2008年12月25日

肥満と調理とシャワーと   ドイツパッシブハウス調査(15)



今年、日本では「メタボリック症候群」ということがやたら叫ばれた。
医者は、口を開けば「少し太り過ぎ。もう少し痩せる努力をしましょう」という。
オムロンの、体脂肪も計れる「体重・体組成計」で測定すると、実年齢よりも10才も若い年齢が表示されており、小太りの方が良いはずだと思う。それなのに、藪医者め様が言うことには…。

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上の図を見て頂きたい。
これは7〜8年前に調査されたOECDの肥満度の国際比較。先進国の中ではアメリカが圧倒的に肥満度率が高く、ドイツも12%以上。これに対して日本は最低の3%台。
メタボリック症候群など心配する必要はサラサラないという気がするほど…。
そして、よくよく眺めてみると、上位の各国はいずれも食べものが不味い国だということが分かってくる。

アメリカの代表的な食べものというとハンバーガーと草鞋のようなステーキとポテトチップス。食事と言うよりはボリュームだけのエサ。
イギリスも、どうしょうもない。
カナダは、香港から名のあるシェフが数多く移住したので大都市では中華料理が抜群に美味しく、日本料理店も多いので食事の心配はない。
しかし、ドイツとオーストリアは、その中華料理までが地元の舌に迎合して極端に不味い。
かつて3回ドイツを訪れているが、いずれも2泊程度。
それだったらジョッキーとアイスバイン(Eisbein、ブタの骨付きスネ肉を茹でたもの。これに塩漬けで発酵させたキャベツが山盛りについてくる。プリプリのゼラチンとキャベツのピリ辛味が絶妙)で十分に凌げることが分かった。
しかし6泊ともなると、何を喰っても単調で同一な味付けがこたえてくる。

これに対して、食事が美味しい食いしん坊天国のフランス、イタリア、韓国、日本は肥満度が低い。美味しいものを少しずつ食べる方が、肥満にならない。

しかし、ドイツをはじめ各国の名誉のために書き加えておかねばならない。
昔のヨーロッパの朝食はパンとバター、ジャムとコーヒーだけ。
味もそっ気もないものだった。
それが、どの国でもバイキングスタイルに変わり、自由に好きなものをチョィス出来る。パンをはじめ生ハム、ソーセージ、チーズ、牛乳、ジュースが大変に美味しい。ヨーグルトも中に入れる木の実の種類も豊富で、果物も新鮮で充実している。
洋食の朝食に関しては、日本のそれを上回っている。
夜は我慢。そして、朝食を腹一杯に詰め込むのがドイツ旅行の裏技。


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上の図は主要国の世帯当たり消費エネルギーの比率。
この表からはいろんなことがわかるのだが、とりあえず各国の年間調理エネルギーを見てもらいたい。
料理の不味いイギリス、スウェーデン、ドイツがいずれも2ギガジュール。
これに対してフランスと日本は倍の4ギガジュール。
イタリアが3ギガジュールと少ないのは、気軽に利用出来るバールがどの街でも早朝から開いており、多くの人がそこを利用しているからなのだろう。夜はマンマの手作りの夕食が待っているはず。
ただ、あのアメリカが4ギガジュールというのは納得出来ない。電気ヒーターを消すのを忘れているからではなかろうか…。

ともあれ、ドイツはシステムキッチンの国。
ボーゲンポール、ミーレ、アルノなどが、多くの女性の心をくすぐってきた。
そのシステムキッチンが、ドイツではそれほど頻繁に使われていないらしい。
アメリカのように、オーブンやレンジでチンするだけではなかろうが、使われ方が少ないシステムキッチンは、いつまでも美しい。

20年前まではインテリアコーデネィターに頼まれ、主に居間と台所を片っ端からカメラに納めてきた。
しかし、今ではそういったインテリア情報は溢れていて、ドイツのシステムキッチンの写真だといっても誰も手を出してはくれない。
したがって、システムキッチンの写真はほんの数葉だけ。

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そして、もう一つ少なかったのが浴室の写真。
ジャグジーやエアブローはもちろん、木の浴槽もない。
大体、バスタブそのものがない。
あるのは、下の写真のような簡単なシャワールーム。

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ここでもう一度、上の主要国の世帯当たり消費エネルギー比較図を見てもらいたい。
給湯に使っているエネルギー量が最も多いのがイギリス。
ともかく、イギリスの子女のお湯の浪費は有名。テレビで何回も紹介されているが、いくらなんでも18ギガジュールというのは、使いすぎ
ついでアメリカ。
アメリカという国はガソリンなどの税金が極端に低い。このために価格が非常に安く、浪費癖が身に滲み込んでいる。ガソリン税、電気税、ガス税を上げない限り、誰が大統領になろうが、アメリカ人のエネルギー浪費癖は、絶対に改善されないだろう。

これに比べて、フランス、ドイツ、イタリアのなんと慎ましいお湯の使用量。
つまり、ほとんどがシャワーだけで済ませている。
このために、200リッターのコンパクト・ユニットが堂々とドイツ、オーストリア、スイスで高いシェアを占めていた。
いずれも世帯当たり給湯量の平均が7ギガジュールの国。

パッシブハウスは、このドイツで生まれた。
このため、暖房で15kWh/u、給湯が6kWh/uというコンセプトが生まれてきた。このコンセプトをそのまま日本へ導入するのは、どだいムリと思う。
日本では、ドイツの2倍、すなわち14ギガジュールの給湯を使っている。
シャワーだけでは絶対に済ますことが出来ない。
やはり、肩までお湯に浸からないと疲れが抜けない。
全館空調換気の住宅が少ない。このため夏は高湿度で寝汗をかくし、冬は部分暖房で筋肉が硬くなっている。お湯に浸かって筋肉をほぐしてやらないと熟睡が出来ない。ストレスも一向に解消されない。
したがって、日本がドイツと同じパッシブハウスの基準で、第一次エネルギー120kWh/uaを達成するのは困難だと考える。

日本は主要電力として、ドイツのような反原発ではなく、原発主体の方向を選んだ。
原発に反対する政党もなければ、民間の草の根運動も見当たられない。
ということで原発が中心になる以上は、深夜電力を有効に使わねばならない。
当然、割引料金が今後とも適応されてゆくだろう。
深夜電力を使うエコキュートの料金は安い。月2000円以内で上がる。
しかし、第二次エネルギー量は、給湯だけであっという間に20kWh/uaを突破してしまう。
太陽熱温水器とエコキュートの効率のよいハイブリッドシステムが開発され、安い価格での普及がない限り、ドイツ生まれのパッシブハウスは、日本では給湯面で頓挫してしまう可能性が高い。
それに加えて、上の図で、家電のエネルギー消費量がドイツ7GJに対して日本が11GJと57%も多いのも気になる。各部屋にテレビとパソコンがあり、テレビゲームに熱中している日本。
パッシブハウス研究所は、第二次エネルギーで家電を11kWhと抑えているが、如何に省エネ家電の開発が進むからといって、日本がこの数値を達成するというのは容易なことではない。
つまり、第一次エネルギー120kWh/uaは、遠い将来には可能であっても、近未来の目標値になりえないのかもしれない。

こういった多面的なことが、今回の調査で分かった。

往復に各12時間も要する空の旅。
実質7日間の短期調査で、15回にもわたって分かったようなことを書いてきた。
中には思い違いや勘違いがあるだろう。
ただ、今までに日本へ紹介されていなかったいくつかの点が解明出来たのは、仲間の難しい要望に応えて優れた訪問先をアテンドしてくれたバウマンさんの努力に負うところが大きい。
と同時に、同行の熱心な仲間の皆さんと、車の中でもホテルでも、また食事の時も議論を重ね、帰国後も多大なヒントと貴重なサジェスチョンを頂いたおかげ。
そして、帰国後に長期間にわたってhiroさんとMiwaさんと、トライアングルのメール交換をさせていただいたお陰でもある。パッシブハウス研究所の優れた点と問題点が、おぼろげながら見えてきたのが大変に有難かった。

パッシブハウスの調査が目的だったが、いきなりドイツの木質構造という予想外の大金脈にぶち当たって戸惑った。
残念ながら予備知識不足のため、この大金脈のほんの表面を撫でてきたにすぎない。
アメリカのような生産性一本ヤリではなく、日本並みか、場合によっては日本以上のきめ細かい施工精度を持っているドイツの木造住宅。
そしてクォリテイは、日本よりはるかに優れていると直感させられた。

どうか、私共のささやかな調査を足がかりに、多くの識者によってドイツの木質構造の全体像と、地場ビルダーの実態と、住宅に関連する各マイスターの具体的なカリキュラムと技術レベルを、併せて解明されることを期待したい。
と同時に、超高性能なサッシや換気機器の開発に、是非とも目覚めて頂きたいと衷心より関係各位にお願いしたい。
  (完)
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2008年12月20日

日射取得と日射遮蔽   ドイツパッシブハウス調査(14)



NHKの国際部を若くして退き、ミュンヘンに移住し、ドイツに関する著書を10冊余書いている熊谷徹氏。10年前に出版された「住まなきゃわからないドイツ」は面白かった。
曇天か雨の日が続き、やたらと夜が長い冬期。
ヨーロッパでは冬が雨期。春がくるということは雨期があけるということ。
春を迎えた時の人々の喜び。
太陽に対する飢餓状態から解放され、裸で日光浴をする女性。
表日本に住んでいる日本人には、ドイツ人の太陽に対する焦がれる想いが理解出来ない。

春や秋は、目一杯に太陽の光が射し込むように、やたらとガラス窓の大きな家が多い。
どんなに高性能な4-16-4-16-4のトリプルで、クリプトンガス入りのガラスであっても、熱貫流率(K値)は0.5Wが最高だろう。見てきたような0.15Wの外壁に比べると、熱損失は3倍以上と大きい。
パッシブハウスという15kWh/uの断熱性能を追い続ける合理的精神の持ち主であるドイツ人。
当然のことながら出来るだけ開口部を小さくするはずだと思うのだが、そうはゆかない。太陽教信者たちは、競って大きな開口部を求める。これはもう、宗教的というしかない。
つまり、太陽の光に対しては理性が働かない。
だだっ子のように、むやみとガラスをねだる。

そして、ドイツの戸建て住宅の最大の特徴は、南側にではなくて西側に大きな庭を設け、バルコニーやベランダを設けていること。
ヨーロッパのサマータイムは、3月の最終日曜日から10月の最終日曜日までの7ヶ月間実施される。正に、太陽の季節。
この季節、サラリーマンはいそいそと帰宅し、西日を浴びながらベランダでバーベキューをするのが最大の喜びであり、楽しみ。
ドイツ人は夕日族でもある。


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フランクフルト市の郊外に建てられていた高校教諭のW邸。
宅地そのものの形状が日本とまるっきり違う。道路づけが東側で、東西に長い敷地。南北は日本ほどではないが、かなり密集している。
したがって、プライバシーを守るということもあってか、写真のように右側の南面には開口部らしい開口部がない。主な開口部は妻面の西壁に付けられている。
日本人から見れば摩訶不思議な家。
そして、奥まった西側には広い庭がある。
そこに、奥行きが5メートルはあるウッドデッキが敷かれ、バーベキューが出来るテーブルと木のイスが置かれている。
そして、これまた長さが4メートルはあろうかという日除けが付けられている。これはご主人が日曜大工店から60万円で買ってきて、自分で取り付けたという。

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こんなふうに、ガンガンに西日が入る窓だから、夏場のことが心配になる。
どうしているのかとサッシをよく見たら、全てのサッシがブラインド付きであった。
北側のトイレの小さな窓にも…。
このサッシは、一番外側に単板ガラス入りのアルミサッシがついている。
その内側に手動のブラインドが内包されている。
そして、逆光で見にくいが、内側にアルゴンガス入りのペアのウッドサッシが入っている。
最近、この種のサッシがスウェーデンでも造られているらしい。スウェーデンホーム・ジャパン(スウェーデンハウスではない)が、これと同じようなサッシを採用している。

このサッシの良いところは、外がアルミサッシだから雨風による退化とかメンテナンスの心配が少ないこと。そして、全てブラインドを内包しているから、直射日光を遮ることが出来る。
そして、内側に高性能のウッドサッシが入っている。
外側のサッシがアルミの単板ガラスだから、ブラインドで反射された熱は、こもって内側のウッドサッシ側に伝わるよりも、熱伝導率の良いアルミと単板ガラスの方へゆく。
そして、足立博氏の受け売りだが、もし内側のウッドサッシの熱貫流率が1.0Wであるならば、アルミの単板ガラスを含めた全体のK値は0.85W程度になるらしい。

この一体型のサッシではなく、関東以西では内側のウッドサッシだけが内側に開くことが出来るサッシが欲しい。それがあると、夏の夜や中間期に外気温度が低くなった時、内側のサッシを開けておくと内部の熱が単板ガラスのアルミサッシから逃げてくれる。
換気のバイパス機能と同時に、放熱可能なこのようなサッシが開発されたならば、東京以西の冷房負荷がかなり大幅に減らすことが可能。

夏の夜、外気の温度が下がれば窓を開ければいいと言うワカランチンが未だにいる。
外気の絶対湿度が13g以下の時以外は、絶対に窓を開けてはならない。
夏期に27〜28℃の設定温度で生活をするためには、絶対湿度が12g以下であることが望ましい。高性能のペアガラスで逃げない熱を逃がすには、うまい考えだと思う。
また、これだと都心に多い準防地域でも、アルミサッシに網入りガラスを採用することでクリアーすることが出来る。まさに一石三鳥。
しかし、日本の大手サッシメーカーは、生理があがった女性のように新しい命を生む能力を完全に失っている。したがって相手にしていたのでは日が暮れる。パッシブハウス研究所のファィスト博士を真似て、ビルダー自身が中小メーカーに働きかけ、こうしたサッシの開発を促してゆく必要があると思う。
サッシでベンチャー企業を興したいというサムライを募集中!!!


