2008年10月04日

10/5号  花粉症は林野官僚による「公害」である!


奥野修司著「花粉症は環境問題である」(文春新書 710+税)

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著者はフリーのジャーナリスト。
花粉症を語るには、林産業に詳しい人か、医療関係のベテランでないと信用するわけにはゆかない。
ど素人の、フリー・ジャーナリストの「オオカミ少年的な発言」など聞くに値しないと考えていた。他におもしろそうな本がなかったから、不本意ながら購入…。

読んでみると、やはり立派な素人。
花粉の侵入をシャットアウト出来る「高気密住宅」の存在すら知らない。
そして、家の中になんと8台もの空気清浄機を設置している。
「バカではないか」と言いたくなった。
第一線を離れた私ですら、少なくとも1000人以上の人々から「家の中にいる時は、花粉症の苦しみから解放され、症状も軽くなってきた。本当に助かっています」と感謝の言葉をいただいている。
ソーラーサーキットなどのように、室内に外気を流すインチキ住宅は問題外。
本当の高気密高断熱住宅を提供しているビルダーの仲間たちは、何十万、何百万の人々から感謝の言葉を頂戴している…。
花粉症になった場合、何はさておいても家を高気密仕様にリフォームし、きちんとした機械換気システムを導入すべき。

そして、驚いたことには重症花粉症患者が要する年間の治療費や予備のための経費が想像以上にかかっていること。
この著者の場合、毎年買っている3.4万円の空気掃除機や、スポット買いの7.1万円のスウェーデン製の掃除機は別にして、診療費、マスク代、鼻と目の洗浄液代、メガネ、サプリメントなどで毎年7万円以上も払っている。
しかも、これは1人分。家族全員では12.5万円もの費用。
このほかに、8台の空気清浄機が、半年以上にわたってフル稼働。
その電気代までも加算すると15万円以上になろう。
「たかが花粉症」とあなどることは出来ない。

こんなにも大きな出費と苦痛を、2000万人から3000万人の国民に与えているということを、日本のすべての山林地主の方は自覚していただきたい。これは、決して林野庁のお役人だけの責任ではない。
あなた方が山林の手入れという責任を放棄している。
このために、庶民が15万円もの高額な医療費を払わされている。自分が管理出来ないなら山林は地方自治体へ返還すべき。それが筋。

たしかに、花粉症で死んだという話は聞かない。
アスベストのように肺ガンを引き起こすわけでもない。
しかしこれは、四日市のエントツからの噴煙によるゼンソク公害に匹敵する「スギというエントツから出る黄色い噴煙公害」ではなかろうか?
戦後の林野行政がもたらした「林野官僚公害だ」と筆者は断言する。

そして、素人でありながら、なまじっかの林野関係の関係者よりも徹底的に問題点を探り出し、解決の方向まで明示している。
そういった意味では、筆者は決して素人ではない。
玄人ぶって、何もアクションを起こしていない林野庁をはじめとした各大学の諸先生、林業研究機関や山の現場で働く皆さん。
この素人のツメのアカを煎じて、早急に「効果ある公害対策」を発表していただきたいと、祈りに似た気持ちをこの本を読んで持たされた。

花粉症はアレルギー反応。
人は免疫という仕組みで身体に侵入する病原体から身を守る防衛システムを持った。
ところが人の身体を守るはずの免疫が、花粉症やアトピー性皮膚炎のように人に悪い振る舞いをすることがある。これをアレルギーという。
花粉などのアレルゲンが鼻の粘膜に付着すると、Bリンパ球が肥満細胞の表面に集まって戦闘準備に入る。刺激を受けた肥満細胞は、細胞内に蓄えていたヒスタミン、ロイコトリエンを一斉に放出。するとクシャミ涙、鼻水、咳が出るという過敏な症状が発生する。これが花粉症状。
花粉が水分で殻が壊れ、中のタンパク質粘液が溶け出し肥満細胞に運ばれるからという。

