GJ)を使った方が理解が早い。
仮に、赤道直下でパッシブハウスを建てるとなると暖房負荷はゼロだが、冷房負荷は最大15kWh以内にしなさいということ。
そして、東京で暖房が12kWh、冷房が10kWhの住宅を建ててもパッシブハウスとは呼べない場合が出てくる。二次エネルギーはクリアーしていても、一次エネルギーの120kWhをクリアーしないとパッシブハウスとは認定されないから…。
だから冷房15kWhという基準を加えても、問題がないというのがPHIの見解。

それと、もう一つ重要なポイントが隠されている。
夏が乾期で乾燥しているヨーロッパでは、クーラーを用いなくても、つまり冷房除湿装置がなくても過ごせる場合がある。その場合には、建築物の二次エネルギーが15kWh以下であれば、一次エネルギーはゼロ。また、冷房のことだけを考えればよく、日本のように除湿について細かい配慮が要らない。
ただし、MiwaさんがPHIに計算を依頼した日本の例だと、絶対湿度が12g/kg(DA)以下であるようにして計算されているという。結果は、「日本は夏の夜、温度が低くなっても窓をあけてはいけない」という当然の答が出てきたという。
しかし、冷房負荷15kWh/uaを決めた時に、絶対湿度が12g/kg以下になるようにエンタルピ負荷を考慮して決めたのかどうかが定かではない。

また、太陽光発電を搭載していると、暖冷房費がいくらかかっても一次エネルギーは
ゼロ。だから、5キロワット以上の太陽光発電を搭載さえしておれば、冷暖房負荷に対する配慮がいい加減な住宅でもパッシブハウスとして認められる可能性がある。
原子力発電を必要以上に忌み嫌うドイツらしい方程式。

こういった冷房除湿に関する諸点の他に、給湯と家電のエネルギー消費量でもいろいろな疑問点が浮上してきた。

まず、給湯。
これは、すでに何度も書いていることだが、ドイツのモデルハウスにはほとんど浴槽がついていなかった。
今までドイツで泊まったホテルには、いずれもシャワーしかついていなかった。
このため200リッターの貯湯槽のコンパクト・ユニットが普及していた。
データで見てもドイツの世帯当たりの年間給湯エネルギーの使用量は7ギガジュール。
これに対してセントラル空調換気システムが普及していない日本では、肩まで湯に浸かって身体を暖めなければならない。ストレスを解消するためにも浴槽は不可欠。そして追い炊き機能が求められている。
このため、日本が給湯に使用するエネルギーはドイツの2倍の14ギガジュール。

7ギガジュールのドイツやフランス、オーストリア、オランダなどを前提にPHIは給湯の目標値を6kWh/uaと定めた。
その基準をそのまま日本へもってくることは本当に正しいのか?
2倍の12kWhは無理としても、10〜11kWh/uaを見込む必要があるのではないか?

日本は、基本エネルギーを原子力に依存する方向を定めた。
原子力発電は稼働率を変えることが出来ない。
したがさって、東京などの産業が集中している大都市では、夜間の電力の利用が大問題になってきている。そして、深夜割引料金がこれからも維持されてゆくであろう。
このため、夜間電力を利用している給湯費は非常に安い。月2000円を超すことはまれ。
しかし、年間の二次エネルギーで見ると、簡単に15kWhを突破してしまう。
つまり、東京以西では暖房よりも給湯エネルギーの占める割合が非常に高い。

このほかに、省エネ家電の開発が進んでいるとはいえ、日本の家庭での家電の使用量はドイツに比べて5割近く多い。
また、調理費もドイツの家庭の2倍。
このあたりを考慮しないと、PHIの目標値は単なる高嶺の花と、日本の消費者から無視されてしまう可能性が高い。

そして、更に言うならば、最終的な目標がCO2の削減にあるならば、半分近くの電力を石炭に依存しており、風力や太陽光、バイオに力を入れてはいるが、これらの占める比率がまだ10%に過ぎないドイツ。
これに対して日本で原子力発電が進んでゆき、フランスのように80%近くになったとしたら、日本のCO2は大幅に削減されることになる。
そういった点まで含めて考えると、パッシブハウスの基準を金科玉条のように考えることには、どうしても疑問符がつく。

温暖地で、冬期の過剰乾燥と夏期の異常な多湿を抱える日本の場合は、PHIの貴重な動きは大いに参考にしながらも、独自の省エネ目的を掲げてゆくことが非常に大切だと考える。

2008年05月30日

「エコタウン信州茅野」を全部木構造でやったら?


大安の今日、エコタウン信州茅野の地鎮祭が行われている。
医療関係者でもないのに、なぜそんなに介護ホームに関心を示しているのか? という疑問があろう。
仰せのとおり医療に関しては全くの部外者の素人。
厚生労働白書によると、各種介護保険施設や各種共同生活施設のほかに通所介護施設を含めると全国に施設の数は12万ヶ所にも及んでいる。
そのほとんどがRC造だが、中には木軸や206による枠組み壁工法のものも若干ある。

今まで住宅では高気密高断熱化が叫ばれてきたが、介護施設では高気密高断熱化がほとんど叫ばれてこなかった。
高い建築費をかけてもそれに見合う効果が期待出来ない。費用対効果の関係で過剰投資を避けたいというのが関係者の一致した考え。そんなことより見栄えを良くし、食事を良くする方が訴求力がある。
こうした風潮に果敢に挑んだのが、何回も紹介している桜ハウス玉川。
ともかく、いきなりQ値が0.6Wというパッシブハウス仕様を採用した。
そして、この8月で丸3年を迎えようとしている。
この3年間で、同施設は介護施設における超高気密高断熱のメリットを見事に実証してくれた。

メリットの第1は、何と言っても暖冷房費の大幅な削減。
つまりコストパフォーマンス。
田代専務によると、延べ234坪の施設をパッシブハウス仕様にするために断熱材を外壁300mm、屋根400mmと厚くし、Q値1.3W弱の高性能サッシを採用し、熱回収率86%の熱交換機システムを採用したために2500万円(坪当たり約11万円)も余分にコストが膨らんだ。
しかし、今まで不可欠と考えられていた床暖房施設が不要になり、同時に差別化のために投じていた余分なデザイン費用などが削減出来、実質的なコストの上昇は1500万円高(坪6.4万円)に抑えることが出来た。

そして、このところの灯油の急激な値上がり。
このため、近隣の同規模の施設だと、推定値だが冬期150万円、夏期90万円、中間期120万円、計360万円もの暖冷房費がかかっている。
これに対して桜ハウスの年間暖冷房費は、昨年実績で38万円。
一昨年よりはかなり減少している。
これはコンクリートが乾燥してきたのと、パッシブハウス施設の使い勝手が職員、入居者ともに慣れ、要領が分かってきたことによる。

つまり、パッシブハウスにしたことで、年間暖冷房費が300万円はセーブ出来る。
1500万円のコスト上昇分は、単純計算で5年間で償却出来る。
このことを実証してくれた。これは貴重な資料。

パッシブハウスのメリットは、こうしたランニングコストだけにとどまらない。
●老人臭がない。
1.0回/時の熱交換による完全な計画換気で、介護施設にみられる老人臭がなくなった。

●ドラフトがない。
つまり、食堂であれ、個室であれ、浴室・トイレ・廊下・階段室であれ、温度差がなくなった。このドラフトのなさが老人に与える影響は大きい。バリアフリーの中でも最大のバリアが温度差。それを解消した効果は予想以上。

●トイレの回数が減り、水を飲むのが怖くなくなった。
ドラフトがないということは、余計な神経や筋肉が収縮しない。その負担が無い分、気分も身体も休まる。その結果として夜間のトイレの回数が極端に減ってきている。多い者だと一晩10回も通っていたのが平均して2回になってきている。
このため、今までは水を飲むのをできるだけ我慢していたが、水を飲む怖さから解放されてきている。
つまり、老人がのびのびと生活している。

●暖房設備がないのでメンテナンス費がかからない。
灯油の燃焼機具はメンテナンスが不可欠。換気のプレヒーテング以外に暖房設備がないので、メンテナンス費がかからない。