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話が脱線した。
これはバウマンさんの新居。
13kWのサンヨーの太陽光発電が搭載されている。
政府の高価格での買電政策で、昨年は110万円の売電になったという。設置費の840万円は、8年以内に償却出来る勘定。200年住宅よりも、この政策の方がメリハリが効いていてはるかに効果的。
そして、手前側が南面で、左側の西面にバルコニーとベランダがついている。
そして、全ての窓にアルミのブラインドシャッターが付いている。
20年前に玉置宏邸のR2000住宅関東地域第1号に採用した。だが、日本ではいつの間にか姿を消してしまった。厚い壁の中に、ブラインドシャッターのボックスを内蔵させるのがコツ。このために非常にスッキリ出来上がっている。それだけに懐かしく感じた。

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これは、ミュンヘンのモデルハウス。
直射日光が当たる全ての窓にブラインドがついている。
そして、収納ボックスが現わしになっているが、デザイン的にうまく処理している点を見て貰いたい。どこかのメーカーの野暮ったいものは絶対使いたくないが、これだったら採用してもいい。

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しかし、他のメーカーは、ほとんどが収納ボックスを厚い壁の中で処理していた。
サッシの外側で日射を遮蔽している。

日本の昔の住宅は、ほとんどが雨戸付きであった。
3ミリガラスで、台風が来たらたまったものではない。したがって、雨戸が木の建具の場合には不可欠だった。
それが、網入りガラスが登場したり、遮熱のペアガラスが登場したりして、いつの間にか雨戸はデザイン的にダサイという風潮になってきた。
そして、私などにも責任があるが、プロバンス・スタイルということで、ケラバの出の小さいデザインを普及させてきた。さらに、近年のシンプルモダンの流行。
その結果、現在の日本の住宅は、ことごとくと言っていいほど日射遮蔽を無視している。

今回のドイツの旅で、日本よりも日射の弱いドイツが、「ここまで日射遮蔽にこだわっているのか」と打たれた。もっとも、これはドイツの家にエアコンが入っていないせいでもあるのだが…。
夏が乾期のヨーロッパでは、相対湿度が低いので直射日光を遮りさえすれば、エアコンはほとんど不要。そのエアコンの設置費とランニングコストに相当するのが外付けのブラインドだと言えよう。

日本のエアコンの性能は世界一。香港へ行ったとき、タクシーはほとんどドイツ車なのにびっくりした。しかし、エアコンの効きが悪いのに呆れた。同じ思いをした人も多いと思う。
トップランナー方式で、日本の個別エアコンのCOPは6.5を超えるものが出回っている。
その性能にオンブして、われわれ住宅屋が日射遮蔽をサボってきた。アメリカやカナダのホームビルダーも軒並みサボっていたので、それが当たり前で許される行為だと考えていた。

ドイツで、そのことを深く、痛く反省させられた。
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2008年12月15日

中堅の住宅工場見学記   ドイツパッシブハウス調査(13)



ドイツの木造住宅が4万戸から5万戸はあるらしいということが、なんとなく分かった。
しかし、その中で戸建てと分譲の比率がどうなっているのか? 
大手と地場ビルダーの比率はどうか? 
あるいはプレハブとプレカットの比率がどうなっているのか?
そういったことは、さっぱり分からない。
この解明は、これからドイツを訪問する人々の課題として残して置こう。

私が見たかったのは、パッシブハウスに特化し、年間20戸から40戸程度をこなしている注文住宅専業の地場ビルダー。
どんな客層を対象に、どれだけのスタッフで、どんなコンセプトで、どんなセールスツールで、どの程度の価格帯で、どれだけの生産性を上げているか?

日本の工務店関係の業界紙に、時折大きく取り上げられている工務店。そのいくつかを読んでみるのだが、内容的にがっかりさせられる場合が多い。同じことで、日本のビルダーにとってモデルになるようなドイツの会社が簡単に見付けられる訳がない。大きな期待を持ってはいけないと自分に言い聞かせていた。
そんな時、バウマンさんが「木造住宅のベンツと呼ばれている会社がある」という朗報をもたらしてくれた。年間270戸程度をこなしている地場メーカーだという。
東北の北洲ハウジングに匹敵する規模。
「住宅会社のベンツ」と聞かされた以上は、断る理由はない。
レッツ、ゴー!


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訪れたバウフリッツ社。
雨戸か日射遮蔽パネルかは知らないが、意表をつくファサードを持ったセンター棟に案内された。中に入ると、歴代の首相が同社を訪問した折の写真パネルがずらりと飾られていた。
「木造住宅のベンツ」という評判は、ここらあたりから出たものらしい。
同社は、大工だった先祖が120年前に創設した会社。82年前にハウスビルダーの看板をあげた。
高気密高断熱住宅に本格的に取り組んだのが30年前。「同じ時期に同じことを考えたのだな…」ということで親しみがわいてくる。
敷地はやたらと広く、4〜5万uはあるらしい。そして1.5万uにも及ぶ最新鋭の工場を持っている。その工場労働者を含めて従業員は250人。これで年間270戸の住宅を製造・販売している。売上げは80億円弱というところ。
工場労働者と、住宅会社としての営業、設計、監督の比率を聞くのを忘れた。
だが、工場としてみても、また住宅会社としても、生産性は悪くないと売上高から勝手に想像した。私の勘は案外当たる。

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最初に案内されたのは創立111周年を記念して、従業員から募集した111のアイディアが随所に散りばめている記念棟。敷地が広いから何でも出来る。
その中でとくに面白いアイディアは、ベッドをバルコニーへ簡単に移動させることが出来るシステムと、気密性を考慮した特殊な引き違い戸。このアイディアはなかなか。


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さて、いよいよ工場見学。
当然のことながら撮影禁止。
そこで、会社案内書から上の写真をコピーした。しかし、これでは工場のすごさが伝わってこない。
工場は、完全にコンピューター管理されている。
集成材の20インチ×50インチ×67フィート(50cm×125cm×20m)もあるような大梁が架かっている天井の高い広々とした木構造の工場。そこに、最新の設備が並んでいる。
しかも、従業員の密度が低く、日本の工場を見慣れた目にはスカスカに感じられる。

そして、一番大きなパネルはこんな風に生産されていた。
スタッドは7.5cm×29cm。ピッチは60cm間隔。
この壁枠組の外側に1.6cmと2.5cmの異なる断熱材を重ねて張り、裏返して枠の中に断熱材を一杯につめる。
そして、内側には断熱材を抑えるようにして1.2cmの電磁波ボードを施工し、さらに調湿シートを施工。その内側は3cmの配線配管空間をとり、そして1.8cmの石膏ボードで仕上げてゆく。
これを吊り下げて裏返しにして、外側に仕上げの2.5cm厚の無垢の木質サイデングを取り付ける。
かくて壁厚はなんと約42cm。長さが5mにも及ぶパネル。これがクレーンに吊られて自在に移動している。

私はトヨタホームの春日井工場とセキスイハイムの岩見沢工場を見学している。
トヨタホームの工場は、それこそ毎日の「カイゼン」運動の結晶体。1つのムダもないように見えた。しかし、20年も前に建てられて減価償却の済みの工場だから、設備が古い。いくら改善を加えてもシステム的に限界がある。
また、セキスイハイムの工場は「シェダン」という最高レベルの性能のQ-1.0W住宅を生産していた。しかし、その設備とシステムも古く、生産性は予想以上に低く感じた。
この両工場は、日本を代表する工場加工度が最高のプレハブ工場、のはず。
それなのに、ドイツのこの中堅メーカーの工場に比べると、なんと見劣りがすることか。情けなくなるほどの生産性の低さ…。


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この工場は、木材の加工段階で生じる木片や木屑を、全てカンナ屑状にして、脱水と脱タンパク質処理か薬品処理か分からないが完全に処理を行い、断熱材として全面的に利用していた。特許をとっているというカンナ屑状断熱材の功罪をここでは問はない。問題にしたいのは木材の加工精度。
上の写真で分かるように、枠材は単なる突き付けではない。もちろん全ての仕口や継ぎ手がこうだというのではない。突き付けのところもある。しかし、家具並の加工を行っている。この断面を見た時、「負けた」と感じた。こんなパネル工場やプレカット工場は、日本はもちろん、北米でも北欧でも見たことがない。
日本の鉄骨プレハブの工場よりも、ドイツの木質構造の中堅のプレハブ工場が、私にははるかに魅力的に感じたのは、偏見だろうか?

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そして大型のパネルは、大型のトレーラーで現場へ運ばれ、大型のクレーンで吊り上げられて施工される。電線が地下埋設なので、作業は至って簡単。また、地震がないので、大型パネルとパネルのジョイント部分は、日本のようにやたら神経質になる必要がない。
そして、これだけの精度とパッシブハウス並の性能を持った住宅の平均販価が、同社の売上げから逆算すると1戸3000万円以下。もちろん、この価格には地下室工事は含まれていないが…。


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最後に、同社のモデルハウスを見学した。

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まん丸のサッシを綺麗に納めるために、工場でどんな下地加工を行っていたかを想像していただきたい。

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大きな一枚ガラスの引きこみ戸。
プレハブ住宅で、この吊り込み作業はどのようにしてやるのだろうか?
いくら考えても、未だに答が分からない。

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現わしの回り階段。
このモデルハウスだけでなく、どのモデルハウスでも現わし階段の納まりには感心させられた。
ドイツのマイスターの資格を持つ造作大工さん。
一体、どのような教育と訓練を受けているのだろうか?
日本の若い職人さんで、ドイツの造作大工のマイスターの資格に挑戦してみようと考える人が、1人か2人は出てほしいと願うのだが…。


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2008年12月10日

換気+ 工場見学記   ドイツパッシブハウス調査(12)



ドイツの換気システムのメーカーとしては日本ではスティーベル社があまりにも有名。
日本の営業所長とは何回かの面識がある。
だとしたら、その工場を案内して貰えばいいじゃないかということになるが、もっとほかに安くていい製品を作っている工場があるかもしれない。
あったら見たいという助平根性。
今にして考えると、パッシブハウス研究所に展示されていたPAUL社あたりにしておけば良かったと思う。そうすれば、商売に結びつけられたかもしれない。

パッシブハウス・マガジンという月刊の薄い冊子にいつも2ページにわたって広告を掲載しているドレクセル&ヴァイス社を、バウマンさんが推薦してくれた。
ドイツ語が読めないので内容がよくわからない。ただ、なんとなく良さそうなのでオーストリアのヴォルフルト市の本社を訪問した。

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同社の創業は50年前。
10年前の1998年からパッシブハウス研究所のファィスト博士と共同で研究を始めた。博士の信頼はかなり厚いようだ。
そして、2000年からパッシブハウス専用の「コンパクト・ユニットシステム」を開発して、オーストリアの71%、ドイツの30%、スイスの50%のマーケットシェアを持っていると、エンジニアのピーターさんがこともなげに豪語した。

ところが、こちとらは「換気メーカーだ」という先入観がある。
換気でそんな圧倒的なシェアを持てるわけがない。
このエンジニアさんは誠実そうだけど、大ホラ吹きではないかと考えてしまった。
そうなると、ミーテングの内容にまであやしく感じる。
説明していることの意味がよくわからない。
なんで換気装置にヒートポンプが出てくるのか?