この花粉症というのは化学物質過敏症と同じで、ある時バケツ一杯になったら症状が出る。そして一生治らない。つまりバケツ一杯の状態が続き、減ることがない。
寄生虫がいなくなったから花粉症が増えたという藤田絃一郎氏の意見は間違っていると筆者は証明している。また。ディーゼル車からの排気が花粉の原因だとする意見も間違っているとデータを上げて立証。
ただ、アスファルトに落ちた30ミクロンの花粉はタイヤで潰され、1ミクロンとなり、車が通る度に巻き上げられて家に侵入して被害を与える。したがってディーゼル車は花粉症に全然関係がないとはいえない。
しかし、原因はどこまでも花粉にある。

日本国土の67.4%が森林。
このうち人工林は1036万ヘクタールで41%にも及ぶ。
そのうちの452万ヘクタールの44%がスギ。ヒノキを含めると709万ヘクタール、68.4%も占める。
この709万ヘクタールというのは関東の1都6県、中部の5県を合わせた広さ。
ここから黄色い噴煙が毎年巻き上がっているということ。

戦後、スギやヒノキは高値で取引された。
農地解放で山林の所有権は細分化され、タダで山林得た地主は、ひとときはたっぷりとした甘い汁にありつけた。
そして、スギやヒノキを植えると補助金が出た。
欲の皮が突っ張った地主は、広葉樹をなぎ倒し、本来はスギやヒノキを植えてはならない傾斜地や谷筋まで、ロープを使ってスギを植えた。
この山林地主としての節操のなさと、プロ意識が皆無の無定見さ。
そして、射倖心を煽った林業官僚と左翼を含めた無責任な政治家群。
日本の山林を、花粉症という公害の発生源にしたのはまさにこれらの人々。

間伐が行われず、モヤシのように密生し、下草も生えていなければ鳥や虫、動物もいない暗い、暗い死に体のスギ山。
根が浅くて地下水を吸い上げる力も弱く、台風がくればなぎ倒される。
それだけではない。地表は土砂崩れで大きな被害を頻発させている。
照葉樹などの広葉樹を混ぜた混合林にすると、それこそ立派な治山治水となる。自然が蘇る。
ところが治山は林野庁の仕事。これがあまりにもいい加減たった。
そして治水は、もっぱらダム造りしか考えない利権官僚の権化である国土交通省が担当してきた。国交省は、土建屋に国土を滅茶苦茶にさせ放題にしてきた。
かくて、国土の67.4%も占める山林が、国民の憩いと自然再生の場ではなく、細分化されて義務を放棄し私有権だけを主張する地主の存在によって、呪わしき公害の発生源と化してしまったのである。

2000年に発表された旧科学技術庁の「スギ花粉症克服総合研究」調査によると、スギ花粉にかかる費用は年間2860億円だという。
内訳は医療費1171億円、薬局代1088億円、労働損失601億円。
この調査は1997年からなされており、当時の花粉患者数は1300万人。それが10年たった今では2倍といわれているから5720億円はかかっているだろう。
別の試算では1兆円を超えているという説もある。

一方、林業白書によると、2004年度の木材生産額は2205億円。そのうちスギの産出額はたったの925億円。
たった925億円のスギの産出額のために、そのスギがまき散らす花粉症対策に1兆円もの大金を支払っている。
こんなバカバカしい話は聞いたことがない。
この原因は、何回も書くが、戦後の林野庁が「拡大造林」という単一樹種の密林を強行した政策の誤りに帰結する。そして、誰一人としてその責任をとろうとしない。
日本のスギを全部伐採した方が、はるかに国民のためになる。

しかし、いま直ぐすべてのスギを伐採することは出来ない。
宮崎県綾町の照葉樹を残し、早くから有機野菜づくりを行ってきた先見性。
「それらに学びながら、一日も早く公害の元凶を無くして欲しい」との筆者の心の底からの叫びに、深く同感出来る。
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2008年05月10日

推理小説よりは100倍も面白い「生命科学の謎」へ大接近



シャロン・モアレム著「迷惑な進化」(NHK出版 1800円+税)