●外断熱だから構造駆体が長持ちする。
しかし、外壁の補修費が不必要だったということではない。ベースコートに軽い亀裂が入って修理をしている。ただ、外気に晒されていない構造駆体は、当然のことながら長持ちしてくれるはず。

パイオニアの果敢なトライによって、こうした数々のメリットが列挙された。

つまり、住宅以外の建築物でも、そこに人間が住み、呼吸しているからには超高気密高断熱のパッシブハウス仕様が非常に有効。
ということは、今までは単にデザイン性とか耐震性ということでしか考えられてこなかった多くの建築物に、高気密高断熱という省エネのメスを大胆に入れてゆかねばならぬということ。
その端緒となったのが介護施設。しかし、これからは保育園、幼稚園、学校、診療所や病院、公共施設に拡がってゆく・・・。

さて、そこで問題になってくるのが、超高気密高断熱ということが前面に出て来た場合、今まで公共施設では当たり前と考えられてきたRC造とか鉄骨造が、本当にふさわしい構造体であるかどうかという疑問。
ドイツの例などから、RC造に100mmまでの外断熱の有効性は確認されている。
だが、これが200mmから300mmとなった場合に、地震国日本では果たして耐久性、防火性の面で問題がないのだろうか・・・。
この検証がこれからの重要課題となってこよう。
そして、パッシブハウス建築物の場合は、スウェーデンなどで試みられているマッシブホルツなどの複合木構造の方が、中層建築物でもRC造より性能面、価格面で本命になってくるのではなかろうか・・・。
というのが、このところの私の最大の関心事。


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上図は、すでに3月25日にこの欄で掲載したエコタウン信州茅野の平面図と完成予想パース図。
この中の戸建て住宅10棟と平屋のレストランは木造。
これらの木構造をQ値0.7Wから0.8Wで建築するノウハウはすでに存在している。
門型フレームやKMブラケット工法などを応用すれば、耐震性、耐久性、防火性で何1つ問題がないまでに条件が整備されてきている。
問題は価格。
それもサッシの性能と価格に絞られる。

そして、中層の介護施設やセンタービルと低層の共同住宅。
この建築物に求められるQ値を0.7Wから0.8Wと仮定する。
ヨーロッパでは、この数値を実現するには木構造の方が安く入手出来る。
しかし、日本では木軸、ツーバィフォー工法とも個々にアプローチしていて、木構造として全体的にアプローチをするという視点が不在。哀しいことに両者とも敵対関係にある工法と捉えている。
木構造の許容応力度を世界の水準にするという初歩的な運動すら、未だに見られない。

今までの構造強度の単価だけの単純比較だと、RC造とか鉄骨造が有利。
しかし、パッシブハウスという高性能建築物の費用対効果という観点から捉えるなら、木構造が俄然有利になってくるはず。
木構造に関係する皆さん。
口先だけで木構造の復活とか、日本の山林資源の保護と活用を叫ぶより、上図の介護施設やセンタービル、あるいは低層共同住宅を徹底的に解明して、「こうした木構造システムを採用すればこれだけの価格で出来る」というシミュレーションをやっていただけないだろうか。

ともかく、現時点の計画では戸建てとレストランは木造。それ以外はRC造。
そして、全体の建築費は環境省の「街区丸ごとCO2 20%削減事業」の補助金を入れて11億円というところ。
すでに着工が始まろうとしているので、エコタウン信州茅野では全ての建築物を木構造にすることは時間的に不可能。
しかし、これらの全ての建築物を木構造にしてゆくためにはどうしなければならないのか。開発しなければならない技術と課題は何か。そして価格的にどこまで可能性があるかという壮大なシミュレーションの裏付けのある提言がどうしても欲しい。

田代専務は「茅野での試みが成功すれば、全国50ヶ所ほどで同様なエコタウン計画を展開してゆきたい」と熱く語っている。
東大の安藤直人先生をはじめ全国の林産関係者、木構造関係者の英知が結集され、1つの叩き台を提示して頂くことが出来れば、日本の木構造は大きく前進する契機になるのでは・・・。
もちろん、個々の企業でも果敢にトライして頂きたい。トライするだけの価値がある客観条件が揃いつつあると考えるのだが・・・。

と、今回は身の程知らずの妄想発言。

2008年03月27日

桜ハウス玉川の記事訂正


(1) 熱交換機にプレヒーターが付いていると書きました。
 しかし、Temovexのヒーターは、室温が下がった時だけに動くアフターヒーター。
 したがって、室内温度の設定で、自在に稼働を調整出来る。

(2) 介護ホームの桜ハウスは、一般住宅と異なり換気回数が1回/時が求められる。
 それだけ、換気からの熱損失が大きく、このアフターヒーターの稼働する頻度はかなり高い。

(3) ちなみに、スウェーデンの住宅に使われている場合は、年間で7回ほどしか稼働していない、とのこと。

基本的な間違いを犯していました。
お詫びして訂正させていただきます。

2008年03月25日

パッシブハウスの嚆矢「桜ハウス玉川」訪問記 (下)


長野市や松本市などは、盆地に拓けた都市。
その平均気温を見て、長野よりも北海道の方がはるかに寒いと考えていた。
しかし、気象庁のデータを調べると、軽井沢、伊那、立科などの方が札幌より最低気温が低く、むしろ旭川並み。そのことに初めて気づいた。
昨年の最低気温では、原村に隣接している茅野の方が札幌市よりも低い。
海抜約1000メートルという高さがものを言っている。

暖房や冷房設備というのは大変に厄介者。
冬期や夏期の平均気温で、能力を決めるというわけにはゆかない。
過去10数年間ぐらいの最低気温とか最高気温を考えて、キャパシティとかシステムを決めなければならない。
ということで、本当に「無暖房設備住宅」を建てようと考えると、外壁の壁厚やサッシの性能を、10数年に一度の寒波にあわせて過剰投資しなければならない。
ドイツではこの過剰投資を避けるために「無暖房設備住宅」とか「ゼロ・エネルギー住宅」を排斥し、いざという時は暖房をするという最低限の暖房設備を持った「パッシブハウス」に切り替えてきている。

桜ハウスでは、昨年の冬はもっぱらプレヒーターを使っていた。
外気が−14℃の時、いかに室内から排気する熱を86%回収したとしても、給気される温度はかなり低いものにならざるを得ない。
それよりも、零度以下の空気を吸入すると熱交換機の中で結露が生じる。
この結露を溶かすために暖気運転をしていたのでは換気が過小になり、86%の回収は出来ない。
このため、プレヒーターで外気を0℃近くに暖めてから熱交換機へ入れる。

このプレヒーターの電気代が馬鹿にならなかったという。
具体的に幾らかかったかを聞くのを忘れたが、とても「無暖房」だと言えなかったらしい。
そのため、今年はプレヒーターの運転をある程度セーブして、エアコンで加熱してみたとのこと。部分的に結露も生じたようだが、この方が電気代がセーブ出来たらしい。
寒冷地のプレヒーターの問題は、アースチューブの技術を含めて、解明すべき点がまだまだ多い。

介護施設で、今まで大きな問題になっているのが冬期の過乾燥。
過乾燥と低温はインフルエンザ菌にとっては願ってもない好環境。
多くの介護施設で、外部から持ち込まれたインフルエンザ菌で、年配者の感染事故が多発している。
このため、後工事でセントラル換気に加湿工事を追加して、なんとかしのいでいるという具体例を耳にしてきた。
山下研究室でのデータをみると、桜ホームの冬期の相対湿度が初年度は30%を切っており、想像以上の低さに驚かされた。

相対湿度の体感度について、山下研究室では職員とショートステイ、デイサービスの3者に1週間をかけてアンケート調査を行っている。
その調査によると、動いている若い職員の30%近くが非常に乾燥していると捉えており、25%強が乾燥していると答えている。そしてやや乾燥しているという者を含めると全体の68%の職員が乾燥気味だと答えている。
これに対してショートステイの年配者は、半分がどちらとも言えないと答えており、やや乾燥しているという答が半分。職員の申告と大きな差がある。
これがデイサービスとなるとさまざまで、どちらとも言えないとやや乾燥しているがそれぞれ35%と圧倒的。やや湿潤・湿潤が併せて22%で、乾燥していると答えた人は8%に過ぎない。