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しばらくして、やっとこのメーカーは単なる換気屋さんではないということに気が付いた。
コンパクト・ユニットというのは、熱回収型換気とヒートポンプによる暖房と給湯の3つのシステムを兼ね備えた1人3役の新商品だった。
換気は、その一部分にすぎない。
そのことが分かるまで、1時間近くも要したというおそまつ。
したがって、途中で変な質問をしてしまった。
「バイパス機能は持っていないの?」と。
いきなり「ナンセンス」と言われた。
単に換気設備ならバイパス機能が必要だが、ヒートポンプで暖房や給湯までをやっているのにバイパスを持つというのは気密性を落とすことになるだけで、まったく意味がないというわけ。
言われてみると当然。

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今までのパッシブハウスは、30メートルのアースチューブを通って外気が導入される。それを上の写真の左の青い熱回収ユニットでヒートリカバリーして右上部のヒートポンプに送られ、暖房用と給湯用に使われる。
ともかくコンパクト。
熱交換部分は幅、奥行きとも600mmで、高さが700mm。
ヒートポンプと貯湯部分は幅、奥行きとも600mmで、高さが2053mm。
これで3役をこなすというから、信じられない。

ヒートポンプだけで足りない時は、買電を使う。
場合によっては、太陽光発電の電気を使うシステムも構築出来る。
もちろん、太陽熱温水器との接続も可能。
また、暖房の熱源が不足する場合は、ペレットを燃すシステムを組み合わせることもある。一定の規格品を販売するという方式ではないらしい。

サイズとしてはL,M,Sと3種類あり、Lは180〜200uの住宅用で価格は18,000から35,000ユーロとのこと。Mは160u前後の住宅用で、Sは70uのアパート用。
もっと細かく聞こうと思ったが、貯湯が200リッターだけしか用意していないと聞いて、質問する意欲が急速に萎えた。
ヨーロッパ人は、シャワーだけで満足している。
日本人でシャワーだけで良いというのは私ぐらいのもの。
どうしてもお湯を張って肩までつからないと疲れが抜けない。したがって、200リッターの貯湯槽だけだと日本では絶対に売れない。 
というわけで、1人3役という面白い商品だということが分かったが、換気メーカーの人間ではないのでこれ以上話を聞いても意味がない。

ただ、参考までに記すと、同社は100%注文生産方式をとっている。
5人のエンジニアが常に設計事務所とコンタクトをとり、その都度、もっとも適したシステムを構築し、提案してゆく。
最近ではアースチューブ方式が少なくなってきているので、それにふさわしいシステムの提案が増えているらしい。

考えてみれば、こんな小回りの効くメーカーが日本にあれば大変に便利。
内地ではエコキュートがあるので給湯には困っていないが、北海道などでは貯湯槽さえ大きくすれば、かなり参考になるシステムと見受けた。
いや、内地でも太陽光や太陽熱温水器とドッキングさせれば、エコキュート以上の省エネ化が図れるかもしれない。
しかしそれは、われわれビルダーの仕事ではない。

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レクチャーを受けた後は工場見学。
当然のことながら撮影は禁止。
上の写真はカタログから抜いたもの。それにしても肝心なところがたったの1ヶ所もカタログに掲載されていない。
これほどまで内密にする必要があるのだろうか?
ということで、工場は小ぎれいで面白かったが、写真が撮れなかったのであとになって想い出そうとしても印象に残っているシーンが全くない。

そして、工場の中でも熱回収換気専用機と勘違いして「熱回収能力は何パーセントですか」と質問してしまった。
そして、その答にとまどわせられた。
「熱回収は100%でも130%にでもすることが出来る。しかし、熱回収するということはフィラメントの間隔を狭くすることであり、騒音が問題になってくる。騒音を30〜33デシベルに保つには、92%程度が最適である」と。

熱回収は100%が限度だと考えていたのに130%と言われて、わけがわからなくなってきた。
換気だけの熱回収だったら、室温20℃の熱を20℃回収すれば終わりかもしれない。しかしヒートポンプだとマイナス10℃までも熱を回収出来る。
そのことを言っているのか。あるいは別のことを言ったのか?

帰国していろんな人に聞いてみたが、未だに納得出来る説明に出会えないでいる。
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2008年12月05日

サッシ工場見学記   ドイツパッシブハウス調査(11)



この調査報告の(7)の、パッシブハウス研究所(中)のなかで触れたことの再現。
ドイツにはサッシ工場が1000社から1300社もあると日本のPVCメーカーの元役員から聞いた。
1500万円でPVCの4点同時熔接機械を導入し、2〜3人の従業員で半径50キロとエリアを限定して商売しているサッシ屋が多い、と。
エリアを限定しているから梱包などの費用も在庫の費用もかからず、間接費も少なく、大変安く生産して提供している。
日本もこのドイツの生産システムに学ぶべきだ、と示唆された。

そこで、ごく少人数でU値が0.8Wのサッシを生産している工場がないかを、バウマンさんに探してもらうように頼んだ。
つまり、パッシブハウス研究所のお墨付きを貰ったサッシメーカーの中に、10人以下の小規模メーカーが存在していないかという、無理難題を承知での依頼。
もし、そんな工場があったなら、そのノウハウを学べば日本でもエリア限定の中小サッシメーカーを存在させることが出来る。
現存する日本の大手サッシメーカーに期待するのではなく、ドイツを真似て、日本にベンチャー企業を誕生させられるかもしれない。その応援団になりたい。

しかし、パッシブハウス研究所の承認マークを付けているサッシ屋さんの中に、10人以下の企業を見付けることがバウマンさんには出来なかった。そして、自宅の新居に採用したサッシメーカーのダンドル社を紹介してくれた。従業員が80人と多い。調査の目的にふさわしくない。
だが、カタログを見たら間違いなくパッシブハウス研究所のマークが入っている。
「しょうがない。このサッシ屋で我慢しょう」とシブシブ承諾。
ところが、このサッシ屋を選んだのが大正解。
下の写真は、ダンドル社のオフイス兼多彩な商品の展示棟。

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この会社は、ウッドサッシ・ドア、PVCサッシ・ドアを生産している。一部内装ドアも。
そして、80人の従業員というのは事務員と工場労働者だけではなかった。
販売エリアが100キロで、出来たサッシとドアを包装せずに現場へ搬送し、取り付け工事までを責任施工している。
営業から施工工事までを含めて80人だから、工場労働者は40人強だろう。中堅の一貫サッシメーカーと呼ぶべき存在。
そして、平均的な 戸建て住宅(150u)で、サッシ、ドア、一部内部ドアを含めての平均売上高が2万ユーロという。1ユーロが130円とすると工事費込みで260万円。
ウヒヤー、安い !!

サッシの生産比率はPVCが50%と半分。ついでウッドが35%、ウッド+アルミカバーが15%という。
価格的な面からPVCが圧倒的に多いだろうと考えたのだが、ウッドが予想以上に頑張っている。それだけ戸建ては、高額需要層が対象なのだろう。
ガラスは現時点ではダブルが2/3でトリプルが1/3。
しかし2年後には間違いなく50:50になるだろうと3代目の、人間的な魅力溢れる社長が話してくれた。この社長は信用出来る。

そして工場見学。
最初はウッド工場。次いでPVC工場。
ウッド工場の撮影は自由だが、新設したPVC工場は撮影禁止と言われた。
「撮影禁止とは大袈裟な…」とその時は思った。
サッシ工場はアメリカやカナダで何ヶ所か見ている。
日本のサッシメーカーのほとんどの工場を見ているので、正直言って北米のサッシ工場には特別感心するところがなかった。唯一面白かったのは、小さな工場でも外国から幅の広いガラスを輸入し、自社でLow-Eのペアガラスを生産するラインを持っていたこと。
したがってドイツの工場でも、それほど感動することはあるまいと考えていた。

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最初はウッドサッシの窓枠の加工。
あれ! 
木材の加工断面と加工精度が、びっくりするほど高い。
そして、組立は自動的に接着剤を塗布しての自動組立。
一切のクギ類を使わずにガッチリ組上がる。半端な精度ではない!

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そして、アールのついた自由自在な加工。
こんな形状が自在に出来るとは…。この精度は、ただものではない!
いきなり強力なアッパーカットを喰らってヘトヘト状態!

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そして、ウッドサッシといっても、見えないところには「ドイツの金物」がこれでもか、これでもかというくらい使われている。
これが使い勝手と耐久性を支えている。参った!

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塗装ライン。

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仕上げのコーキング。

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写真の右にほんの少し見える2階建てがウッドサッシ工場。
左が新設したばかりのPVC工場。工場内は撮影禁止。

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工場前に置かれているPVCの各種の押出材とステンレスの小さな角パイプ。
こんな角パイプを、一体どこに使うの?

PVC工場は完全にオートメ化されていて、まずPVCと角パイプの最適な切断加工を、コンピューターの指示で行なっていた。

次ぎに、角パイプを含めての4点熔接。
なるほど、これでは今までの1500万円の熔接機は役に立たない。

そして、組立から金具付けと、ラインは流れてゆく。

その流れにムダが1つもない。
パッシブハウス用のPVCサッシの精度は、この流れが保証している。
この工場を建設するのに、上屋と設備で最低で5億円はかかったであろう。
パッシブハウス用のサッシの生産には、それだけの投資が必要。
1500万円の4点熔接機でことが足りる世界ではなかった。それが分かっただけでも大きな収穫かあった。感謝。

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そして、羨ましかったのがPVCサッシの木目模様。
サッシの板目の線がわざと歪んでいる。これが素晴らしい。ナチュラル感覚そのもの。
無垢のドアと見分けがつかないPVCドアの柾目。
敵はここまでやっている!

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この工場のウッドサッシは、パッシブハウス研究所からU値0.8Wのお墨付きを貰っている。
そして、押出材の中に何一つ断熱材を詰めてない上の写真のPVCサッシがU値0.9Wのお墨付き。
押出材の厚みは、かつてのものより極端に細い。
そして、部材の中が細かい房になっている。この房の中の空気が断熱材の役目を果たしている。
そして、枠とサッシの中央に埋設されたステンレスの角材。これが強度を支えている。

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高さが2mを越し、幅の広い大きな開き窓。
よく見て頂きたい。
この建具にトリプルガラスを入れて、サッシと枠の支点はたったの2点。
これを見たら、日本のPVCサッシを使う気分が完全に失せた。

シーラカンスとも言える、内蔵脂肪が一杯付いたメタボリック症候群のPVCサッシ。
それを、日本のメーカーはいつまで造り続けるつもりなのだろうか?
いつまで石油という有限的な資材をムダ使いして、消費者を欺むくつもりだろうか?
いい加減にして欲しいと、皮肉の1つも言いたくなってくる。

K値が0.8Wのウッドサッシよりも、私はこの0.9WのPVCサッシを無闇に使いたくなって、ウズウズしている。
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2008年11月30日

壁の熱容量と断熱改修の実態   ドイツパッシブハウス調査(10)


さて、ドイツの木造住宅の外壁のすべてが透湿性の高い材料から出来ているということは分かった。
日本の住宅が、これから100年とか200年の耐久性を維持して行くには、この透湿性を高めてゆくということは無視出来ない課題。
しかし、具体的な解決策は後で考えることにして、もう少しドイツの壁を見てゆくことにしょう。

先に床構造のところで紹介したプロの大工さんやビルダー相手の建材販売店のHornung社。
ここには、床だけではなく外壁や天井断熱の現物大ミニチュアも展示されていた。
その中で、住宅展示場では見られなかったいくつかの断面を紹介したい。

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まず、ウッド繊維の充填断熱+内外のウッド繊維断熱。
展示場の充填断熱材としてはグラスウールなどや吹き込み繊維が多かったが、この建材店ではやや硬いボード状のウッド繊維を充填していた。
ご案内だと思うが、(株)木の繊維の苫小牧工場が来春オープンする。
それに先駆けてドイツから輸入したやや硬い充填断熱材を実験的に試験施工している。
その報告によると、この断熱材のカッテングが大変に困難とのこと。
カッターでも、ノコでも切れない。そして、現場が大変に汚れる。この大問題を来春までに解決しないと、日本での普及が見込めない。
このウッド繊維の最大の特徴は熱容量が大きいこと。グラスウールの2倍と言われている。
それと、遮音性が良いこととグラスウールに比べ保湿性が高く、簡単に結露現象が起こらないという点。

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これは、外側に100mmEPSを施工し、壁内にPOROTON社製だと思うが多孔なレンガブロックを充填している。
断熱材ではなく、なぜレンガブロックなのか?
このレンガブロックは穴にパーライトを充填しても熱伝導率は0.08Wと一般的な断熱材の半分以下。しかし、熱容量がバカに高い。
正確に何倍の高さかは調べていないが、ドイツでは古い木造の断熱回収にこの方式がかなり採用されているようだ。日本で言うならば、構造用合板の内側に入れることになろう。

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これも、外側が100mmのロックウールで、内部がウッドブロック。
これも熱容量を徹底的に意識している。

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そして、これがPOROTONのT8タイプ。
まず、粘土にオガクズをよく練り混ぜて焼く。するとおがくずが燃えてその後が透湿の道となる。そしてパーライトを穴に充填する。この熱伝導率が上記のとおり0.08W。しかし壁厚が厚いので、熱貫流率は49mmだと0.16Wと、パッシブハウスの基準にほぼ到達。内部か外部に20mmの断熱材を加えるだけでよい。
30.0mm厚  K値0.25W
36.5mm厚  K値0.21W
42.5mm厚  K値0.18W
49.0mm厚  K値0.16W
これは、スペイン辺りからの輸入品らしい。
地震がなく、土地が広くて安いヨーロッパでは、単に冬期だけでなく夏期におけても、その熱容量がものを言ってくるはず。