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いや、面白いこと、面白いこと。

ヒトゲノム・プロジェクト。つまり、人間のDNAを構成する30億の塩基対の配列をマップ化するという10年計画。
これがアメリカの主導で行われ、「完全に遅れた日本は今後医薬品の開発や疾患遺伝子などの研究で決定的な遅れをとる」と報道されていた。
DNAなどの生命科学に弱い私は、その全体像が理解出来ず、当然のことながら今後の技術の進歩が見通せず、ただ「困ったものだ」とつぶやいていた。
ところがこの著書は、その難解な生命科学を面白い読み物に変えてくれている。科学音痴の私にも「なぜ」という疑問符で、最新の「生命科学の核心」にまで導いてくれる。
新しい世界を知ることは、こんなにも楽しいことだった・・・。
下手な推理小説を読むよりも100倍もの楽しみが、これでもか、これでもかと展開する。
紹介したい箇所が無数にある。
その中で、私が特に感動した数点を、章立てに関係なく「つまみ食い」状態で紹介したい。


まず、エレイン・モーガン著「女の由来」から。
他の哺乳類に比べて人間の出産はリスクが高く、時間がかかり、痛みが大。これは、人間の脳が大きく、2足歩行が大きく影響している。
4足歩行から2足歩行については、気候変動で暗黒の森からサバンナへの移行を余儀なくされたサルもどきの先祖。狩りをするために道具を使う必要と草食動物を追い、水飲み場への移動の必要性から2足歩行になった。また、サバンナは暑いので体毛をなくした。そして、使う道具が複雑になるにつれて脳が大きくなった。
貴方も、貴女も、そのように教わり、今でも信じているはず・・・。
ところがモーガン女史は、男が勝手に想像してデッチ上げたこの理論に、徹底的に異を唱えた。
2足歩行が4足歩行より早い?  チーターやトムソンガゼルに勝てるというの?
男は狩りで暑いから体毛を減らした?  じゃあ、女の方が男より毛が薄いのはなぜ?
モーガンは1960年にハーディという海洋生物学者の本を読み、水生類人猿説(アクア説)を唱えた。
「500万年から200万年前、人類は島か川岸で水生生活かそれに近い生活を長く行っていた過去がある」と。
陸上より水中の方が魚などの食料物が多く、比較的簡単に取れた。ヒョウなどの肉食動物に追いかけられたら水に飛び込めばいい。ワニに追いかけられたら岸に上がればいい。
水の中では、2足歩行でも体重の負担が軽く、まっすぐ立てば比較的深いところでも首を出して呼吸しながら歩ける。そして、息をつめて水中に潜ることも覚えた。
水生哺乳類に毛がないように、水生類人猿も次第に毛がなくなり、身体に皮下脂肪をつけ、鼻が高くなって下向きになった。
この水生生活こそが、チンパンジーやゴリラ仲間の類人猿を人間に変えた。水の中の2足歩行は骨盤の形を変え、産道が捻れて出産を困難なものにした。
しかし、水中での出産は、脳が大きくなったにもかかわらず、比較的容易であった。
赤ん坊は、顔が空気に触れた時に初めて息を吸う。息を吸う前に赤ん坊の顔を綺麗に拭いてやらないと、分娩時の汚物が赤ん坊の肺に肺って吸引性肺炎を起こす。しかし、水中で生まれた赤ん坊は空気に接していないので呼吸をしない。水中で落ち着いて顔の汚物を洗ってから水上へ出してやればいい。そして、生まれたばかりの赤ちゃんは皮下脂肪のために直ぐに水に浮かんで泳ぐことが出来る。
現在でも、水中出産は母親にとってはるかに安産だという。