残念ながら山下研究室のアンケート調査は、ここで終わっている。
この調査期間の相対湿度を見ると25%前後。
当然のこととして、職員の68%、年配者の50%近くが乾燥気味だと感じている。
この相対湿度を35%とか、あるいは45%にした場合に、どのような反応が得られたかが知りたいところ。今後に残された課題。
このアンケートに基づいて、施設としては簡易加湿器をところどころに入れている。
しかし、ほとんどの施設がそうであるように、職員がこまめに加湿器の管理をやってはいない。それなのに、インフルエンザ騒ぎは、昨年も今年もなかった・・・。

訪問して、最初に相対湿度と温度を測定した。
相対湿度は34%とまあまあ。
土曜日で、デイサービスの人も多く、私共訪問者や説明者などからの発湿があったからかもしれない。ともかく、乾燥しているという感じはなかった。
「職員からは乾燥しているという声が出ますが、年配者からはほとんど出てきません。やはり暖房にドラフトを感じないというのが大きいのだと思います。風があるとどうしても皮膚などからの気化熱がある。それがないのと、それほど高温にしなくても暖かいということが、加湿を大きな問題にしていないのだと思います」と田代専務。
いずれにしろ、介護施設の温度と相対湿度とインフルエンザとの相関関係は、大きなテーマであり、今後とも多面的な研究が求められてくる。


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さて、この桜ホーム玉川の成功に意を強くした関係者は、次のプロジェクトとして「エコタウン信州」を構想していた。
上図はそのエコタウンの平面図で、下図が全体のイメージパース。
3600坪の敷地の中に、木造戸建てパッシブハウス10棟、パッシブハウスの共同住宅が2棟で25戸。それに、診療所付きで現在の規模の3倍にもなる延べ700坪のパッシブハウスの大型介護施設。近くにあの鎌田先生で有名な諏訪中央病院があるのだが、介護施設には診療所が不可欠とのこと。
そればかりではない。1階にコンビニが入ったエコセンタービルも計画している。
セブンイレブンと一緒になって、現在展開している店舗より40%以上の省エネ店舗を如何にして造り上げるかを、検討中という。
さらには低層のパッシブハウスのファミリーレストランも併設する。
これだけの建築物をパッシブハウスにするためには、断熱・サッシ・空調換気面で一段のイノベーションが不可欠であり、それを促す起爆剤にしたいと考えている。

ランドプランニングという技術体系からみれば、オープンスペースという基本概念がやや欠如している点が気になる。
しかし、カル・デ・サスの技術も導入しており、今までの不動産屋や都市工学部の先生方がやってきた都市計画からみると、一歩も二歩も進んだコンセプトがバックボーンにある。これが頼もしい。

パッシブハウスを一番求めているのは高齢者。
茅野の市外部をドライブして驚いた。
あっと息を飲むような素晴らしい邸宅が、あちこちに建っている。しかし、家族の急激な減少を考えると、そうした広すぎる家のランニングコストが気になってしょうがない。
断熱改修しようにも、年配者に新しい投資を呼びかけるのはなかなかの困難事。
しかし、診療所付きの介護施設が核になり、それをサポートする従業員の宿舎や家族の住居などをまとめて開発する。
季節を感じるオープンスペースの緑と、ゴミゼロのクリーンなイメージの実現。
そのためには、無農薬農家とタイアップして、介護施設をはじめとして町全体の地産地消運動に発展してゆかねばならないだろう。
下手に改装するよりも、共同住宅へ引っ越した方が年配者には最適という新しい選択肢が一つ増える。

この計画が成功するかどうかは未知数。
今までの常識を超越した画期的な挑戦であることは間違いない。
もし、このプロジェクトが成功すれば、全国でこれと同じような町造りが可能になろう。
そうすれば、地場ビルダーは単なる高性能住宅の建て替え工事だけではなく、こうした町造りが主要な仕事になってくる可能性もある。
そうした可能性を求めて、ボランタリーで協力しますと申し出たのだが・・・。

2008年03月21日

訂正


訪問記(中)の数値について再確認いたしました結果、下記のように数字を訂正いたします。

(1) パッシブハウスにするための最初の概算計画では15%の予算オーバーとなった。
しかし、実際の実行予算では10%の増加に抑えられた。

(2) 削減できた年間冷暖房は、次世代基準値の数値を厳密に計算したわけではない。
したがって削減額が500万円と断言は出来ない。数百万円という表現が正しい。
そして、パッシブハウスにした分の償却が3年間で済むとも言いきれない。

2008年03月20日

パッシブハウスの嚆矢「桜ハウス玉川」訪問記(中)



今日は祝日だということをうっかり忘れていた。
昨日までに経営数字や性能値について再確認をとっておくべきだった。
したがって、記述内容に間違いがあるかもしれない。その場合は、後で訂正させていただくということでご了解を・・・。

桜ハウス玉川の延べ234坪の当初建築予算は1億8000万円。坪当たり77万円。
これは、次世代省エネ基準の性能値でしか考えていなかった。
これがハンスさんのQ値が0.6Wのパッシブハウスに変えると断熱材、サッシ、熱交換換気設備などで予算が15%、2700万円もオーバーしてしまう。2700万円も余分にカネをかけたのでは、10年間での償却予定が12年間にもなってしまう。
介護ホームは社会奉仕事業ではない。採算性を無視しては存在出来ない。
そこで、性能面以外は、デザイン面も含めて徹底的にシンプル化とコストカット化が進められた。

まず代表的な性能だが、外壁の外断熱にESPボード300mm、天井にESPボード400mm。土間床で床にXPSボード100mm。
サッシはPVCでドイツからの輸入サッシで3-16-3-16-3のアルゴンガス入りのU値1.2W。それと綿半鋼機のスペーシアを使ったアルミウッドの1.25W。
熱交換機はスウェーデンから輸入されたプレヒーター付きの顕熱交換機で、熱回収率は86%。

(写真はスペーシシアを使ったトリプルのアルミウッド)

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介護ホーム業界も競争が激しい。
繁盛させるためには差別化をしなければならない。
どこで差別化をするかというと、1つはサービス。人手をかけ、高いサービスを謳い文句にする。
もう1つは経費、つまりランニングコストの削減での低価格の維持。
桜ハウスが狙ったのはこのランニングコスト減。
つまり、建築費を当初計画の1億8000万円に抑え、年間の光熱費を最小限にすることによって利用しやすい価格を維持する。

だが、2700万円にもおよぶ予算オーバー。これを予算内に納めることはとてもムリだと考えられた。
しかし、ほとんど暖房がいらないということであれば、今まで不可欠と考えられていた床暖房設備を不要にすることが出来る。空調やサッシには余分にカネはかかるが、しかしそうしたサッシや設備は最初からある程度予算が組まれており、差額を考慮するだけでよい。
ということで、厳密に計算するならば、差し引きでパッシブハウス化に要した予算は1500万円程度。残りの1200万円は、過剰なデザインや資材を見直すことで予算内に納めることが出来た。

そして、実際の省エネのデータはどうであったか・・・。
桜ハウスは、見てきたように床暖房やパネルヒーターなどの暖房設備を持っていない。
しかし、夏期の冷房のために各室や廊下などには補助空調として天井吹き出しのエアコンが設けられている。
しかし、昨年の冬はほとんどエアコンが使われることがなかった。プレヒーターで一番寒い時の外気温−20℃を0℃近くまで上げてから熱交換する。
それと内部発熱によって、山下研究室のデータによると1、2階とも室温は20℃から24℃に維持されている。
プレヒーター代以外に暖房費がかかっていない。

下の写真の(上)は1階に設けられた熱交換機。
(中)は熱交換機を開いたところ。右中央部のオレンジ色の部分がプレヒーターで、左上部分は調整盤。
(下)は2階の厚い吸音材の中に設置されている熱交換機。