室蘭工大鎌田研究室の山内麻梨絵さんが、昨年の卒論で「木造住宅における熱容量の住宅熱性能に及ぼす影響に関する研究」を発表した。なんと130ページにも及ぶ大論文を、鎌田先生からいただいた。
この論文は、主として床暖房と基礎暖房を比較し、基礎暖房を蓄熱層した場合の有効性をESPAR/Mと言うソフトを用いてシミュレーションしたもの。
素晴らしい内容だが、寒冷地を前提に考えているので、冬期間だけのシミュレーションに終始しているのがもったいない。
ともかく、冬期は日照があると日中はオーバーヒートする。そして、熱容量が小さいと室温が夜中に下がってくる。
しかし、熱容量を大きいと、室温の変化が非常に小さい。
したがって、これからは断熱の厚みやQ値だけでなく、木造住宅の暖房を考える場合は熱容量のことも併せて考えてゆく必要があるというもの。
グラフが多くて、なかなかの説得力を持っている。

麻梨絵女史に任せているだけではダメ。これからは、夏期も含めて木造住宅のQ値だけではなく、熱容量を検討してゆかねばならない。
そして、基礎もさることながら壁の熱容量がこれから重要な課題になってくる。と同時に、夏期における日射遮蔽ということが、より課題になってこよう。


熱容量の問題はこの程度にして、ドイツにおける断熱改修について軽く触れたい。
というよりは、今回の調査には断熱改修の項目を載せておらず、軽くしか触れることが出来ない。
過去の「今週の本音」からの、おさらいということになる。

日本では、まだ本格的な断熱改修ブームが起こっていない。
耐震改修で手一杯。
私はここに問題があるのだと思う。どうせ耐震改修するならば、もう少し補助金を上乗せして耐震・断熱改修工事を一気にやるべき。
耐震改修では、やや安心感が持てるが、それ以外に具体的なメリットが実感出来ない。
断熱改修まで行うと、入居者にメリットが実感として分かる。月々の暖冷房費が激減して、脳卒中や心筋梗塞の心配が少なくなる。
なによりも、風邪に罹りにくくなる。薬代が助かる。国家も得をする。

この断熱改修のポイントは2つ。
1つは、サッシの交換ないしは追加。最低K値を1.5Wにするという国家的な目標を立てるべき。わかりましたか国交省と経産省さん。
もう1つは外壁の最低K値を0.4Wにするというこれまた国家的な目標を立てること。
それが、中央官庁の仕事。
そういった基本的な仕事を放棄して「200年住宅」などと騒いでいるから、国交省は国民から信用されないだけでなく、バカにされる。

低層の木造住宅では、既存の壁の中にべバーバリアもやらずに繊維系の断熱材を吹き込むのは危険。結露の問題が出てくる。ボードを剥がさずに吹き込むのだったらウレタンの現場発泡しかない。
あとは、外壁のモルタルの上に硬質のロックウールかEPSを接着剤で施工し、表面はメッシュを入れて薄くて軽い仕上げ材で処理する方法。
ドイツの断熱改修のほとんどがこれ。
そして、最近では戸建ての改修だけでなく、中高層住宅での改装が目立ってきている。

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これが断熱改修前の中層集合住宅。2年前のベルリンでの撮影。

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100mmのロックウールを使っていた。

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コンクリートにロックウールを接着剤併用で取り付け、薄い下塗りとガラス繊維のメッシュを施工し、薄く上塗りして塗装仕上げ。

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サッシも全面的に高性能のものに変えて、サッシから給気が出来るようにしていた。

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バルコニーの下部をガラスで仕切っただけでなく、上部は4枚の引きこみサッシで、寒気を遮断するという改装まで行っている。

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これが、改装後の美しい姿。

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ドイツで改修に使われている資材と改修業者の出身母体。

これを見れば一目のように、ドイツでは圧倒的に100mm厚のEPSが多くなってきている。
しかし、日本では公団住宅などの断熱改修にEPSを使おうとしても問題がある。
EPSは、個別に防火認定はとってはいないが、慣例的に使用が認められている。
しかし、下階で火事が発生した場合、外断熱のEPSを伝わって上階へ火災が拡がる心配が非常に大きい。
私が公団の技術者だったら、上階への類焼防止の技術が確立されない限り、絶対に使う気にならない。
したがって、建研や大学、国交省の防火に関するトップレベルの技術者に呼びかけて、早急にその技術指針を明確にしてもらう必要がある。
それをやらずに、いくら素人がEPSのPRをしても、焼け石に水。

日本で外断熱が普及しないのは、トップのプロ技術者が参画して指針づくりを行っていないから…。
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2008年11月25日

ドイツの木造は400年住宅   ドイツパッシブハウス調査(9)



すでに見てきたように、ファィスト博士が17年前、ダルムシュタット市に建てたタウンハウスの外壁および屋根の熱貫流率は0.15Wであった。
パッシブハウスというからには、最低この条件を備えていなくてはならない。

この0.15Wの断熱材の厚みとは、一体どの程度か?
プロである以上は、瞬時に判定出来なければならない。
私はこのように覚え、判定することにしている。
「5寸角の木軸の15cmの壁、ないしは206の14cmの外壁に、熱伝導率0.038Wの高性能グラスウールかロックウールを充填し、その外側にKMブラケットを使用して隙間無く熱伝導率0.036Wのロクセラムを10cm施工すれば得られる」と。
おおよそ、25cmの断熱厚で達成が可能。
したがって、驚くほど難しい仕事ではない。これだったらやる気になれば誰でも出来る。

しかし、熱伝導率が0.04Wの木質などの繊維系断熱材やEPSだと、充填+外断熱+内断熱を全部含めて30cmの断熱厚がなければならない。
つまり、木質繊維系断熱材が多いドイツの木造住宅の場合は、断熱厚の合計が30cmあればパッシブハウスと呼べる資格があると思う。
そういう視点で、ミュンヘンの木造住宅の展示場を見た。

ミュンヘンの木造住宅展示場には56棟もの住宅が並んでいる。
どんな展示場でも、消費者が入って見るのは多くて8棟。
外観のデザインとか、値段とか、大きさとか、自分の好みから考えて、どんなに沢山の住宅が並んでいても、入るのは8棟が限度。それ以上は疲れてムリ。
外観の写真を撮ったのは28棟。ちょうど半分。
私にとって、めぼしいデザインはそれだけしかなかったということ。
しかし、中に入ったのはその半分の、おそらく13〜4棟であったろう。
最初から調査目的がはっきりしておれば、片っ端から入ったかもしれない。しかし、展示場見学となると、日本での癖が出てしまう。自分の気に入ったものしか眼中に入らない。

入ったモデルハウスの2/3に、外壁断面図のミニチュアを展示してくれていた、という気がする。
なにしろ初めての経験だから、それぞれのモデルハウスによって、こちらの関心があっちへ行ったりこっちへ行ったり。焦点が定まらない。
いろんなところをパチパチとデジカメに納める作業で忙しい。
その中で、外壁の断面図のミニチュアを撮影したのはたった6点。
今となって、徹底的に全戸の外壁断面を撮影して回るべきだったと考えるのだが、文字通り後の祭り。
強行日程の最後の日だということもあって、集中力が欠落していた。
その6棟の外壁断面のミニチュアを紹介することにする。


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すでに、皆さんが学習なさったとおり、ドイツの木軸の柱、および壁工法の間柱の外壁の厚みは16cm。
日本の木軸流で言えば5寸3分3厘。
ツーバイフォー流で言えば、私の命名した3×7(スリー・バイ・セブン)。
まず、この16cmの壁厚一杯にグラスウールが充填されている。その外側にEPSが10cm。内側に木質ボードが6cm。合計32cm。文句なく合格。

同モデルトリプ断熱.JPG

モデルH92_000ユーロ低価格高性能.JPG

これは16cmの充填断熱材の外側に2cmの木質系と6cmのEPS。内側に2cmと6cmの木質ボード。計32cm。これも合格。
そして、下の写真は同行の小林氏が撮影してくれたもの。
この家はペアーガラスに過ぎなかったが、110uで売価が「91,999ユーロから」とあった。1ユーロが130円と計算すれば1200万円。120円だと1100万円。坪単価に換算すると33万円から36万円。本当?
設備がどこまで含まれているのかは分からないが、タマホームよりははるかに魅力的。
今回は、価格を本格的に調べなかった。したがって、平均的な坪単価を明言することは残念ながら出来ない。
だが、日本のペラペラなプレハブに比べたら、はるかにお買い得であることは請け合える。

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これは16cmの充填断熱材の外側に2cmの木質ボードと10cmのEPS。内側に2cmの木質系ボードで30cm。

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これは16cmの充填断熱材の外側に2cmの木質ボード5枚を重ねていて10cm。内側に2cmだから28cm。ギリギリセーフというところか。

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これは壁の構造が特殊。北米の寸足らずの204材ではなくまともに5cm×10cm。したがって充填断熱材は20cm。その外側に6cmの木質系。内側は1.5cm程度。計27.5cm。これもギリギリ。

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これは16cmの充填断熱材の外側に6cmの木質系、それに通気層をとって無垢板仕上げ。内側に2cmだから計24cm。これだけが明らかにパッシブハウスには失格。
しかし、石膏ボードの下にあるのは「電磁波ボード」かもしれない。その性能とか内容を確かめることが出来なかったが、ドイツには電磁波ボードなるものが存在する。


しかし、このような断面を見ていると、日本のダイワハウスが「外断熱だ」というだけで大威張りし、セキスイハウスが5本の木を植えてエコだと騒いでいることが、いかに消費者をバカにし、ナメていることかがわかる。
日本のプレハブメーカーと国土交通省の役人が、日本の住宅を「後進国の後の後」へ追いやっている。
そんなプレハブをのさばらせているビルダーも、実は情けないのだが…。

さて、ここまで見てきて、皆さんは日本の住宅とドイツの住宅との決定的な違いを感じられたでしょうか?

それは、合板とかOSBという構造用面材が一切使われていないこと。
地震のないドイツは、シージングボードが、十分に耐力壁の役割を果たす。
それと、仕上げにサイデングとかタイルなどを使っていない。
木質系の断熱材にしても、EPSでも、その上に薄い透湿系の下地を塗り、ガラス繊維の薄いメッシュを入れ、これまた薄い透湿系の上塗りと、仕上げは雨は通さないが湿度は透すという透湿系の塗料を塗っておしまい。
そして時折、縦胴縁を入れて軽い無垢の木のサイデング仕上げ。
ついでに言うならば、内部の仕上げに一切ビニールクロスを使っていない。もっぱらルナファーザーという紙クロス。

つまり、ドイツの木造住宅というのは、ランバー以外は全て透湿系の素材で構成されている。
このため、べバーバリアとして、冬期は室内の湿度を壁内に入れず、夏期は壁内の湿度を室内へ吐き出して逆転結露を防いでくれる「インテロ」という画期的な調湿バリア材が開発され、大流行している。
この新しいバリア材を日本へなんとか売り込もうと頑張っているが、マーケティングとアプローチにやや難点が見られる。
ビニールクロスを用い、OSBや構造用合板を採用しているところに、いきなりインテロを売り込もうとしても価格面で徒労に終わる可能性が高い。
地震国日本では、夏の逆転結露を防ぐ方法として、乾燥材や集成材を使っておれば現場発泡ウレタンの方が安く、高いシェアを持っている。東京以西でこの壁を突破し、インテロのメリットを実証することはなかなか困難。
地震国日本では、何はさておいてもまず完全な耐震性ありき。
それが大前提。

しかし、ドイツの木造住宅を見ていたら、つくづくうらやましくなってきた。
木軸の柱は5.33寸角の含水率15%以下の乾燥材。
壁工法にしても3×7の丈夫な乾燥材が2尺間隔。
このランバーが、内外とも全て透湿の建材で覆われている。確かに外部の塗装は、何年かに一度は塗り替える必要がある。それは絶対条件。
サッシは最低でも熱貫流率は1.1W以下。
とすると、どこにも結露が発生するところがない。

結露の危険が一杯にあり、断熱・気密性能が低くて実質的には20年の使用にしか耐えられないような日本の住宅が、「200年住宅」として認証されようとしている。
国土交通省が音頭をとって、バカ騒ぎに一役も二役も買っている。
これは世紀的な喜劇。
200年住宅の中で、まともなのはQ値を1.3W以上と定めた北海道の北方型エコ住宅だけ。
しかし、厳密に結露という面を検証するならば、中には怪しいものもあろう。

そして日本の、あの程度のものが200年住宅だと言えるのなら、ミュンヘンに建っていたほとんどの木造住宅が400年住宅とか500年住宅と言える。
外装を剥がさなくても、サッシは途中でちゃんと取り替えることも出来る。
二重にも三重にも厚い断熱材を纏った家が、健やかに呼吸をしている。
健やかに、健やかに深呼吸を……。

「地震のない国がうらやましい」と嘆いてばかりいてはいけない。
今までの優れた体系とは別に、耐震性と省エネ性と耐久性の高い透湿システムを持った外壁を、なんとか構築してゆくべきだと思う。
それを、単なるエコ運動と捉えると、間違いを犯すことになる。
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2008年11月20日

パッシブハウス研究所(下)   ドイツパッシブハウス調査(8)


さて、パッシブハウスは、今まで何戸建てられてきているか?