WHO(世界保健機構)によると、現在地上の糖尿病患者は1.7億人で、2030年までにその数は2倍になるという。
糖尿病には大きくわけて1型と2型がある。1型は若年型糖尿病と呼ばれ北欧に圧倒的に多い。フィンランドが1位でスウェーデンが2位。3位がイギリスとノルウェー。
2型は成人型糖尿病と呼ばれ、遺伝的要因も強いが生活習慣病で85%が肥満。
体長5センチ程度のアメリカアカガエル。
冬には冬眠する。いや低い体温で冬眠するのではなく、凍結するという。
気温が氷点下に近づくと血液と組織細胞から水分を追い出す。そして腹部に集める。と同時に肝臓は血液に大量のブドウ糖を送り込み、ついでに糖アルコールも放出して血糖値を100倍にまで上昇させる。血液中の糖分を思い切り高めて氷点を下げ、カエルは「凍らない砂糖菓子」に変身して凍った状態で冬を越すという。
人間も、寒さを感じると尿がしたくなる。排尿して少しでも血糖値を上げようとする自然現象。間氷河期でも短い氷河期が北欧を襲った。このため北欧の人々は血糖値をあげるという方法を選択して、1型の糖尿病を常時抱えるようになった。
ところが、同じ寒冷地に住むイヌイットは褐色脂肪細胞という特殊な発熱組織を持っている。寒いと身震いし、血管を収縮させる。その上でさらに寒いと褐色細胞を使って熱を生み出す。
血液中の糖は、普通の脂肪細胞に届けられると備蓄されるが、褐色細胞に届けられるとその場で熱に変わる。筋肉を動かすことなく熱を生みだすことが出来る。イヌイットの漁師は零度以下になっても手が凍傷にかかることはなく、数分で10℃までに高めることが出来るという。普通の人間にはとても出来ない芸当。
熱帯地方に先祖を持つ人は、手足と胴体を同時に守るという機能はほとんど発達していない。このため、朝鮮戦争の時、アフリカ系アメリカ人の兵士は軒並み凍傷にやられた。


寄生動物には宿主をマインドコントロールするものがいる。細菌には宿主を死滅させるものもいる。マラリアは宿主を弱らせ、動けなくして蚊に刺され易くして伝染域を広める。
トキソプラズマという寄生原虫は、恒温動物のほとんどに感染するが、種の保存活動はネコの体内でしか出来ない。つまり、寄生している人間などの動物細胞内では無性生殖して自分自身の複製を作ることは出来る。しかし、有性生殖で新しい胞子嚢を生み出せるのはネコの細胞内だけ。このため、子孫を広めるために別のネコへの移動方法を考え出さねばならない。
感染したネコは胞子嚢を糞に混ぜて排出。この胞子嚢は過酷な条件でも一年間生き延びる。その間にネズミか鳥がその胞子嚢を食べると、トキソプラズマに感染する。人間もネコの糞処理の時に感染する。
動物の体内に入ったトキソプラズマは血流に乗って全身に行き渡り、脳細胞や筋肉細胞に潜り込む。そして、マインドコントロールでネズミを変えてしまう。まず太らせ、動き鈍らせる。そしてネコを怖がらないようにさせる。こうして新しいネコにネズミが食べられることで無事に移動し、繁殖する。
ネズミの脳内化学バランスを乱すのだから、人間の脳も無影響であるわけがない。
プラハのカレル大学のフレーグル教授は「女性は衣服にお金をかけ、常に魅力的に見せたいと考えるようになる。情が厚く、友人も多い。しかし信用出来ないところがあり、男性と多く関係を持つ傾向がある。そして男性は身なりをかまわず、ひとりぼっちでいることが多く、喧嘩好きになる」と観察している。