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そして、面白いのは内部発熱の比率。
電灯からが51%、熱交換器から37%、人体からが12%となっている。
本来は厨房などからの調理、冷蔵庫、テレビ、洗濯機などからの発熱もある。
それを別にして電灯、換気、人体だけでみると、冬期は電灯が暖房器になっていることが良くわかる。そして静かな老人からの発熱は意外に少ない。

このほかに、下の写真(上)のようにエコキュートを室内空間の中に設置している。
この効果も馬鹿に出来ない。それだけでなく(下)のように給水タンクも室内に設けている。これによる省エネ効果も大。

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そして、一番心配されたのが夏期の冷房費。
1、2階とも庇とスダレで日射を遮っているということもあって、ピークの8月の冷房費が2万円で上がっている。
このため、年間冷暖房費は約500万円の節減になるという。
ということはパッシブハウスにしたことに要した実質費用は1500万円だから、3年間で元がとれるという勘定。

今、ほとんどの介護施設は、石油の高騰による床暖房費の維持代に悩まされている。
何しろこの数年で灯油代が3倍近くに値上がりした。介護施設や病院などの利益のほとんどが、光熱費の高騰で帳消しになっている。

これに対して桜ハウス玉川では、ドラフトのない暖かさが人気を呼んで、賑わいを見せている。
温度差のない暖かさは、年配者には有難い。何よりのサービスであり、おもてなし。
温度差がないという最大のバリアフリー。
この有り難さを体験すると、もう昔の生活にはもどれない。
人生の最後にして、最高の環境が得られたのである。

「日本の最高級のホテルよりも快適だということです。この実体験が口コミで広がってゆきます。当初は、この施設の償却を10年間と考えていました。しかしおかげさまで、6年間で償却できるのではないかと考えています」と田代専務。

2年目の冬を越して、パッシブハウスのメリットを、桜ハウスは立派に証明してくれた。
今月下旬には、与野党の国会議員が揃って視察にくるという。

そうした反面、いろんな問題点も明らかになりつつある。つまり、トライしたことにより改善点がクローズアップされてきている。
次回は、そういった点を中心に記したい。

2008年03月15日

日本のパッシブハウスの嚆矢「桜ハウス玉川」訪問記(上)


昨年秋に、信州大学山下研究室の「RC造の超省エネ介護施設の計測結果と消費電力の考察」という資料を入手した。
延べ773m2(234坪)の施設のQ値が0.6Wとあったのでびっくり。
気密に関してのデーターは書かれていない。
だが私の経験値から、相当隙間面積はおそらく0.3cm2以下だと推測している。
日本に現存する建築物の中で、最も省エネ性能に優れた建物。
それなのに建築雑誌や住宅雑誌は、どこも取り上げていない。
悪口は言いたくないのだが「建築ジャーナリストの皆さん方は、省エネに関しては方向音痴ですね」と憎まれ口の1つも叩きたくなる。

http://www.takaneh-support.co.jp/sakura_h/index.html

山下研究室の資料を読んで、間違いなく日本におけるパッシブハウス建築の第1号と呼ぶにふさわしい内容だということがわかった。
ただ、研究室の資料はネット上に公開されていないようなので、変わりに下記の綿半鋼機のプレス・リリースを紹介しておく。

http://www.rf.watahan.co.jp/pdf/pressrelease070530.pdf

この資料の中の月毎の「消費電力量」資料の出典先が明示されていない。
これは山下研究室のもの。
8月の数値が異常に低いが、これはこの施設が2006年9月1日にオープンしており、本来は8月のデーターは抹殺すべきもの。そして残念ながらこの図は、8ヶ月間のデーターしか網羅していない。
また、図5に暖房及び冷房負荷のシミュレーションが載っている。これによると暖房負荷がゼロで、冷房負荷のみかかっているように見える。
つまり「無暖房の家」と言いたいわけ。
しかし、熱交換機には2.2kWのプレヒーターが付いており、残念ながら「無暖房」と呼称するわけにはゆかない。
田代育夫専務は「最初からパッシブハウスとして計画した。ハンスさんの無暖房設備住宅のことを日本では無暖房住宅と呼んでいるので、それに倣ったまでのこと。パッシブハウスだと自覚しています」という。

ともあれ、こうした資料を見て、一日も早く訪問したかった。
だが、空調や換気に関しては、プロに同行していただかないと私の浅学で判断したら大きな間違いを犯す怖れがある。
ということで、3月初旬まで延びてしまった。

さて、いろんな資料を見て、私が一番疑問に思ったことは、誰が、何時、どんな動機で、日本で最初のQ値0.6Wというとてつもない性能値の建築物を建てようと考えたのか。
あるいは誰がどんな勝算をもって建てさせようと考え、どのようなアプローチを行ったのか、である。

R2000住宅の場合もそうであった。
モデルハウスを建てることはいたって簡単。
しかし、今までになかった高額の新しい商品を販売するのだから、キーマンとなる施主が登場してくれないかぎり、なかなか弾みをつけることが出来ない。つまりPR塔になる施主の存在が不可欠。損をしても見つけ出さないかぎり新商品の販売を軌道に乗せることは、絶対に出来ない。
幸い、R2000住宅の場合は、歌謡番組の司会でお馴染みの玉置宏氏の奥さんに、このPR塔の役目を買っていただけた。
R2000住宅業界全体として本当に有難いことだった。
そして、次第にサッシや空調換気、断熱・気密の資材が安く入手出来るようになり、なんとか軌道に乗りはじめると東電や鹿島建設をはじめとしたゼネコン、三菱電機や東芝、あるいはIT関係の技術者、海外駐在帰りの銀行マン、商社マンなどに面白いように売れ始めた。

パッシブハウスでは、最初は2棟ともQ値を0.7Wで計画した。
しかし、自分がビルダーではなくなったので、損を覚悟で請負い、施主にムリなお願いを聞いてもらうわけにはゆかない。一切の責任を負える立場ではない。
施主の意向やビルダーの都合、あるいは法規上の制約などで0.9W前後の性能値に落ち着かざるを得なかった。
それだけに、0.6Wの性能値を選んだ決断が、眩しく輝いて見える。
しかも、介護施設でのトライ。


RIMG5694.JPG

視察は、まず綿半鋼機のEFE事業部長と担当者による施設の南面外観から始まった。
上の写真のように、RC造には珍しく軒の出が長い。
これは当然のこととして夏期の二階への直射日光を避けるため。
そして、本体とは別に、後で施設の方で一階の南側にデッキを兼ねたウッドによるパーゴラを設けている。
夏、天井面にスダレを敷くとこれまた直射日光が防げる。
そして、RC造だから駆体の外側にEPSボード300mmを外断熱として施工。
この断熱材の厚みの奥にサッシが納まる。
大きな庇がついているのと変わらない。
これが夏期の日射を遮蔽し、同時にサッシの耐久性を高めるのに役立つ。
当たり前のことだが、いろいろ考えられている。
ただ、この彫りの深さをもっと立体的に表現出来たら、一段と素晴らしいものになったであろう。

説明を聞きながら、綿半鋼機が施設側を口説き落としたのだと考えた。
そこで、それとなく宮下営業部長に探りを入れてみた。
ところが「私共は、ハンスさんのセミナーに誘っただけです。このプロジェクトをやろうと決めたのは、どこまでもタカネヒューマンサポートさんです」という意外な返事。
ゼネコンとかデベロッパー、あるいは介護関係の人々の頭は古い。
固定観念で固まっており、守旧派の集団である場合が多い。
そこでまず、田代専務の出身を訊ねてみた。

RIMG5697.JPG

「私ですか。早稲田の理工学部を卒業し、大手企業や外資系で超電導とかEDSLの開発などに携わってきました。会社をやめて障害者のボランタリー活動を手伝っているうちに今の仕事に落ち着いたわけです。超電導というのは表面が70℃で−174℃にまで温度を下げる。244℃も温度差がある世界です。全くの高気密高断熱の世界。したがってハンスさんの話は何の抵抗もなく受け入れられました」と涼しい顔。