その前に、オーバーな偽装的表現が大好きな日本の一部の住宅人が叫んでいる「無暖房住宅」なるものは、世界で何戸建てられているのだろうか?

スウェーデンのハンスさんは、2001年にヨーテボリ市に「暖房設備を持たない」4棟20戸のタウンハウス団地、つまり「暖房設備のない団地住宅」を建てた。
「暖房設備がない」といっても、換気にプレヒーテングを採用しているから、正式には「無暖房設備住宅」とは言えないのだが…。
この住宅は、ヨーロッパでは大歓迎されたわけではない。

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何故かというとその後、同じ無暖房設備団地がスウェーデンでも他の北欧諸国でも、その後に1ヶ所も計画されていないから…。
ハンスさんのその後は、古い中層住宅の「断熱改修」を中心にしている。
そして日本で不必要に有名になり、一時は日本の講演で稼いでいたというのが実態。

ヨーテボリ市は、北緯58度という樺太の北端よりさらに北に位置している。
したがって、よほど寒い国だと考えがち。「そこで無暖房とはすごい」となる。
ところが、ドーバー海峡を通って暖流が流れているので北欧はそれほど寒くない。
ちなみに、1月、2月の平均温度を理科年表で調べて見ると、北海道の方が寒い。
           1月    2月
ストックホルム  -2.1℃   -2.5℃
ベルリン      0.8℃   1.5℃
ウィーン      0.1℃   1.6℃
札  幌      -4.1℃  -3.5℃
帯  広      -7.7℃  -6.8℃

そして、ヨーテボリでは過去の最低気温が-16℃。
10年か20年に一度の寒い時でも、室温が20℃以下にならないようにということで、ハンスさんは400mmの壁厚の家を建てた。
札幌の最低気温は-28.5℃。旭川にいたっては-41℃。
としたら、ここで無暖房住宅を建てるとすると壁厚は500mmから700mmも必要という勘定になる。長野だって最低気温は-17℃なのだから…。
したがって、20年に一度あるかないかという時のことを考えて、暖房設備のない住宅を造るのは過剰設備であり、ムダだとファィスト博士は考えた。
そして、15kWh/uのパッシブハウスを提案した。

そのパッシブハウスが何戸建っているのか。
堀内氏のイーアイ社主催の講演会に、今年は数回参加している。そのほとんどがドイツの資材屋さんの講演会で、中には「パッシブハウスは年間8000戸から1万戸も建てられている」という大袈裟な話もあり、正確な数字がわからなかった…。

そこで、パッシブハウス研究所で説明役を買ってくれたヨルゲン・シニダース博士に、最初にした質問が今までの累積実績。
1991年にモデル棟は建てたが、パッシブハウス研究所を設立したのは10年前の1998年。
最初はサッシや熱回収換気装置などの設備費が割高ということもあって、なかなか普及しなかった。そして、徐々に普及をみせはじめたのが2002年頃からだったという。
そして2008年末での累積戸数は約1万5000戸という。
国別ではドイツが1万2000戸で、オーストリアが3000戸。
日本におけるR-2000住宅やQ-1住宅が、大きめに見ても両者とも4000戸程度と考えられるから、パッシブハウスの実力の程が伺える。

内容的にはシングルハウスが40%で、中高層住宅が20〜30%。その他としては学校、養護施設、病院、オフイスビルなどがある。
一番大きな建築物としてはオーストリアのイースブルグ市の354unitの集合住宅。
ともかく、着実にシェアを伸ばしている。

そして、今後の見通しを聞いたら、パッシブハウスは単に寒冷地だけではなく、スペイン辺りでも採用の動きがあり、新しいプロジェクトが動き出してきているという。
そして「どこまでも個人的な見解だが…」と断って話してくれたのが、暖房費15kWh/uのほかに冷房費15kWh/uが付け加えられるだろう、という。
これを聞いてがっかりした。
とういうことは、東京では暖房と冷房の燃費が30kWh/uでよい。それに給湯と換気の燃費が10kWh/uとすると、40kWh/uという数字になってしまう。
120uの住宅だと年間燃費が4800kWhとなる。
23円/kWhとすると11万円強。この燃費でパッシブハウスと名乗ることが出来る?
夏の除湿を考えなくてよいヨーロッパ。
そこで暖冷房とも15kWh/uずつというのは甘すぎる。
パッシブハウス研究所は「暖房のことに関しては最高の権威であっても、冷房とか除湿に関しては残念ながらプロとは言いかねる」といささか憤慨させられた。


ということに憤慨して、最も大切な質問をするのをうかつにも忘れてしまった。
それは、パッシブハウスの過酷な気密性能!!
後で気が付き、横浜国大の建築科を卒業してドイツStuttart大建設学部でDiplomaを取得し、ヨーロッパでパッシブハウスの実務に携わっているMiwa Moriさんにメールしてパッシブハウス研究所に質問状を提出してもらっている。
まだ、最終的な返事はもらっていないが、Moriさんの話ではおおよそ次のよう。

まず、EN13829 Method Bという試験規定にもとづき、50パスカルで加圧と減圧の両方の試験が義務化されている。
そして、漏機気回数が0.6回転以下/h・50paであることを第三者機関で認定され、証明書が発行される。(その第三者機関の性格が現時点では未確認)
そして、パッシブハウスを認定出来る者は、必ずしもパッシブハウス研究所の所員だけとは限らない。パッシブハウス研究所でトレーニングを受けた後、経験を積んで初めて認定者の資格を得ることができる。
ちなみに、パッシブハウスとしての認定を受けるにはかなりのお金がかかる。
1500ユーロの申請費用のほかに、PHPPおよび熱橋シミュレーションソフトThermではサッシ回りのpsi値の計算が出来ないので、外注しなければならないという。
パッシブハウスというのは、どこかのグループが考えているような、商売気だけで取り組めるような甘いものでは決してない。

R-2000住宅のことを考えて頂きたい。
それまでの日本の気密性能は良くて10paで、相当隙間面積が2cm2程度のものだった。
漏気回数1.5回転/h・50paという基準は、当時では想像以上に厳しいものだった。
しかも全戸完了検査を義務付けた。
このため、かなりの企業がその性能に到達出来なかった。
三井ホーム、三菱地所ホーム、東急ホームなどが脱落していったのは、自社の施工部隊を持っておらず、この気密性能を担保できなかったから。  

ハーティホーム時代の記録では、2000年のデータで43戸の平均相当隙間面積が0.29cm2、
漏気回数は0.53回/h・50paとなっている。
アベレージではパッシブハウスの0.6回/h・50paをクリアーしているが、中には0.99回、0.92回、0.89回、0.80回、0.77回といった0.6回を越えるものが13件も混じっている。
0.3回以下のものが9件もあるのでアベレージでは0.53回となっているだけ。
つまり0.6回というパッシブハウスの基準に達しないものが13件もある。
ということは、全戸パッシブハウスに合格しようと考えるならば、0.6回が目的ではなく、常に0.3回から0.4回を目指さねばならない。
これは容易なことではない。

ちなみに、高性能サッシが用意出来なかったのでパッシブハウスではなくなったが、マイスターハウスが設計施工した杉並のS邸の漏気回数は0.26回/h・50pa(相当隙間面積0.13cm2)と抜群。

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石田ホームが施工した茨城の家は漏気が0.59回(相当隙間面積0.32cm2)と、いずれもパッシブハウスの気密性能はクリアーしている。
しかし、このテストは減圧だけなので、加圧のテストをした場合はどのような結果になるかは定かではない。

このように、パッシブハウスの気密基準は大変に厳しい。
ともかく、R-2000住宅の2.5倍の性能を求めている。
この事実を安直に考えてもらっては困る。

ともかく、戸建て住宅で外断熱の経験しかない者や、高気密住宅の設計実務が数戸しかない者は失格者にすぎないということを肝に銘じてもらいたい。
最低漏気回数0.6回以下の住宅3戸以上を施工した実務経験者でないかぎり、パッシブハウスのことを語る資格がないと言える。
パッシブハウス研究所の名誉にかけてもそう断言したい。

私が昨年担当した2戸は、何回も断るがパッシブハウスではなかった。
パッシブハウス研究所の許可も得ずに、パッシブハウスを名乗るなどというのは、偽装以外の何ものでもないということを、今回の訪問で身に滲みて感じた。
猛反省。
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2008年11月15日

パッシブハウス研究所(中)   ドイツパッシブハウス調査(7)



換気と並んで大問題だったのがサッシ。
ともかく、開口部からは40%以上の熱が損失している。
これを放置しておいて、パッシブハウスが完成出来るわけがない。
17年前。
日本ではR-2000住宅への本格的な取り組みが始まった頃。
当時、地上に存在した最高性能のサッシは、せいぜいK値は1.8W程度だったと思う。トリプルガラスを使った超最高性能でも1.6W程度しか得られていなかった。

この時に、ファィスト博士はその半分の「0.8Wのサッシが必要だ」と叫んだ。
ドイツ人の何人かは「また、博士の寝言が始まった」と思ったはず。
まともに相手にしてくれるメーカーがなかった。
したがって、ほとんどの人はそこで足踏みを余儀なくされた。そして、メーカーの悪口を言いながら呪縛からの突破を諦めた。私などもその代表的な見本。
ところが、ファィスト博士が優れていたのは「メーカーが造ってくれないのなら、自分で造ってみよう」と考えたこと。
まさにコロンブスのタマゴ。
象牙の塔の研究者や、先進的な民間のビルダーや設計士の中で、誰一人として自分でサッシを造ってみようとは考えた者はいなかった。そんなことは出来ない相談だと、最初からギブアップしていた。

これは、博士の口から直接聞いたわけではなく、あくまでも想像。
博士はウッドサッシの建具と枠の上に断熱材のコーテングを指示したという。
自分で造るといっても日曜大工で、自分の手で造ったわけではない。
おそらく腕利きのサッシのマイスターを訪ねて何度も議論を重ね、気心の知れた小さなサッシ工場で、ハンドメイドで造らせたのだと思う。
ウッドサッシを厚みが10mmか15mmかは知らないが断熱材で囲い、プラスチックで表面を覆い、塗装をして仕上げたという。
そして、いきなり0.7Wの熱貫流率を達成したと言うからお見事という以外にない。
観念論ではなく、やればできるということを実証した。このことが凄い。
これが、パッシブハウスを生む大きな原動力となっている。

ハンドメイドで0.7Wのサッシが出来たのだから「工場で0.8Wのサッシが出来ない訳がない」と博士は考えたと思う。私だったら大声でわめく。
ところが博士は「パッシブハウスの開口部の性能は0.8W以上であるべきです」と静かに語りかけ、これを原則として掲げた。

こうして、サッシの後進国であったドイツは、いつの間にか高性能サッシの開発で、世界の最先端のサッシ先進国に変身してきている。
ドイツとオーストリアで、パッシブハウス研究所から0.8Wのお墨付きをもらったサッシメーカーが10社以上に及んでいる。
パッシブハウス研究所の2階には、各社が応募したサッシの断面模型が、20点近く陳列されている。この撮影を許可されたとき「しめた」と思った。
この断面写真を日本のサッシメーカーに見せたらびっくりするだろう。各社のいろんなアイディアが詰め込まれている、文字通りヒントの山がここにある!
ゲスは浅ましくも、場合によってはカネになるかもしれないと考えた。


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さて、ここでドイツと日本のサッシ工場の根本的な違いについて確認しておきたい。
日本では、東京オリンピック直後までは、外部建具は秋田スギやラワンなどの木材を建具屋が加工して、現場へ納めるものだった。
ただ、日本の建具は欧米とは根本的に違っていた。
欧米では、寒さから身を守るということが家造りの基本テーマ。
このため、枠付きの建具、つまりウッドサッシからスタートしている。
これに対して、日本では敷居、鴨居や柱を枠とした。
この枠造りは、大工の仕事。
中には腕の悪い叩き大工もいる。水平がとれてなく、歪んだ現場も多かった。
しかし、その歪みに文句を付けずに、うまく納めるのが建具職人の腕と言われていた。
したがって日本の建築史上、木製の建具職人は一度も主役になっていない。建具屋は影の存在で、襖が脚光を浴びたにしても、それは絵師の力によるものに限られた。

この木製建具が、東京オリンピックの後、あっという間に姿を消した。
木製建具資材の値上がりと建て付け手間と、量産化されるアルミサッシの値下がりを計算したら価格が交差するのが1965から66年と予言出来た。事態は予言通りに推移した。枠付きでなかった日本の木製建具は、枠付きで隙間が無くて気密性のよいアルミサッシの敵ではなかった。B29に対する竹槍であった。
それでも最初の数年間は、鋼製サッシメーカーとともに建具屋もアルミサッシ造りに参画し、メーカー数は一時的には百数十社にも及んだ。だが、軽量で加工性の良いアルミは量が物をいう世界。あっという間に寡占化が進み、日本ではサッシメーカーというとある程度の規模を持つ全国メーカーのことを指すようになってきている。