アメリカの子供の1/3は肥満児。人数では2500万人。そして2000年に生まれた女の子の40%は将来糖尿病になると推定されている。
甘いジュースや脂っこいお菓子。テレビゲームで運動をしないのが原因。
とりわけ、母親の妊娠初期の食生活が、生まれてくる子供の代謝作用に影響がある。
デューク大の研究チームは両親とも太ったマウスにビタミンB12、葉酸などを与えたところ、痩せた茶色のベビーが誕生した。遺伝学界の常識が吹き飛んだ。
茶色のマウスのアグーチ遺伝子は、本来あるべき場所にちゃんとあった。
何が起きたかというと、ビタミン成分の一部が胎内の胚に届いてアグーチ遺伝子のスィッチをオフにしていたのだ。子マウスのDNAにアグーチ遺伝子が入っていたが、「発現」しなかった。化学物質が遺伝子の指示の実行を抑制していた。このような遺伝子の発現抑制をもたらす改変をDNAの「メチル化」という。
そして、メチル化の恩恵は単にスリムな体型と茶色の毛皮だけではない。糖尿病やガンの発病にも関係していて、親よりもはるかに健康であった。
遺伝子設計図は消えないインクで書かれているという常識が、「遺伝子は不変でも指示は変わりうる」という概念に変更せざるをえなかった。
この概念を人間に当てはめると、胎児の受精直後の数日間は、かつて考えられていた以上に重要であることが明白になってきた。この時期に重要な遺伝子のスィッチが入ったり切れたりしている。頭の良い健康な子供を授かるにはこの時期が大切。
この時期に母親がジャンクフード中心の食事、つまり高カロリー、高脂肪で栄養分のないものを食べておれば、胚は、これから生まれてくる世界は食糧事情が悪いという信号を受け取る。このため、少ない食料で生き延びられる身体の小さな赤ん坊をつくる。
そして、栄養分の乏しい体験をした胎児は節約型の代謝を発展させ、体内にエネルギーを蓄積しやすい身体になる。つまり、肥満型になる。
これは、何も母親だけの影響にとどまらない。喫煙習慣のある父親の影響は精子に伝わり、毒素の多い外界に生きるために精子が節約型になるという。

これとは別に後成遺伝学(エビジェネティクス)という初の一大プロジェクトが始動を開始した。
それは、ヒトゲノム・プロジェクトが「人間を作るに必要なマニュアルの全ページが完成した」と10年間の成果を高らかに宣言した時と同時であった。
そして、ヒトゲノム・プロジェクトのメンバーは、自分たちの苦心作の地図が、ゴールではなく、単なる出発点にすぎないということを思い知らされた。
「ご苦労様。地図を有難う。でも、どの道が閉鎖していて、どの道が通れるかが分からないと、この地図は使えないよ」と。

まだまだ紹介したい箇所が多いが紙数が尽きた。
購入して一読されることを強くお奨めします。
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2008年03月30日

電磁波公害に対する静かな客観的指摘に共感!


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松本健造著「告発・電磁波公害」(緑風出版1900+税)

今まで書店へ行くたびに電磁波関係の本を漁り、何冊かを読んできた。
しかし、ほとんどが船瀬俊介氏と同じ口調でのIHヒーターとケータイに対する一方的な非難記事が並んでいるだけ。
実態を調査し、精緻な活きたデータによるものが少ない。
船瀬氏のIHヒーターに対する批判などは、単にガス会社の「代弁」にすぎない。
いわゆるチョウチン持ち。

電磁波公害は、厳然としてある。
電磁波過敏症の罹災者は間違いなく存在する。
しかし、北里大学病院などでしか患者を特定する能力がなく、ほとんどの患者が原因不明の難病として扱われ、放置されている。
その罹災者の実態は、身につまされるほど悲惨。

したがって必要なのは、大向こうの受けを狙って大声で叫ぶのではなく、その実態を静かに調べて公表すること。それだけで多くの人々の共感を呼び、自動的に社会的な解決策が図られてゆく。
その地道なフィールドワークが日本にはない。
「だったらお前がやればいい」と言われそう。
ある罹災者の相談を受けた時、北里大学の石川先生や宮田先生の力を借りて実態調査をやってみようと考えたことがある。
しかしそれをやるには、私にはあまりにも電気工学的な知識と医学的な知識がなさすぎることを思い知らされた。
そして、私の関心事はそうした罹災者が安心して住める「家づくり」の方により関心が高いことも自覚させられ、身をひいた。

この著書は「告発」と書いているが、やたらと電力業界と電気メーカーをやり玉にあげてはいない。むしろやり玉にあげているのは貴重な「疫学調査」の内容をすり替えて、問題点を矮小化して25年間の空白を招いた文部省の役人ども。
この点が、いままでの電磁波関係の本とは根本的に違うところ。
そして、最初に3つの現場からの実態報告から入っている点が、好感が持てる。