「私は行けなかったのですが、最終的には社長がスウェーデンやドイツを視察して、ハンスさんにお願いしようということになったのです。たしかに、建築に疎かったから決断出来たという面はあります。しかし、茅野の気象条件はスウェーデンとはほとんど同じ。したがって理論的には十分に可能であると楽観していました。けれども、あまりにも未経験なことばかりなので、途中でシミュレーションが間違ってはいなだろうか。ムリな計画ではなかっただろうか、と不安になったこともあります。ともあれ、このプロジェクトをやろうと決意したのは私共で、私共からハンスさんにお願いし、地元の設計事務所と建築会社、外断熱協会の協力を仰いだのです」

業界の常識にとらわれなかった英断が、知名度の低かった同社をして新しい歴史を開くスターに仕立て上げたのである。

2008年01月21日

日本は世帯当たりエネルギー消費量が少ないという詭弁


日本の国土交通省は「世帯当たりのエネルギーの消費量は、世界の先進国に比べて日本は45%も少なく、住宅部門では次世代省エネ基準以上の省エネを推奨するわけには行かない」と声高に主張している。
その根拠として利用されているのが、住環境研究所で作成している下記の図。


RIMG5483.JPG

日本には約4700万の世帯がある。
人口は減少に転じたが、世帯の数は今後とも増え続けるという。
つまり、今までの1世帯4人という世帯が急激に減少しており、1世帯3人とか2人、あるいは単身という世帯が増えてゆく。
これに対して住宅の数は5400万戸と、世帯数をはるかに上回っている。

そして、人口の80%以上が関東以西の比較的暖かい地域で生活している。
このためセントラル暖冷房は、日本では贅沢品とみなされ、各室毎の部分空調で、しかも一時的な運転で我慢している。
5400戸もある住宅在庫のうち寒冷地以外、つまり関東以西の住宅の省エネ性能は極めて低い。
次世代省エネ基準をクリアーしているものは数パーセントにすぎない。
そこで、寒さや暑さを我慢して、我慢して生活している。
日本の住生活レベルは、決して先進国並とは言えず、あきらかに後進国。

こうした、比較的温暖地で、我慢の生活を余儀なくされているから、独身者を含めた世帯当たり消費エネルギーは41GJ(ギガジュール)に過ぎない。
寒い国のフランス、ドイツでは日本の4倍から5倍の暖房費を必要とするため74GJのエネルギーを消費しており、イギリスでは日本の約2倍の81GJを、アメリカにいたっては日本の2.4倍近い97GJものエネルギーを消費している。
つまり、日本の世帯は、欧米のようにやたらとエネルギーを浪費しておらず、したがって民生部門の住宅でのこれ以上の省エネを求めることは出来ない。
これが、国土交通省の大義名分であり、民生部門での省エネサボタージュの口実。

この数字だけを見せられると、数字のトリックに誤魔化されて本質を見失う。

さて、日本の大手プレハブなどの住宅メーカーが、現在販売している戸建て住宅というのは、一体どれだけのエネルギーを消費しているのか。
本当に41GJという平均値に収まっているのか、どうか。

残念ながら、プレハブ各社の供給している住宅の平均的な大きさや、平均消費エネルギー量に関する統計資料が見当たらない。
このため、確言的なことは言えない。
しかし、坂本雄三先生のシミュレーションでは、東京以西で次世代省エネ基準を守った場合の暖冷房・給気・換気・照明のエネルギー消費量を74GJと推定している。
これにテレビや冷蔵庫、食洗器、テレビゲームやコンピューターなどのエネルギーを加えると最低でも85GJという数値になるであろう。

大手プレハブメーカーなどが提供している住宅は規模が大きく、平均すると100GJを軽く突破しているのが現実だと私は推計している。
つまり、日本の大手住宅メーカーの提供している住宅の、世帯当たり年間消費エネルギー量はヨーロッパをはるかに上回り、アメリカの平均よりも多いはず。
しかも、強調しなければならないのは、欧米ではセントラル空調換気が常識なのに、日本の大手住宅メーカーの提供している住宅は価格が高いくせに、情けないことにセントラル空調換気設備を供えていない。
この事実を何と説明したら良いか。

日本の国土交通省は、この事実を知りながら、天下り先の大手プレハブメーカーのご機嫌をうかがって、この事実に一切触れようとしていない。
そして、次世代省エネ基準で十分だというユルフン行政。

同じことを何回も強調するが、ドイツのパッシブハウスの世帯当たりの年間エネルギーの消費量は、家電までを含めて約33kWh/m2だから、120m2の住宅と仮定するとおおよそ14GJという数値になる。
日本の現在の世帯平均の1/3を目指そうとしている。
日本の大手メーカーの14%。
あの、北海道よりも寒いドイツで、世帯当たりの年間エネルギー消費量が14GJの家がすでに2万戸建てられ、5年後には新築住宅の1/3にまで普及させたいと懸命な努力を続けている。

それなのに、日本の大手住宅メーカーは100GJの住宅を提供していながら、しかもセントラル空調換気のない住宅を提供しながら、何一つ反省していない。
セキスイハウスは耐震とか木を5本植えているとか、ダイワハウスは今どきになって自慢げに外断熱を宣伝している。
完全にピントが狂っている。
この馬鹿げた企業活動を、日本のジャーナリストの一社たりとも糾弾していない。
スポンサーの鼻息をうかがい、消費者の視線に立っていないジャーナリストも情けない。

とくにトップメーカーのセキスイハウスの責任は大きい。
国立で天井冷暖房の実験をやったなどと得意そうに話をしている。
そんな実験は、われわれは20年前に既に完了している。
天井冷房は除湿が命。その除湿のために余分に電気代がかかって使えない。
そんなイロハさえわかっていない。

つまり、セキスイハウスはトップを走っているつもりかもしれないが、完全に一周遅れのトップにすぎない。

こんな一周遅れのメーカーを、国土交通省に関係の深い慶大の村上周三先生あたりがヨイショしているのだから、たまったものではない。

統計数字の詭弁に惑わされてはならない。

日本に必要なのは、ドイツと同様にパッシブハウスを目指す本当のトップランナーの存在である。


2007年11月05日

パッシブハウスとは?  最初にPassive House Instituteありき。


明日、パッシブハウスのセミナーに参加してきます。
皆さんによびかけたのですが、あまりにも火急で都合がつかないとのこと。
そこで、皆さんから寄せられた疑問を、事前に7つの質問状にまとめて、マックスさん宛に送付しておきました。
セミナー会場で全部の答が得られなくても、いくつかの大切な疑問がやがて氷解してくれるものと期待しております。


そこで、今週はその予備学習として、Passive House Institute が発表している「パッシブハウスとは何か?」という英語版を、音熱環境の三星氏が翻訳してくれました。
それを中心に紹介したいと思います。

Passiveというと消極的、受動的という受け身な姿勢を連想します。
反対語の Active のような、積極さのないだらけた態度。
したがって、Passive House といわれても、ピンときません。
以前にパッシブ・ソーラーというあまり効果のなかった住宅が横行し、その悪い印象が強く残っており、私も最初にこの言葉を使うことに抵抗がありました。

しかし、ヨーロッパでは「人為的な熱を、出来るだけ使わない住宅」という意味でこのパッシブハウスという言葉が積極的に使われおり、共通語になってきています。
つまり、地球の温暖化に対して消極的な住宅ではなく、CO2削減の面では最もアクティブな住宅、それが「パッシブハウス」なのです。
新建ハウジングでは、パッシブ・ソーラーと混同して使っており、大きな悪影響を及ぼしているので、強く抗議しておまきました。

EI社の堀内さんによると、このパッシブハウスというコンセプトを普及させたのは、パッシブハウス研究所(Passive House Institute)だといいます。
「最初にパッシブハウス研究所ありき」なのだそうです。
それが、どのような経緯をたどって現在のように全ヨーロッパへ波及していったかについては、各大学の研究生の皆さんの仕事です。
大変に面白いテーマだと思います。