これに対してドイツでは最初から枠までを造るウッドサッシが主力。
寒い国なのでアルミサッシに切り替わったのは、ほんの一部。
アルミよりも断熱性能の良いPVCサッシの方がドイツでは圧倒的な人気を得た。
そして、地場のウッドサッシメーカーは、1500万円ほどの投資をしてPVCの4点同時熔接機械を導入し、PVCサッシの生産にエントリーした。もちろん押出材は大手の塩ビメーカーから買った。
この場合は、ウッドサッシからPVCサッシへの、サッシからサッシへの使用資材の転換に過ぎなかった。日本のように建具からサッシへの一大変革ではなかった。
このため、多くの地場ウッドサッシメーカーが、PVCサッシメーカーへと転換した。それまでの木工機械に変えて、1500万円の投資で4点熔接機を導入するだけでことが足りた。
このため、ドイツにはPVCの中小サッシメーカーが全国に1300社もあると日本の某PVCサッシメーカーの元幹部に聞いたことがある。
こうした小回りのきく地場のサッシメーカーが頑張っているから、ドイツには日本のような巨大サッシメーカーが存在せず、日本のような大きなサッシ工場を見ることも出来ない。
産業構造がまるっきり異なる。

また、この元幹部は、ドイツでPVCサッシが55%もの普及を見せているのは、PVCサッシの製品の良さもさることながら、価格が安いからであると断言した。
つまり、地場需要を対象にした従業員2〜3人とか4〜5人、多くても従業員が10人という小さなPVC工場が圧倒的に多い。
こうした工場は間接経費がほとんどかからない。
そして、2日か3日で1棟分のサッシを生産し、梱包もせずにそのまま現場へ運び取り付ける。
したがってビルダーも消費者も安くPVCサッシを入手出来る。

これに対して、日本のサッシメーカーは図体だけが大きくなり、間接経費がやたらとかかる体質に。
年収の高い管理職の数がむやみに多く、高給取りの営業マンが安売り競争でしのぎを削っている。このため原価率がものすごく高い。
したがって、大手メーカーが支配している日本では、絶対にサッシが安くなるわけがないという。
大変に説得力のある意見。

だとしたら、日本でも半径50キロとエリアを絞り、ドイツから1500万円で4点熔接機を導入し、ドイツからでも韓国からでも中国からでも良いから塩ビの押出材を買い、PVCサッシ工場を定年退職したベテラン技術屋さんを雇うことが出来れば、日本でも安くPVCサッシが生産出来、入手出来るようになるのではないか、と考えた。
今回のドイツ視察には、その可能性を探るという目的も秘めやかに内包していた。
それほど私共ビルダーは、日本のサッシ屋さんに愛想を尽かしている。
性能の高いサッシを、安く提供してくれるという期待度は限りなくゼロに近い。

このパッシブハウス研究所を訪れた4日後に、従業員80人のウッドサッシとPVCサッシの両方を生産している中堅地場サッシメーカーを訪ねた。
そしたら、パッシブハウス研究所に展示してあった模型は、ほとんど過去のものに過ぎないということが分かった。
技術開発がものすごいスピードで進歩していて、型の形が一変していた。
パッシブハウス研究所の模型写真を撮っても、サッシメーカーに売り込めるだけの価値が完全になくなっているということを知らされた。
だからパッシブハウス研究所は撮影を許可してくれたのだ。
そして、K値0.8Wの高性能サッシを製造するには、1500万円の4点熔接機だけを導入しただけではラチがあかないということも、嫌というほど教えられた。
元幹部の情報は、過去形のものになっていた。

それにしても、パッシブハウス研究所の果たしている役割の大きさ…。
ドイツのサッシ業界と換気業界に一大革命をもたらし、遅れていた産業界を世界一に脱皮させつつある。
その世紀のイノベーションを、見事に演出している。
そして、それに呼応している中堅のサッシや換気などの先鋭的な企業群。
日本にないものがドイツとオーストリアに存在していた。
そのことに、心の底から感動させられた。
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2008年11月10日

パッシブハウス研究所(上)   ドイツパッシブハウス調査(6)


パッシブハウスというのは、今から17年前の1991年にヴォルフガング・ファィスト博士がフランクフルトから15キロほど南にあるダルムシュタット市に建てた写真のタウンハウスのモデル棟をもって嚆矢とする。

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このタウンハウスは南面から見れば地下室を持った3階建てだが、屋根が片流れになっていて北側は下の写真のように2階建て。
タウンハウスだから左右には窓がない。
開口部は出来るだけ南面にとって北面は最小限にしているのは、ヒートロスを出来るだけ小さくしようとする知恵。
そして、北側の外にはガラスのカーテンウオールが付けられていて北風の侵入を防いでいる。
これは最初から付いていたかどうか…?

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そして、屋根には藤森照信先生が自慢げに見せびらかしている謳い文句の草が植わっている。
このモデル棟だけでなく近隣のタウンハウス10数棟の全ての屋根に植えられている。
屋根だけではない。壁にも蔦が這っていて、紅葉が美しい。
これを見るとタンポポハウスとかニラハウスは、二番煎じもいいところで、立派な物真似発想であることがわかる。

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このモデル棟で、ファィスト博士は何をやろうとしたのか?
出来るだけ暖房費のかからない家を造ろうとした。
だが博士は、決して「無暖房の家」を造ろうとは考えなかった。
暖房設備が一切ない家は、造ろうと思えばいくらでも造れる。けれども万が一の寒気のことを考えると断熱材の厚みは非常に大きなものとならざるを得ない。コストが2割はアップしてバカ高になってしまう。
したがって、そんな万が一の事態の対応する過剰投資はやめて、最小限の暖房設備は用意する。そして、年間暖房費が15kWh/uで上がる家づくりを目指した。
コストシミュレーションをやってみたら、それが最良だという答えが出た。非常に現実的で、説得力のある対応である。
「無暖房」などという消費者を欺くような言葉は、学研の徒としてのファィスト博士は絶対に口にしない。
それがなんとも頼もしく、かつ信頼が出来る。

しかし、今から17年前に年間暖房費が15kWh/uの家をつくるということは、資材の調達の面ではとんでもない難問が待ちかまえていた。

まず、屋根と壁のK値を0.15Wとした。
これは木軸だと5寸角柱の外壁に150mmの高性能グラスウールを充填し、外側に100mmのロックウールを施工すれば得られる。
ツーバィフォーだと206の外壁に140mmの高性能グラスウールを充填し、KMブラケットで100mm厚のロクセラムというロックウールを外断熱として併用すればほぼ近い数値が得られる。つまり現在では250mmの断熱厚でこの0.15Wという熱貫流率が簡単に達成出来る。
300mm以上の壁厚は、現在では必要がない。
したがって、断熱に関してはファィスト博士もそれほど苦労はしなかったはず。

問題は換気とサッシ。

換気に関しては、アース・チューブ方式を1991年のタウンハウスで採用している。
一番上の写真の中央部にカギ型の2つの「「という形を反転した排気口が見えるが、この写真では残念ながらアース・チューブに関して十分な説明が出来ない。
そこで、前回紹介した高校教諭のW邸を例にとって説明させていただくことにする。

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W邸の庭の南面に上の給気口が見える。これは冬期用の給気口。
ここから吸い込まれた空気は、地下室の下に敷設された30メートルのパイプを通って地下室の機械室へ運ばれる。
30メートルの深地下パイプを通っている間に氷点下だった空気が10数度に暖められるという地熱利用システム。
冬期はそれでよい。だが、夏期だとパイプの中で結露が発生してしまう。ジャブジャブの水たまりが生じてしまう。
このため、夏期は別の給気口からダイレクトに空気が取り入れる。下の写真の南側の壁際に設けられている給気口がそれ。

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さて、こうした冬期用と夏期用の給気パイプはどのように緊結されているか?
下の写真は熱交換システム。
アース・チューブで暖められ空気は、熱交換でさらに暖められて各室へ給気される。

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そして、わかりにくいが、下の写真の赤い装置が冬期と夏期の給気の自動切り替え装置。

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この自動切り替え装置をもってしても、このシステムではどうしても結露の発生を完全に避けることが出来ない。そのため、換気装置の裏側に結露水を吸い上げるポンプの吸い上げ口が付いている。これで結露対策は大丈夫。
そして、熱交換された排気は、東側の道路沿いに設けられた排気口から排気される。

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日本の換気メーカーの製品に見られるような、給気口と排気口が30cmという短距離で隣り合わせというようなバカ現場は、ドイツでもカナダでも決して見られない。
出来れば、給気口と排気口は別の壁面で行うように指導している。
それが難しい時は、最低でも2メートル以上の間隔をとるように義務付けている。
これが世界の常識。
ところが、かつての寡占メーカーであった三菱電機とナショナルの給排気口は、仲良く並んで設置されている。排気された汚れた空気は、ショートカットして給気口に必ず吸い込まれる。
小学校の低学年でも分かるロジック。
こんなバカげた設置を許している日本の基準がおかしいと学会の席上、某大学の先生に詰問したら「問題ありません」と言われてしまった。あえてその先生の名を言わない。どの先生か犯人探しをやって欲しい。そして、徹底的に吊るし上げて欲しい。
換気メーカーべったりの、日本の換気学界は狂っている。

パッシブハウス研究所では、つい最近まではパッシブハウスである以上は、このアース・チューブを装置することを絶対的条件としていた。
ところが、熱回収率の高い換気装置が開発されるようになって、アース・チューブがなくても、熱回収率90%以上の換気装置が付いておれば、パッシブハウスとして認定するようになった。大きな一歩前進。

パッシブハウス研究所で、熱回収率が90%以上と認定された機種がすでに5〜6点ある。
そして、研究所の中には、熱回収率92%のPAUL社のシステムが見本として展示されていた。

DSC00942.JPG


寒冷地においては、熱回収換気システムは絶対的な条件。
ところが、北海道などでは未だに第3種換気を前提に考えていたり、部分的に全熱交換機を採用したり、換気装置を別にしてQ値を計算したり表現するというおかしげなことが横行している。
ドイツの生真面目なパッシブハウスを見ていると、日本のメーカーやビルダーの往生際の悪さが、どうしても気になってくる。
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2008年11月05日

悩ましい床根太スパンと驚異の遮音  ドイツパッシブハウス調査(5)



フランクフルト空港に到着し、早速9人乗りのワゴン車にバックを詰めこんで、午後4時前に乗り込んだのが郊外のW邸。
最初、バウマンさんから2年前にアース21のメンバーが訪ねた「パッシブハウス小学校視察」の打診があった。「その小学校のことならドイツ人よりも日本の先進的なビルダーの方が内容をより正確に把握している」と断った。いまさらである。
そしたら、変わりにとても素晴らしい住宅を探し出してくれていた。

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ご主人は高校の先生。お子さんが3人の5人家族。
約110坪の土地は、幸運にも親からのプレゼント。
建物は1階76.09m2、2階75.42m2、3階63.3m2で、延べ214.81m2(65坪)。
5kWの太陽光発電を搭載しており、太陽熱温水器も付いている。後で説明するがアース・チューブの換気設備も暖房設備も付いている。これで総建築費が40万ユーロ。
1ユーロが130円とすると5,200万円。単純計算すると坪80万円。
これだけを聞くと、建築費は日本とそんなに変わらないと考えてしまう。
事実、林業関係者のほとんどの報告書には「ドイツの住宅建築費は、日本とほとんど変わらない」と書かれている。

ところが、ドイツの戸建や中層住宅は、必ずと言ってよいほど地下室を持っている。
そこは物置スペースや機械室になっている。時には居室にもなる。
このスペースは、建築面積にカウントしない。
この高校教師の家の地下室は70m2。
そして、壁厚は約300mm。
ドイツをはじめヨーロッパでは、家の大きさは内法寸法で表示する。
日本のように構造体の芯での表現ではない。
ということは、日本流に表現するならば、この高校教師邸は地下室までを含めると延べ90坪の大豪邸ということになる。
Q値が0.5Wの高性能住宅が、防水地下室工事、セントラル空調換気工事、給湯工事を含めて坪58万円。日本でこの価格で出来ますか?
この基本的なことを、先達諸氏はきちんと伝えてくれていないように感じる。