まず、第一の現場は「超低周波」の現場。
奈良市の5階建てのマンションの2階を買ったYさん。1階に関西電の変電装置があるとは知らなかった。寝室では体調が悪くなり、居間で寝起きするようにし、寝室を長女の部屋とした。ある日、友達が電磁波測定機を持ち込んで寝室の電磁波を測定してくれた。50ミリガウスを越える数値を示した。しかし、マンションの管理人もマンションを建設した大手ハウスメーカーも、関西電も、その対応はいいかげんなものだった。
そして、東京多摩地域に引越したら、長女の体調は目に見えてよくなった。だが、電子レンジを使うと今でも気分が悪くなり、身体がだるくて横になって休むという。

日本で住宅の真上を通っている高圧送電線のある風景は、見慣れた光景。
電力業界と国は「電磁波の健康への被害はない」と言って一切規制をしていない。
私の知っている小学校の教師は、高圧送電線下の分譲住宅に住んでいて、電磁波過敏症になった。
この著では、送電線の下から住宅を18メートルも移動させた山形・川西町のMさん。東京・東大和市で小児白血病多発地域に住むOさん。それに群馬・桐生市で一家が電磁波過敏症になったIさん一家の3例を取り上げている。

第二の現場として電磁波過敏症の人々をとりあげている。
前橋市の主婦Tさんは「シールドクロス」という電磁波を反射する銀粒子を表面にコーテングした布を頭に巻かないと外出出来ない。
渋川市の主婦Hさんは、脳梗塞で入院した夫の個室が電気室の隣だったので、介護に通っているうちに電磁波過敏症になったという。
伊那市のSさんは、99年に250メートルほど離れた山頂にNTTドコモの中継基地が建てられてから長女の健康がおかしくなった。自宅前の畑の側で、タンポポやオオバコの葉が通常の二倍以上の大きさになり、四つ葉のクローバが五つ葉から六つ葉になったり、頭が3つにわかれたりした。
木曾・駒ヶ岳のふもとに、02年に高さ50メートルのボーダーフォンの基地が建てられてから300メートル以内に住む人の中で、倦怠感や頭痛、不眠などの健康障害を訴える人が急増した。
そしてここでもタンポポなどの奇形が発生しているという。「植物のもがき苦しむ姿は、住民の苦しみを代弁してくれているのではないか」という。

電車に乗ると気分が悪くなるので電車通勤が不可能になり慶大非常勤講師の職を失った船橋市の女性。
東北大の本堂助手の「多くの乗客が持つ携帯電話の電磁波が車内で重なって反射しあう危機」という論文が、欧米で話題を呼んだ。50人の乗客が携帯電話を持っていると、車内の電磁波強度は増幅され、WHOが定めた基準(5W/u)の2倍になるというもの。そして、これはエレベーターの中でも起こり、虫歯に水銀アマルガムを詰めた人も携帯電話で電磁波過敏症になるという。

第3の現場は職場。
多摩市の市立図書館で図書の無断持ち出し防止のための防止装置を設置したところ、館員34人のうち19人が症状を訴えたという。
このほか核磁気共鳴装置をつけた研究室での獣医の例や、いろんな危険なオフイス例。さらには電力、鉄道、加熱電気炉、医療、溶接、家電、自動車など電磁波の発生が大きい職場が取り上げられている。

ここまで読んできて、どうにも気になったことがある。
たとえば高圧送電線の下の住人の健康状態の実態調査がなぜ行われて来なかったのかという疑問。いくら電力会社や経済産業省が口先で大丈夫だと言っても、科学的なしっかりとした裏付けがないと信用するわけには行かない。これだけ情報が発達した現代、いい加減なデータで国民が認知するわけがない。社会的な責任の重い電力会社とあろうものが、調査をやっていないわけがない。
1979年にアメリカのワルトハイマー氏らが「送電線の側では小児白血病の患者が多い」という報告があって以来、世界各国で多くの調査がなされてきた。
日本でも1999年から国費7億2000万円を投じて、全国245の病院が協力して小児白血病患者の調査が行われていた。
その結果、4ミリガウス以上の電磁波を浴びた子供の白血病発生率が2.6倍、急性リンパ性白血病に至っては4.7倍という調査報告が出されていた。
ところが、この報告書を文部科学省の役人が、勝手に矮小化してしまった。