パッシブハウスは、冬期の暖房費を15kWh/(ua)以下に抑える住宅であると、おろかな私は早とちりしていました。
しかし、パッシブハウスが規定しているのは暖房費だけではありません。


RIMG4280.JPG

図をみれば分かるように、給湯、換気、家電機器に使用する総使用エネルギーを現在の168kWh/(ua)を80%も節減して35kWh/(ua)程度にしてゆこうと考えているのです。
(注) WSchVO=German Heat Protection Regulation
SBN=Swedish Construction Standard

そこで、このパッシブハウスを実現するための指針となる基本的な性能値を上げています。
これが面白い。

●床・壁・天井の断熱性能
 外部に面する全ての床・壁・天井のK値は0.15W/u以内とする。

●向きと遮光
 太陽エネルギーを受熱は重要な要素。したがって南向きに建て、同時に太陽熱を遮断する遮光に配慮。

●サッシ
 サッシの熱貫流率(K値)は0.8W/uKを越えてはならない。

●気密性
 漏気回数は50パスカルで0.6回転/hr以内であること。
日本の相当隙間面積に換算すると0.15cm2/uから0.2cm2/uというところ。

●新鮮空気の導入
 新鮮空気は、地中のダクトを通じて導入すること。
 つまり、床暖房している下部のパイプを通して空気を導入する。
これだと、ドイツのような寒冷地の冬期でも5℃以上となる。
北海道で問題になっている冬期の熱交換機の結露問題は、この地下のパイプを通すことによって解消される。

●熱交換機の熱回収率
 熱回収率は80%以上のものを用いる。

●ヒートポンプ
 太陽熱温水器やヒートポンプがこれからの温水熱源として利用されねばならない。

●省エネ家電
 エネルギー消費量の少ない冷蔵庫、ストーブ、冷凍庫、照明、洗濯機、乾燥機、皿洗い機、テレビなどはパッシブハウスの必需品。


このあと、パッシブハウスに対するQ&Aが続いている。
その中で、コストに関する項目だけを紹介する。

ドイツでは標準的な住宅と同価格でパッシブハウスを売り出している会社がすでに存在している。
しかし、一般的には高品質の資材が求められるので、高めの価格帯にならざるを得ない。

ハノーバー、ロンスバーグのタウンハウスのパッシブハウスのコストは100uの住宅で7,669ユーロ(127万円)
ニュールンベルグの130uのデュプレックス住宅では13,140ユーロ(217万円)高?

しかし、長期的には年間エネルギー代が511〜1023ユーロ(8.4万円〜16.9万円)節約出来、German ECO=Supplementによる税制と、パッシブハウス建設促進プログラムによる特別金利の適用で、パッシブハウスの建設は、今までの住宅に比べてはるかに経済的。

2007年10月31日

訂正

K邸の気積は363.18m3です。訂正いたします。

2007年10月30日

Kさんが選んだ無暖房・光熱費ゼロのパッシブハウス


温暖化地獄のことを考えると、これからの住宅は大きく4つに分類してゆくべきだと思う。

◆1 地球に害を及ばしている安物の加害者住宅(Q値3.5W以下) 40坪で1600万円以下。
   アパートを借りるよりは安物でも自宅を新築した方が得だという若きサラリーマン
需要をターゲットとするタマホームなどの住宅。

◆2 地球に哀しい思いをさせている次世代基準住宅(Q値2.7W以上) 40坪で2000万円。
   プレハブ住宅を選ぶ環境問題に対する比較的感度の鈍い中堅層の住宅。プレハブは
性能が低いのに、価格はR-2000住宅並に高いから嫌になる。

◆3 地球が少しだけホッとしてくれるR-2000住宅(Q値1.5W以上) 40坪で2700万円。
   次世代省エネ基準の約2倍の性能住宅。
これがこれからの戸建て住宅の最低基準であるべき。
   地場ビルダーで、この基準を標準仕様にしているところが増えてきている。

◆4 地球が心から喜んでくれる未来派住宅(Q値0.7W以上) 40坪で3700万円以上。
   消費者の中には、地球のためになるのなら多少無理をしても光熱費をゼロにして、
   わが家からCO2の発生を極力減らしてゆきたいと真剣に考えている人が1%はいる。
   
そして、誰にでも考えられる3本柱の住宅政策。
(1) ◆1の住宅を法律で禁止し、新築住宅の全てを次世代基準以上にしてゆく。
同時に断熱改修工事も資金補助をしながら順次義務化してゆく。
(2) ◆3の性能住宅、プラス ヒートポンプ住宅には、減税を実施してゆく。
(3) ◆4の住宅には、減税とともに特別報償制度を新設してゆく。

ドラスチックでも何でもない。
日本が世界のリーダーとして地球に貢献してゆくには、これぐらいは最低の義務。
この程度の智慧とこれを実施する度胸のない国交省住宅局なら不要。

そして、私が強調したいのは、余分にイニシアルコストがかかっても、温暖化防止のために◆4を選びたいと考えている消費者が最低でも1%はいるということ。
戸建て住宅の需要が40万戸としたら4000戸は間違いなくそうした需要。
単なる成り上がりではなく所得の高い層。意識水準の高い層・・・・。
今までは、断熱・気密工事に300万円とか500万円余分にお金がかかったら、何年間で償却出来るかということが問われた。
省エネ住宅はカネ勘定の世界であった。
イニシアルコストという形でまとめて先払いするか、携帯電話と同じように最初はタダ同様で毎月高い料金で後払いにしてゆくか・・・。

ところが、温暖化地獄の危機を自分のこととして捉え、大胆に行動に移そうと考える人が出はじめている。
目前に迫った温暖化地獄。これに対処するには、最早「後払い」の考えは許されない!
どうでもいいような見栄や機能にカネをかけるのなら、地球環境のために300万円とか500万円をかけようではないか。
CO2削減のために、償却はある程度度外視して、無暖房に近い住宅を建てようではないか。
我慢出来るところは我慢して、温暖化防止に一役買おうではないか。

その動きはまだまだ表面化していない。
しかし、潜在需要として大きく動こうとしている。
その小さな萌芽が出はじめている。
しかし、旧来のマーケティング手法にこだわる人には、その萌芽が見えない。
このため、住宅供給者側のハウスメーカー、ビルダー、サッシメーカー、換気メーカーの自覚が足りず、供給体制が整っていない。
政府も、消費者にインセンティブを与えていない。
このために、この大きな潜在需要が顕在化出来ないでいる。


宇都宮のKさん。
最初はエムエスホームのR-2000住宅仕様を考えていた。
しかし、友人などの意見を聞いているうちに気が変わった。
どうせ家を建てるのなら、限りなく無暖房住宅にして、光熱費ゼロの住宅を建てよう。
そのためには1000万円近く余分にカネがかかる。
いいではないか。
光熱費が限りなくゼロに近く、アフターメンテナンスの費用がほとんどかからず、耐久性が長ければ、必ず元がとれる。そして、ささやかではあるが地球温暖化阻止に貢献出来る・・・・。

依頼を受けたエスエムホームはとまどった。
無暖房住宅に本格的にトライしたことがない。
屋根・外壁の断熱と、サッシと換気がポイントであるということは分かっている。
しかし、断熱仕様をどのようにした方が最も効率的か。
どのサッシが、費用対効果で優れているか。
どこの換気装置を選べばいいか・・・。
嬉しい試行錯誤が繰り替えされた。

その過程は省く。
ともかくこの10月初旬にK邸は完成し、無事に引き渡された。


RIMG3584.JPG

K邸は南斜面の北側道路。太陽がサンサンとふり注ぐ。
太陽光発電の搭載を最優先にしたため切妻の棟の位置が北側へずれている。
外壁は本物のレンガ積み。
このレンガを支えているのが208の外壁で、ノンフロンの現場発泡ウレタンが180mm吹き込まれている。その外側に50mmのQ1ボードを外断熱としてプラス。
このため外壁の平均K値はなんと0.145Wと高い。
しかも気密性能は0.1cm2/m2というから凄すぎる。