この家のパッシブハウスの性能について語りたいことが一杯ある。
それは後で詳しく述べることにして、「床構造」の問題を先に取り上げさせていただく。パッシブハウスの前にもう一回だけ、建築屋の寝言に付き合っていただきたい。
何故かというと、この家は2階及び3階の床の遮音性能がやたらと良かった。
大勢の仲間が2階で写真を撮っているのに、1階にいて2階の音が全然気にならない。木造住宅でこんなことは珍しい。
極論すれば、初めてと言えるほどの驚きの体験。
「ドイツの木構造の床はどんな構造になっているのだろうか?」
最初に抱かされた大きな疑問。
いつも施主から2階床の音で泣かされているビルダーにとっては、パッシブハウスはさておいても床遮音に関心を持たざるを得ない。
この疑問を、すでに何回もドイツを訪れている先達諸氏が解明し、広く公知されているならば、私どもビルダー仲間がドイツの木質構造について語る必要は毛ほどもない。
「どんな遮音材を使っているのだろうか?」
「それよりも根太セイとピッチかを知りたい!」
「工事中の現場が見たい!」

日本の木軸組の関係者は、クギの径やたるき、根太、まぐさ、梁などのセイやピッチに対しては鷹揚というか、律儀にこだわっている人は少ないように感じる。
未だに経験と勘に頼って、細いクギを使っている無知な大工さんも多い。そんな行為が許されている。
これに対して、ツーバィフォーの場合は、公庫の標準仕様書にクギの太さ、長さが明記されている。
樹種ごとのたるき、根太、まぐさ、梁のセイと、ピッチごとに可能なスパンが決められている。それに従わないと公庫の融資が得られなかった。

先月24日の十勝2X4協会の30周年記念の「現場見学会」の時も、仲間同志が鋭い目で工事現場をチェックしていた。
「ここにCN75クギを使っているのはおかしい」
「スパンが2間半とんでいるから、210のTJIを2枚合わせに使っているが、212のTJIだと1枚で済む。コスト的に考えると212にすべき」という具合に。
つまりスパン表がお互いの頭の中に叩き込まれており、共通の土俵がある。
これを聞いていた木軸組の仲間が「ツーバィフォーの仲間と付き合うようになってからクギは必ずCNクギを使うようにしている。また、横架材のたるき、根太は208や210材を使ってスパン表を守っている。こうしたハイブリッド木構造は耐震性にすぐれ、科学的で構造解析がやりやすい」と話してくれたのが印象的。

私どもが知りたいのは、CADでの構造設計の前提条件となる樹種毎の、ピッチ毎の、基本的断面毎の、床・壁・天井・屋根・まぐさ用のオープンなスパン表が、ドイツに存在するのかどうかである。
それがあれば、大工さんや現場監督の教材とチェック用として非常に有効に機能してくれる。
また、ドイツのマイスター大工さん用の教材に、アメリカで使われている「カーペントリー」のような優れた教材があるのかどうか。もしあれば、それを部分的に改善して日本の木軸組用の教材として使えるかどうか…。
さらにドイツの地場ビルダーは、小屋裏3階建ての一般的な住宅でも、都度構造設計事務所に構造設計を依頼しているのだろうか…。
木構造科の有無よりも、われわれ現場人にはドイツの実態について知りたいことが限りなく発生してくる。どなたか、われわれの疑問に対する解答が、すでに日本で発表されているのをご存じでしたら、その報告者名とレポート名を教えてやって下さい。

そして2日後に、そこいらでよく見かける消費者相手のDIY(日曜大工の店)ではなく、プロの大工さんやビルダーを相手とする大きな建材販売店を訪ねることが出来た。
そこには、外壁や屋根の無数の実物大模型とともに、床断面の構成模型が十数点も展示されていた。下の写真はその一部。
いや、面白いのなんの。
視察予定時間がはるかにオーバーしてしまい、完成現場視察を1ヶ所キャンセルしてしまった。

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この写真には2階の床だけでなく1階床の断熱・遮音例も含まれている。
2階の床の遮音に、ここまで手をかけた断面が現実に存在するとは…。

アメリカでは、昔は床根太に210とか212のランバーが使われていた。
しかし、大径木の減少から、最近ではランバーに変わって210や212のTJIの使用が主流なってきている。
そして、ダクト工事をスムーズに行うために412とか414という平衡弦トラスの採用が増えてきている。そうした横架材の上に厚い29mmの4X8の構造用合板を弾性接着剤併用で千鳥貼りする。
その上に厚いクッション材を敷いて、これまた厚いシャギーのカーペットで仕上げる。
この29mmの剛な構造用合板と吸音性の高い厚いクッション材とシャギーカーペットで、2階の音は遮断されている。

日本でも初期のツーバィフォー住宅は、圧倒的にカーペット仕上げが多かった。しかし、夏期の高温多湿で、カーペットがダニの巣になった。
そして20年前から2階の床もフロアー仕上げに変わった。そして、吸音性能を失った日本の全ての住宅は、反響音に悩まされてきている。とくに2階の音の遮音が大問題として浮上。
中でも問題が先鋭化したのが1階に親が住む2世帯住宅。
2階床にシンダーコンクリートを打つとか、鉛などの遮音材を敷くとか、吸音石膏ボードを施工するとか、釣り天井にするなどとあらゆる試みがなされてきた。
しかし、未だにこれはという決定打が得られていない。

これに対して、ドイツではなんとまあ派手に吸音施工をやっていることか!
しかし、よくよく考えてみたらドイツには地震がない。床合板を根太に接着剤併用で直接千鳥貼りをする必要性がない。
つまり、プラットフォームを構成しなくてよい。ダイヤフラム理論は無視してよい。
このため、根太の上に吸音性の高いボード類や吸音材を施工することも出来る。そのクッション効果で2階床の音を抑えられる。
さらに、外壁のスタッド厚は75×160mmと剛。そして壁石膏ボードの下に吸音性の高いシージングボードなどを施工している。したがって壁を伝わって2階の音が1階へ響くということが極めて少ない。
このために、W邸で私共がびっくりした遮音性能が、ドイツでは簡単に得られている。
大きな謎が一つ解けた。バンザイ!

そしたら、次の新しい疑問が出てきた。
アメリカでは210のランバーを406mmピッチに入れれば、床スパンの長さは3間まで可能。
ところが日本では303mmピッチに最強のダグラスファー材を入れても、スパンを3間とばすことは出来ない。
これは、北米の許容応力度は木材、鉄骨、RC造とも短期荷重200キロに対して長期荷重は一律に150キロ。
これに対して日本の木質構造の短期荷重は200キロに対して長期荷重はたったの110キロしか基準法上認めていない。北米に比べて36%も余分に材積がかかる。
この非を唱え続けているのは、私くらいしかいなくなった。
林業家も林野庁も、大学の先生も設計家も、住林も三井ホームもナイスも、我れ関せずと社会的な責任を放棄している。
見事なまでの知らぬふり。あるいは本当に無知なのか、私の方が間違っているのか…。

ドイツの床根太構造を見ていると、自重が日本よりも重い。それでいて信じられないほどのスパン間隔。どう考えてもドイツの長期荷重は150キロかそれ以上。
ヨーロッパの学界と交流があるという諸先生方は、当然そのことをご存知のはず。としたら、声を大にしてその事実を叫んでいただきたい。日本の基準法のいいかげんさ。陰湿なランバー虐めの実態を世に問うて欲しい。
ドイツやオーストリアから学ばなければならないのは、何はさておいてもその点だと考えるのだが…。

それにしてもドイツの床根太は、ツーバィフォーで鍛えられてきたビルダー仲間にとっては悩ましい存在。頭が混乱して理解が出来ない。
積載荷重の基準は変わらないはず。
床荷重に対する力は、根太のピッチもさることながら、そのセイの大きさで決まると教わってきた。

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ドイツの住宅で、根太や梁を現しにする現場は少ない。住宅展示場では4ヶ所で見た。
その現しの根太と梁のセイはせいぜい5X10か3X10にすぎない。これをおよそだが4尺とか6尺ピッチに入れていた。
上の写真の場合には、根太というか梁の上に、かなり厚いサネ加工された無垢の長尺板が直行して施工されているのだと思う。そして石膏ボードで天井面を防火被覆。
その上で、スパンを3間近くもとばしている。これで撓わみの心配がないのだろうか?
ドイツのトウヒやモミは、ダグラスファーと同程度の曲げや剪断力を持っているのだろうか?
ドイツ床は、根太構造ではなく梁構造として計算されているからなのだろうか?
直行しているT&Gの板厚も、計算上有効に働くのだろうか?
いや、日本の110キロ長期荷重の数値に慣れた目に、150キロのドイツの施工が異常に見えるだけのことなのかもしれない?
ま、素人の考えは休むに似たり。

そう言えば良いことを思いついた。
岐阜の金子建設工業の金子社長。
木質構造に明るく、かなりの年配なのに東大の安藤直人先生に弟子入りして博士課程に挑戦中。勇気と意欲のある貴重な高気密住宅の先達者の一人。
安藤先生に変わって、私どもの単純で素朴な疑問に答を用意していただけないか…とお願いをすることにしょうか…。
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2008年10月31日

重大なミステーク


今回の私の記述に重大なミスがあることを、里見設計の西方里見氏からご指摘いただきました。
どうやら、ドイツの木造に対して関心が薄かったのは私だけであって、世の識者はきちんと対応してきてこられたようです。とくに安藤直人先生がオーストリア、ドイツの事情に精通されているということを知り、本当に安心いたしました。
私の浅学の至らなさを心からお詫びすると同時に、西方氏のメールの内容を掲載させていただいて、訂正文に変えさせていただきます。


安藤直人先生やグローバル・ジャパンの武川女史が企画したヨーロッパの木造建築や木材の研修会のヨーロピアン・ウッド・ディが、東大弥生講堂で毎春ありました。
(今年はなかったのですが…)
これにはヨーロッパの建築物理学の学者や実践者、木質構造の学者や実践者が大挙参加していました。
私にはものすごく刺激的でした。

また、そのルートで、数年前に安藤直人先生の案内でオーストリアやドイツに研修に行きました。
ウィーン工科大学にはVolfgang Winter教授が率いる木造建築学部があります。建築物理学、構造、防火、意匠など木造建築関連を網羅し、一体となった学部です。
ウィーン工科大学は木造建築学部は、イタリア北部の大学とドイツの大学と木造建築に冠して連携しています。
日本では建築学科で、その下に縦系列で計画、構造、環境、材料などバラバラなのが残念です。
オーストリアでは、中学から専門学校・大学と一貫教育の職人学校がありました。素晴らしく、うらやましい実践的な職人学校でした。

ミュンヘン工科大学にも木造建築のデザインと建築物理学と構造の各講座があります。木質構造はStenfan Winter教授、意匠はH・カフマン教授。
このあたりは、私のブログ2006年オーストリア研修を参考にしてください。

フラウンホーファー建築物理研究所はそんなに大きくないですが、全体のフラウンホーファー研究所は大きいです。
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2008年10月30日

進んだ建築物理学、遅れた木質構造学?  ドイツパッシブハウス調査(4)


我ながら、呆れた題をつけたもの。
無知の強みで、勝手なことを言わせてもらう。

有名なドイツのフラウンホーファー建築物理研究所。ここは、驚くほどの人材を抱えている。
正確な数字は忘れたが、万を超える単位。
日本の独立行政法人建築研究所や北総研などは、ノミのような存在にしか見えない。
そのフラウンホーフォー研究所が「建築物理」という言葉を、堂々と使っている。
人真似が人一倍好きな日本人だが、まだ「建築物理学」という看板をかけている大学も、研究機関もない。(はずだと思う)

ともかくエコロジーとか、温熱環境とか、建築生態学などではドイツは世界のトップクラスにあることは間違いない。それらを総称して「建築物理学」と命名したのだろうと素人は想像する。
しかし、ドイツには地震がない。
細い柱のRC造の代表的な建築物を案内されて、こんな建築が許される国だから構造力学が発展しないのは当然のことだと今まで納得してきた。こと構造に関してはドイツには学問が存在せず、学ぶべきものは無いと考えていた。
その思いを、木造住宅の56棟の展示物を見て再確認させられた。
それが、表記の呆れた題となったという次第。

ご存じのようにドイツの国土面積は、日本の38万km2とほぼ同じの35km2。
そして、森林面積は日本の2408万haの半分以下の1074万ha。
この数字から平地が多くて、小さな森林国にすぎないと捉えがち。
ところが、ドイツの森林の伐採量、つまり素材の伐採材積は日本の約3倍だという。
どちらが森林大国?
長沼隆・横井秀一氏の報告によると、2005年のドイツの製材量は2000万m3で、これはアメリカ、カナダに次いで世界第3位だという。
針葉樹だけの製材量でも、ドイツはスウェーデンとヨーロッパのトップの座を競っている。つまり、ドイツは木材大国なのだ。

それが、今までRC造とか木骨レンガ造などの横行を一方的に許してきた。
たしかにRCとかレンガ造は蓄熱という面では優れている。
だが、熱伝導率がはるかに低く、高断熱住宅時代にはふさわしくない。
3リッターハウスとか、パッシブハウスという時代がもたらした「省エネの大合唱」に呼応して、木造住宅が大幅に見直されてきているということだろう。
それなのに、学問体系は進んでいるのだろうか?
建築物理学の中には、当然のことながら木質構造力学が加わらなければならない。
ところが、私の知っている範囲では、そうした木質構造の学者や専門家が日本へ紹介され、講演を行ったという話を聞いたことがない。