そして昨年の6月、WHOは新環境保険基準を発表し、予防対策をとるように各国に勧告を行ったという。その新しい基準の基になったのが日本の調査結果だったという。日本の文部省が真実を隠そうとして矮小化したデータが、世界のどの疫学調査よりも精度が高かったからと言う。

パソコンなどの電磁波はアースをつければ問題が解消すると言われている。あの電気毛布やIHヒーターにしても、電磁波の心配がないものが開発されてきている。
やたらと危機感を煽る必要はない。
しかし、高圧送電線下や携帯中継基地周辺の実態、閉じこめられた空間での携帯の電磁波問題などについて、徹底した「負の実態調査」がなされるべきである。その報告がないかぎり、電力会社の社員がそうであるように、電力会社や通信会社の発表文を、本心から信用するわけがない。
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2008年01月05日

魂のヒダまで洗われ、いやされる〈ほのぼの野生動物記〉


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竹田津実著「タヌキのひとり  森の獣医さんの診療所便り」(新潮社 1400円+税)

あけましておめでとうございます。
今年は洞爺湖サミットの年。
新春早々から温暖化対策だとかパッシブハウスだとか・・・大きな叫び声を上げると考えておられることでしょう。
ところがどっこい。
今年は、心安らかにスタートを切ることが出来ました。
暮に何とはなく手にとったのが表記の、写真集のような薄い本。
これが魂の襞にこびりついていた経年の汚れを洗い流してくれ、すべてのストレスを吹き飛ばしてくれたからです。
実に穏やかで、なごやかな気持ちで新年を迎えることが出来ました。

その慶びを、独り占めして悦に浸っているほどの悪党ではありません。
このほのぼのとした気分を、是非ともみなさまにもお裾分けしたい。味わって頂きたいとの思いが突き上がってきました。
こんな気分になったのは、一体何年ぶりのことでしょう・・・。
それほど静かで、優しいインパクトに満ちています。
新春の第1弾を飾るには、これ以外にないというほどの感動が・・・。

筆者は1937年生まれ。動物園の園長になりたくて獣医学科を選んだが、獣医になれても園長にはなれないと分かって夢が消えました。そして、北海道の知床に近い小清水町の家畜診療所に赴任し、28年間勤め上げて91年に退職。
しかし、園長にはなれなくても家畜以外の動物に接する夢は捨てることが出来ず、勤務の傍ら1972年より野生動物の保護、治療、リハビリに取り組んできています。
映画化された「子きつねヘレンがのこしたもの」をはじめとして「家族になったすずめのチュン」「野生の伝言」「野生動物診療所」など20冊にも及ぶ著作があります。
そして、2004年に旭川空港の東部に位置する東川町の森の中に、借金をして野生動物リハビリセンターを開設しております。

最近は動物病院が大はやり。
飼い主にも動物たちにも感謝されながら、優雅に定年後の院長生活を楽しんでいるのだと考えがち。
ところが相手は野生の動物たち。
飼い主がいないから、いくら保護をし、治療をし、リハビリに励んでも誰も診療費を払ってくれません。
童話の世界では鶴が恩返しをし、亀が浦島を竜宮城へ連れていってくれますが、現実の野生動物は治療を感謝しないどころかお礼参りをするそうです。
そのさわりの一節を紹介します。


普通、タヌキは6〜8頭の子どもを生む。
患者のエゾタヌキの母親は、ストレスが原因で流産したらしく、一頭しか子どもを生まなかった。「一人っ子」だから名前を「ひとり」と付けた。
このひとりの母親はすごい武勇伝を持っている。

獣医師というのは不思議な職業。
助けた患者から感謝されることはない。
「ありがとう」と言われるのは患者の飼い主。それも予定より治療費が安い時くらいで、それ以外は、言葉は「どうも・・・」だが顔は引きつっていたりする。
まして言葉の通じない患者は、苦しんでいるのに検査と称してあちこちいじくり回し、患部をぎゅっと掴んでおし広げる。重症以外は麻酔をかけることがないから、どこをどのように傷みつけられたかをはっきり覚えている。
「こうすれば治るからね・・・」という言葉が通じない。だから数々の恐怖を与える治療を虐待と思い、恨みを募らせるのは当たり前。