屋根は光発電搭載のためにあえてガルバニウムの瓦棒葺き。
タルキも208で、断熱材は外壁と同じ。しかし階間やマグサがないためにK値は0.122Wという素晴らしさ。

RIMG3611.JPG

南隣の敷地とは段差があるため、下の道路から見上げた屋根と光発電は平になって小さく見える。
しかし、5.2kW/hの高性能の太陽光発電を搭載しており、年間5万円の電気代を稼いでくれ、エコキュートとクーラー代は十分に稼いでくれるはず。

RIMG3587.JPG

玄関を入ったら目の前にスウェーデンから輸入された第1種換気が鎮座していた。
これだと、メンテナンスを忘れることはない。
熱回収率90%の顕熱型。ただしバイパス機能を持っていないのが残念。

RIMG3601.JPG

サッシはスウェーデン製の木製。
トリプルガラスでクリプトンガス入り。K値は1.0Wというから嬉しい。
当然のこととして、いざという時は内側へ取り外せる。

RIMG3589.JPG

RIMG3594.JPG

RIMG3593.JPG

内部の壁と天井は全てムクのパイン材。
これだと壁を張り替えたりする必要はない。
メンテナンスフリーが期待出来る。
2階もまたオールウッド。
山小屋風で好みが合わない人も居よう。しかし、これは1つの選択肢。

RIMG3590.JPG

唯一和室だけが塗り壁。
そして、1階ではこの部屋にだけ2.5kWの空調機が付いている。
東西の窓には外付きスクリーンがついており、南の一部の窓にはオーニングが付いているが、やはり夏場は除湿運転が不可欠。
それと、冬期はほぼ無暖房で過ごせるはずだが、万が一の時の補助暖房となる。
もう一台、2階にも2.5kWのクーラーがつけられている。
この2台の電気代と給湯の電気代の賄を、光発電に期待。

さて、この家の熱損失係数はどうなっているか。(延床面積124.67m、気積2363.18m3)

部位    熱損失(W)   比率(%)
屋根     10.111     11.1
外壁     20.725     22.7 
開口部    21.742     23.9 
土間     19.486     21.4 
換気     19.067     20.9 
 計     91.131     100.0 

換気設備の細部のデータが揃っていないので、換気の数値は完全ではない。
だが、Q値は0.731W/m2K。
補助暖房機を持っているから無暖房住宅とは言えないが、まさしくパッシブハウスと呼ぶにふさわしい内容を持っている。
土間の比率が高いのが気になるが、非常に各部位のバランスがとれている。
おそらく、日本に現存する中では最高水準の住宅の1つだと断言できる。

出来上がった住宅を見ると、次々に改善点が見えてくる。
しかし、意識の高いサラリーマンがその気になれば、これだけの性能値が入手できるということを見事に証明した住宅。
高く評価しても、し過ぎるということはない。

Kさん。本当におめでとうございます。
よい見本を、ありがとうございました。
きっと、貴方に続く人がこれからドンドン現われます。
トップランナーに幸あれ。

2007年01月30日

実態の裏付けの乏しい冷暖房費ソフト  判明した問題点(下)

Yahooで「SMASH」をクリックすると、なんと3400万件もヒットする。
そのほとんどが音楽とかプロモーション関係。

われわれ住宅屋が知りたいのはIBEC(建築環境省エネ機構)が売っている熱負荷計算プログラムのSMASH。
これを3400万件の中から探し出すことは、公園の砂場から砂金を探し出すのと同じくらいに難しい。
しかし、施主に熱負荷計算値を提出するためには、どうしてもこのソフトが必要。
ところが、とっくに元をとっているはずなのに、お値段はいまでも28万3500円とベラボーな高さ。
「IBECはボロ儲けしている」と、誰一人として大きな声で叫ばないのが不思議。
建築業界とは、こうした不思議がまだまだ一杯ある世界。

それぞれの家から、どれだけの熱が損失しているかという計算はいたって簡単。
屋根、壁、窓、床などの部位別毎に、それぞれの面積に熱貫流率を掛け、さらに換気による熱損失も計算し、夏の日射取得係数を加味すれば全体の熱損失合計が手計算でも簡単に出せる。
私なども15年前までは手計算でやらされてきた。
とても、28万円もするようなソフトではない。

この熱損失合計値を、建築面積で割るとu当たりの数値が出る。
これを熱損失係数(Q値)という。
つまりQ値が2.7Wというのは1u当たりから2.7Wの熱が逃げているということであり、Q値0.9Wは1u当たりから0.9Wの熱しか損失していないということ。
当然数字の小さな方が、熱損失が少ない。
Q値0.9Wの住宅は、Q値2.7Wの住宅に比べて3倍の暖房性能があるということ。

こうしたQ値の表現だけで住宅の省エネ性能が分かり、消費者の方が納得してQ値の少ない住宅を選んでくれ、CO2の削減という大きな目的が達成されるかというと、そうは問屋が卸さない。
私の家はQ値が1.5Wで、延べ床面積が120uだから、熱損失合計は180Wだということは分かる。
しかし、180Wというのは、暖房費が幾らで、冷房費がいくらかかる住宅なのか。
一体、燃費はいくらなのか?
それが知りたいわけ。

もちろん180Wの熱損失の家といっても、それが北海道に立地しているのと仙台に立地しているの、あるいは静岡に立地しているのとでは燃費が異なってくる。
また、冬の室温を18℃で生活するのと23℃で生活するのとでは燃費が大きく異なるし、同じことで夏の設定温度が26℃なのか28℃なのかで異なってくる。
さらにその家で生活している人間が2人なのか4人なのかによっても違うし、家電製品や照明の多寡、炊事時間の長短によっても冷暖房の燃費が異なる。いわゆる内部発熱量が違うから、暖房費も冷房費も異なる。

自動車で10―15モード燃費というのは、一定の条件下の燃費。
同じことで、住宅の場合の燃費も一定の条件下での表現となる。
まず立地する都市によって冷暖房期間が設定される。設定温度は環境省の指導に基づいて冬期18℃、夏期28℃。全館24時間冷暖房。内部発熱は20.9〔kJ/u〕

この全館24時間冷暖房が難しい。
北海道のように全館暖房が当たり前で、冷房がほとんど不要だという地域だと、今までは「年間暖房費が灯油で何リッター」と分かり易く表現出来た。灯油の単価によって金額が異なってくるが、何リッターの家であるかというだけで、誰にでも性能が分かり易く理解出来た。
しかし灯油が急騰し、深夜電力による給湯や蓄暖になってくるとkWh表示になり、リッター時に比べてややこしくなってきた。

それでも暖房費だと熱損失だけで計算出来る。
これが冷房費となるとそうはゆかない。
Q値の性能の良い家が必ずしも冷房費が低いとは限らない。
Q値が1.0Wとか0.8Wという家は、夏家の内部で発生する人体、照明などの家電熱、炊事熱が逃げてくれない。したがってQ値が2.5Wの住宅よりはQ値が1.0Wの住宅の方が、冷房負荷が大きく電気代が余分にかかるという計算になる。

さらに、全館冷房といっても、セントラルエアコンと個別エアコンではCOP効率が違うし、一般電力を使うか動力を使うかによっても価格に差が出てくる。そして、実際問題として全室の個別エアコンを付けっぱなしという家庭が一体どれだけあろうか。
また、環境省は夏期の温度だけを問題にしている。相対湿度を無視して「何が何でも28℃にしなさい」と。
しかし、実際問題として相対湿度が70%以上だと26℃でないと生活出来ない。相対湿度が60%だと27℃でいい。そして相対湿度が55%を切って初めて28℃で快適に過ごせる。さらに相対湿度が50%を下回ると29℃でも快適だし、40%近くになると30℃でもほとんどの人が快適だと感じる。

つまり、相対湿度を無視した設定温度は、本来は無意味。
謳い文句として「28℃」は美しいが、相対湿度が75%の職場で28℃を守れば能率は一気に落ちるし、家庭では裸になって扇風機を回すしかない。
冬期の18℃は、下着を厚くしてセーターを着込めばなんとか凌げる。
しかし、相対湿度が高い夏の28℃は、凌ぐことが出来ない数値。