ひとりの母親は、事故のために何度かの手術が必要であった。
彼女にとっては、私は天敵以外の何ものでもなかった。
常に復讐のチャンスを狙っていた。
白内障で目はあまり見えないが、その代わりに嗅覚が鋭く、夏の暑い日に二階の窓をあけておくと、外に漏れる私のわずかな体臭が、彼女の積年の恨みを刺激するらしい。
私一人が家に残っていたある日、外でのんびり昼寝をしていたはずの彼女が、どこをどうたどってきたのかは判らないが、二階の私の部屋にしのび寄った。

気配に振り向くと、瞳孔をいっぱいに開け、四肢をグッと張り、細い鼻をクンクンさせて襲いかかろうとするタヌキの姿。
「ウヘー」と声をあげた時、彼女は私の足を目がけて突進。両足を机の上に上げようとしたが片方のジーンズにかぶりついた。ただ、噛んだのはジーンズの端で、ぶらさがった恰好になったので、とっさに机の上にあった本で彼女の頭を思い切り殴り、急いで机の上に退避した。
頭を叩かれて怒りくるった彼女は突進してきてイスの脚をかぶりと噛んだ。キリキリと金属の脚が悲鳴をあげた。ゾッと背筋が寒くなった。
イスの脚だと気づいた彼女は、今度はクッションに飛びかかりズタズタに食いちぎった。

しかし、机の下に潜り込み、ちょっとでも動くとカタカタと歯を鳴らす。私はその音に震えあがっていた。しかし、誰も居ないので助けが呼べない。
そのうち20分もしたら彼女が居眠りを始めた。やれやれと反応をたしかめ床の上に降りた。そり時、文字通りタヌキ寝入りしていた彼女が「フー」という低い声で戸口の方へ動いた。
私はとっさに戸口と反対の方向へ逃げた。しかしそこは突き当たり。ただ、有難いことには押入れがあるのを思い出し、その中に飛び込み、戸を閉めてなんとか難を逃れた。そして、押入の中で数時間、遠い子どもの時のような時を過ごした。

生まれたばかりのひとりは、ほとんど私の部屋で過ごし、飼い猫のニャーを母親のようにして育った。
秋になると、数多くのいろんな入院患者が、リハビリ小屋からはるか南20キロの防風林の中へ退院してゆく。
野生動物は無主物。
誰のものでもない代わりに、個人が勝手に飼育することは法律的に許されない。それが診療所であっても、健康個体を人間の世界に置くことは違法行為で、役人が咎めにくる。
成獣となったひとりも何度となく退院を強要したが、いつの間にか戻ってきて車の上で丸くなって眠っていた。こうして居残りタヌキとなった。
このひとりの、楽しくて怪奇な成長物語がつづく。

そして、ひとりが16才、人間で言えば100才を越えた時、カミさんはひとりの居場所を玄関から私の仕事机の下に移した。
母親同様にひとりも、私が嫌いだった。老齢で転んだりするのを私のせいだと考えるようになり、やたらと私の足を噛もうとした。しかし、そのたびに私はヒラリと体をかわした。居場所の移転は、なんとか最後に仇討ちをさせてやりたいというカミさんの親心。
ある日、居眠りしていた私のほっぺたを、ひとりがガブリと噛んだ。あわてて飛び起きた私の驚きぶりに満足して、ひとりは知らん顔をしてスタスタ離れていった。
ひとりは知らなかった。老いたひとりの犬歯は、機能を失ってしまっていることを・・・。


このほかにノネズミ、キツツキ、ネコ、シマリス、モモングア、カモ、キツネなどの楽しい話が、幻想的な美しい写真とともに展開します。
多忙な日々を忘れ、ファンタスチックな世界に、是非遊んでみてください。
posted by unohideo at 15:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 病気と医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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