SMASHによる熱負荷計算ソフトは、それなりに信頼性が高いと思う。
この熱負荷計算ソフトをベースにして、いろんなところで冷暖房費を概算するソフトが開発されてきている。その中で、暖房費のみの簡易ソフトは、経験値からそれなりに使えるということが分かってきている。
ところが、冷房費までを算出させると、納得出来る数値が得られない。

長野の無暖房住宅でも、こうしたソフトを使ってシミュレーションがなされている。
それらは、冷房のCOPを適当に4とか5とかしているだけで、除湿運転のことを等閑視している。いや、現在のソフトにはそういった相対湿度が考慮されておらず、セントラル空調換気運転を前提とした送風運転のことも忘れられている。

空調機の運転実態や実生活でのデータを積み上げた精巧なソフトではなく、机上で冷房負荷の数値を電気代で割っただけのものでしかない。
現在市販されている冷暖房費のシミュレーションソフトは、Q値が1.0Wとか0.8Wという世界を想像していない。次世代省エネ時代の落とし子にすぎない。

したがって、パッシブハウス時代の冷暖房費のシミュレーションシステムは、これから実態データをとり、積み重ねてゆかないかぎり信用性の高いものにはなり得ない。

2007年01月20日

無暖房住宅の先駆的なトライで判明した問題点(上)

いま、日本で一番「無暖房住宅」で燃えているのが信州。
地場ビルダーの意欲たるや、高く評価すべき。
ともかく、やみくもにでもトライする勇気がよい。
トライもせずに、机上でああだ、こうだと書生談議をしていても始まらない。
トライしたからこそ、次第に問題点が浮き彫りにされてきている。

最初に問題になったのが、外壁を厚くすることによる表示面積と実面積。

日本では、建築面積は構造体の中心線で表示する。
軸組の場合、3.5寸角(10.5cm角)の柱の場合は5.25cmの柱の中心を結んだ線が建築面積となり、5寸角(15cm角)の場合は7.5cmの柱中心線となる。
したがって、柱が太くなると、柱の見える真壁の場合にはそれほど問題はないのだが、柱を隠す大壁の場合は2.25cm分だけ柱が部屋に食い込んできて狭くなる。
120m2の総二階建ての住宅だと1.44m2(0.44坪)の利用可能な実面積が小さくなる。

0.5坪にも満たない面積だから、多少部屋が狭くなっても柱が太くなるのだから良いではないかという気がする。
しかし、外壁に面する廊下が3尺の場合だと、2.25cm狭くなるということは致命的な欠陥となってくる。

ツーバィフォー工法の場合、外壁204のスタッド厚は9cm。建築面積はスタッド中心線の4.5cmということになる。
そして、外壁を206にした場合は壁厚が14cm。5cmだけ厚くなる。
この場合、中心線の7cmで内外に振り分けると、4.5cmの壁厚の204に対して2.5cm分外壁沿いの部屋が狭くなる。外壁際に廊下や階段がきたら住めたものではない。

そこで、ほとんどのビルダーが採用しているのは、206の外壁の場合でも、204の時と同様に部屋内側は4.5cmとし、外側を9.5cmとする。つまり5cm増えた分は、すべて外側へふかすことで処理している。
ということはビルダーとしてみれば、204で120m2の住宅を請け負った時に比べ206だと実質123.22m2の住宅を請け負ったのと変わらないということになる。約1坪分がサービスという勘定になる。

しかし、確認申請や登記は柱芯でなされる。
このため120m2ではなく121.61m2の建築面積として申請され、登記される。
このため、若干だが税金も高くなり、うっかりすると建蔽率や容積率がオーバーするということになりかねない。
東京などの大都市の狭小宅地の場合は、外壁を5cmふかすということが大変な重荷になる場合が多い。

さて、前々回に見たように、206の外壁だと、つまり14cmの充填断熱材だと、外壁のQ値を0.26Wから0.27Wにすることはいたって容易。
しかし、無暖房とまではいかないまでも、外壁のQ値を0.22Wとか0.2W以下にしてゆこうとするならば、どうしても外壁を厚くしてゆかざるを得ない。

ツーバィフォー工法の場合は208とか210に壁を厚くしてゆく方法と、206の外側に断熱材をプラスしてゆくという2つの方法がとられている。

この中で、構造的に安心出来るのはやはり208とか210に壁厚を厚くする方法。
首都圏で最初のパッシブハウスを計画している石田ホームとマイスターハウスはいずれも208で計画している。壁厚が184cmということは、実質面積が5%増加して126.1m2と
6.1m2(1.8坪)の増となる。登記上は204の120m2から3.0m2(0.9坪)の増加となる。

このほかに、以前から外壁を210で構築しているところがある。スウェーデンから輸入のレーナハウスとかアルメンプランや、国産の210のTJIを外壁に使用している長野のアドバンスハウスなどがそれ。この場合は204の時に比べ実質面積は7.9%増加し129.5m2
となり2.8坪も大きな家となる。登記上は124.7m2で1.42坪の増加。

このように確認申請上208で3.0m2、210で4.7m2も建築面積が増加してしまうと、建蔽率、容積率の両面から制約を受け、必要な間取りが得られないことが多い。
地方の人には信じられないだろうが、これが地価の高い大都市の直面している大問題。
そこで採用されているのが、206充填断熱の外側に外断熱材を施工するという方法。
これをハイブリッド断熱などと称してイキがっているが、この手法は20数年前から採用されており、R-2000住宅の仕様にもこの考えは導入されている。
ビルダーのみなさん。あまりイキがるのは、みっともないですよ。

具体的には、不燃で熱伝導率が0.02Wと高性能のネオマフォームなどを2cmから3cm厚を結露の起こさない形で採用するか、熱伝導率が0.04Wの不燃性のエコボード4cm厚程度のものを外壁合板の上に直張りしてモルタル仕上げとする、などが用いられている。
このほかにKMブラケットを使用して5cm、6cm、10cmの不燃のロックウールを採用してサイデング仕上げという方法も多用されている。
これらのいずれも、構造に関係のない外断熱だから、建蔽率や容積率、登記面積から免除されるというのが最大のメリット。
しかし、外壁にタイルを使うということになると、その保持力が問題となってくる。
したがって、208とか210に通気層をとって、タイル仕上げというのが何と言っても本命であろう。

このほかに、北洲ハウジングのサステナブルのモデルでは208の充填構造材の外側に14cmの断熱材を施工し、その外側に本物のブロックを積むということをやっている。この場合は、内側は204の場合と同一で、外側へ34cmもふかすという方法をとっている。

一方、木軸組の場合は、北海道のQ-1では10cm角の柱を二重にいれて20cmの壁厚を確保するという提案を行っている。現行の製材品を活用するということではまあまあという気はするが、その生産性や将来展望を考慮すると、必ずしも有望とは言えない。とくに大都市では実質建築面積が5%以上、約2坪も増加するので採用に難がある。

一方、地方のホクシンハウスでは、木軸の外側へ断熱をふかすのでは、外壁の保持力などで耐震性に問題があるとして内側へふかしている。
なにしろ無暖房ということで壁断熱の厚さが40cmもある。従来の10.5cmに比べて29.5cmずつ4周の壁が中に入ってくる。となると、総二階の120m2家だと使えるスペースが15%も狭くなる。したがって柱の位置を増える壁厚分だけ外側へふかす必要がある。
となると120m2の生活空間を確保するには139.6m2の住宅を発注する必要が出てくる。建築面積が16%増で、約6坪も大きな家とならざるを得ない。

スウェーデンなどでは建築面積は内法寸法らしい。らしいというのは、ハンスさんをはじめとしてプロに質問をするのをうっかり忘れた。どなたか確かめて欲しい。
いずれにしろ、構造駆体の中心線をもって建築面積とする日本では、壁厚をやたら厚くするというのは大変に難しい仕事。とくに内側へふかす場合においては……。そういった問題点が信州から発信されてきている。

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