というよりは、日本が関心をもっていなかったのだと思う。
日本の林業関係者は、かなり頻繁にドイツを訪れ、黒い森などを訪ねて林業だけでなく木材加工産業、木造住宅業、家具産業など関連産業のリポートを書いている。林業関係者は、決してドイツの木材産業を等閑視していない。
しかし、日本の木質構造関係の学者先生は、ほとんどドイツを訪れていない。
私が親しくお付き合いをさせて頂いた故杉山英男先生やそのお弟子さんの野口、菊池、鈴木、安村などという錚々たる顔ぶれの諸先生が、ドイツの木質構造の勉強に出かけたという話は聞かない。
杉山先生亡き後の大黒柱である安藤直人先生も、訪れておられないはず。
つまり、日本の木質構造界にとっては、ドイツの木質構造は研究の対象にならないと、無意識のうちに敬遠されてきた。新井信吉さんからも、北欧の話は何度か聞かされたが、ことドイツに関しては寡黙であった。

だからドイツの木造住宅に関する情報は、林業視察のついでに語られるものしかなかった。この資料不足にはいささかイライラさせられた。
ただ、その中にあって、唯一救われたのが「www.germantimber.com」。
これによると、無垢の木材に関してはKVHという規格を持っているらしい。
含水率は人工乾燥で「15%±3%以下」。
プレーナー加工と面取り加工が施され、提供される材の長さは13メートルまで。
そして見え隠れの部分に使われるのはKVH-Siといい、現しで使う材をKVH-Nsiという。
これは、柱材に使われる規格らしい。

一方梁材としてはデュオ梁材とトリオ梁材がある。
写真で見る限り、木目模様の違いとしかわからない。最大含水率は15%までで、18メートルまでの長尺が用意されているのは嬉しい。
見え隠れと現しに使う区分は、柱材と同じ。

無垢材とは別に厚板、または厚板ラミナを4枚接着した集成材の規格もある。
含水率が「10%±2%」というのが嬉しい。
中堅住宅メーカーの工場で「含水率はいくらか」と聞いた時、即座に「12%以下」と答えてくれたのはウソではなかった。
こうした基本的なことが分かっただけで、ドイツの木質構造材は、日本の軸組工法よりも製品の品質レベルではるかに進んでいることがわかる。
しかし、それが木質構造学のレベルに到達しているのかどうか?

ここまでは、調査に出発する時点で分かっていた。
しかし、柱や梁に使われるランバーの寸法体系。スタッドや梁、たるきの寸法とピッチの関係。用いられているスパン表。その根元となる木材の短期荷重の許容応力度。使われている樹種とグレーデングの方法。構造的な特徴や使用金物の種類。継ぎ手や仕口の構造……ともかく分からないものばかり。
しかも今回の調査目的は木質構造ではなくてパッシブハウス。
木質構造はあくまでもついでの項目。
したがって私の報告には勘違いや思い違いが多いはず。しかし、ともかく問題点を提起することが何よりも大切だと考える。このため、恥を覚悟の上で「ドイツの木質構造」を語ることにする。

ドイツの木造住宅に使われている主な樹種は、人工林のトウヒが最も多く、ついでモミ。ブナやタモの人工林もあるという。
天然林の主要樹種はモミとブナ。このほかにアカマツ、カエデ、ナラがある。
住宅工場では北欧材も使われていた。一部だがアメリカのダグラスファーや日本のカラマツも使われているという。それぞれのグレーデングについては分からない。

そして、木造住宅は「木軸工法」と「壁工法」に二分される。
ミュンヘンの56棟のモデルハウスでは、やや壁工法の方が多いように感じた。しかし断言するのは控えたい。
まず、木軸から見てみる。
日本の林業関係者の話を総括すると、製材されている柱材は最低で16cmからで、最大で30cmだという。
日本のように10.5cmとか12cmの角材は挽かれていない。
このため、使用されている材木の量は0.35m3/m2で、日本の2倍に相当すると池田憲昭氏は書いている。下の2枚の写真を見るとそのことがうなずけると思う。

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しかしこの軸組は、ホゾ、ミゾだらけの日本のそれとは全くの異質。
ジャーマンティンバーから転写した下の写真を見てもらいたい。
まず、地震がないので木骨土壁工法の伝統を受けて、通し柱が一本もない。そして、窓マグサがないというか小さい。屋根の鉛直荷重は敷き桁が一切負担している。
そして2階の根太は、胴差しの上に配されていて、持ち送り梁でバルコニーを形成している。この考えは北米のブラッとフォームに酷似している。つまり、日本の継ぎ手、仕口ニ類するものは皆無に近いと見受けられる。
これを、プレカット工場で作り、現場へ運ぶ。

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さて、次はピッチ。屋根たるきのピッチは約2尺間隔に見える。ところが、この屋根たるきのピッチと壁の柱のピッチがずれている。角柱のピッチは4尺に見えるが、2階根太のピッチとも必ずしも連動していない。
この骨組みを見ると、木材の規格はしっかりしていても、木質構造体としては学問的な解明がなされていないように感じる。

そして、たるき材は現しの部分はカットされていてセイが小さく見えるが、3×8程度のものを多く見かけた。おそらく16cm×20cmの梁材を半分に挽いたのではないかと想像する。そして、壁工法の場合も、同じ大きさのたるきを使っているように感じた。

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根太は4尺飛ばす場合は16cm×20cm。根太間隔が2尺の場合は半割れの7.5cm×20cmというのが標準的な仕様と見受けた。

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これは、壁工法の断熱仕様を見せている断面模型。
模型の上に置いている緑の旅行日程表の長さが17.7cm。
したがって壁構造のランバーのセイが16cmあることが分かる。
したがってスタッド寸法は7.5cm×16cm。

これをスリー・バイ・セブン材(3×7)と呼称してみたが、いかがなものだろうか。

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2008年10月25日

木造住宅のデザインポリシー  ドイツパッシブハウス調査(3)


私がハイデルベルクの市長だったら…。
ネッカー川の対岸の雛壇状の住宅群を世界遺産に登録し、半永久的にその景観を保護する。
そのことによって、毎年数百万人の観光客の増加が見込める。とくに建築を学ぼうとする者にとっては必訪の聖地となろう。
という世界遺産的な景観夢物語を打ち切って、現在の木造住宅へ話題を移そう。

2年前にベルリンを訪ねた時は木造住宅を訪ねていない。高級住宅街を外部から写真を撮って回っただけ。したがって、ドイツの北方圏の住宅のことは分からない。
これから書くのはフランクフルト以南のドイツ、とくにミュンヘン周辺からからオーストリアにかけての木造住宅に限定されていることを最初に断っておく。

アルプスというとスイスが独占しているかのように感じられるが、フランス、イタリア、オーストリアとドイツにまたがっている。
冬期に、美しいデザインを求めて、フランス側からアルプス越えをしたことがある。曇天の中では、眼の保養になるものは少なかった。
ただ、アルプスを中心とした山麓建築の特徴として、軒の出が長いだけでなく、ケラバの出も長いということが、強く印象に残っている。
持ち送り梁によって、時には2メートル以上もケラバを出しているものがある。

3年前の中越地震で訪れた豪雪地川口町では、伝統的な「セイガイ建築」を数多く見た。このセイガイ建築の由来の説明は省く。
ともかく、軒の出が約1.8メートルで、ケラバの出が約1.4メートルにも及ぶ。
これだと豪雪が屋根から落下しても、一階の壁を傷つけることはない。
もっともセイガイ建築は高床式で、一階はコンクリートで地下室のような構造になっているので、雪ではめったに傷付くことはない。
除雪を省くために発想されてきた日本の知恵だと考える。

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震度7の激震を受けながら軽微な被害ですんだSWで耐震補強をした本格的なセイガイ建築。

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2500ガルの烈震地に建てられた尾久杉を使った築数年という素晴らしいセイガイ建築。だが繰り返された強い余震で通し柱が折れ、1/10ラジアンの変形で力尽きた哀しい姿。


同じ知恵がアルプス周辺地域でも発想されたのではないかと推測する。
訪れた南ドイツやオーストリアの郊外では、写真のような住宅を数多く見かけた。

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上の2点は築100年以上の古い民家。
下の4点は比較的新しい民家や私共が宿泊したペンション。 

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そして、帰国する最終日の土曜に、ミュンヘンの木造住宅の展示場へ足を運んだ。
正直なところ、たいして期待を持っていなかった。
というのは、スウェーデンで住宅展示場へ行ってがっかりしたことがあったから…。
かなりの数の木造住宅が展示されていた。
しかし、それは「サマー・ハウス」と呼ばれるもので、4週間にも及ぶ長い夏休みに出かけるバケーション用のセカンドハウスだった。
冬にはほとんど使わない、夏休みが主体のセカンドハウスだから規模も小さく、断熱性能などにそれほど見るべきものがない。
造作工事も手を抜いたものが多かった。本格的な住宅ではないからほとんど参考にならない。
ドイツでも、そのおそれがあるのでは…と考えていた。

ところが、ミュンヘン郊外の展示場は、本格的なファストハウス。
総戸数は56棟。
うち日本のような総2階建ては2、3戸にすぎず、大屋根の勾配空間を利用したものがほとんど。
そして、軒の出も、ケラバの出も大きい伝統的な切り妻が圧倒的。

日本の場合は敷地が小さく、最大限の住空間を得るためには総2階にせざるを得ない。
そして、北側斜線、道路斜線にひっかかるので、簡単にケラバの出を大きくは出来ない。
そして、寄せ棟で軒裏を水平にしようとすると、サッシの上端の関係から軒の出も自動的に抑えられてくる。
その上に南欧風やシンプルモダンの流行ということもあって、妻面の壁や窓に風雨が直接当たり、太陽の直射日光に曝され、省エネと耐久性の面で問題が多いデザインが主流になってきている。

ドイツの戸建ては、大都市の中心エリアには需要がなく、地方都市の郊外需要に支えられている。このため、かつての日本の住宅がそうであったように、軒の出とケラバの出の大きい伝統的な基本デザインが、かたくなに守られている。
「戸建て住宅はかくあるべし」という、好きとか嫌いなどという次元を超越したポリシーが今でも貫通していると考えるべきなのだろう。
ある意味ではローカル的であり、保守的でもある。
こうしたモデルハウス群を眺めていると、日本の住宅が洋風的デザインを追いすぎるあまり、大切な忘れものをしてきたということに気づかされる。
ミュンヘンのこのデザインが優れているというのではない。
しかし、セカセカと歩いてきた足をとめ、振り返って見る必要性を語りかけてくれている。
そうした囁きを、とくとお聞きいただきたい。

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ただし、私たちが延べ2000キロに亘って走行した町の中で、こうしたモデルハウスに類似した住宅をそれほど見かけることがなかった。
なにしろ走ったのは幹線道路が多い。新興住宅地は幹線道路からから外れて建てられているのだろう。そして、幹線道路から外れた地方の小さな町の中もかなり走ったが、モデルハウスと同類の住宅を見る機会が少なかった。
その理由が、未だに分からない。
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2008年10月20日

西洋館の歴史的宝庫を発見  ドイツパッシブハウス調査(2)



肝心のパッシブハウスは、少しお預け。

まず、住宅のデザインについて簡単に触れたい。
日本の伝統的な住宅のデザインは、切り妻、寄せ棟、入母屋、大屋根に限定されてきたといっても過言ではない。数寄屋造りというのはその一形態に過ぎず、独自の時代性を持ってはいない。
ヨーロッパの建築物のように、その存在がある時代的を表現していることはない。

ギリシア、ローマ、ロマネスク、ゴジック、ルネッサンス、バロック、ロココ建築など。
ヨーロッパの建築物は、時代と建築史を抜きには語れない。
そして、それぞれの時代の成功者は、最新の建築手法でお城のような豪邸を建ててきた。
フランスではこうした豪邸のことを「マンション」と呼ぶ。
フランスの郊外を走っていると、時折こうした「マンション」にお目にかかれる。
ところがドイツのハイデルベルグで、写真のマンションに出会った。

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ハイデルベルグは古くから学生の街。旧市街地を歩いているとゴヂック、ルネッサンス、バロック調の教会や公的建築物を見かける。いわゆるドイツ風の建築物が、必ずしも主流を占めている街ではない。小パリという印象を受けた。
しかし、街の中を流れるネッカー川の対岸にこのマンションを発見した時の驚きと感激。
あまりの不意打ちに息が詰まった。
もちろん、これはマンションとしては最低限の規模のもので、この建築物そのものに騒ぎ立てるほどの価値と美があるわけではない。

中高層ビルの一部を「マンション」と称して分譲しているのは日本だけ。
世界ではこれを「コンドミニアム」という。
ハワイで、日本人向けにコンドミニアムの売り込みブームが続いたので、コンドミニアムのことを別荘型中高層分譲住宅のことだと勘違いしている向きもある。
いずれにしろ、ヨーロッパで「私はマンションに住んでいます」などとは、口が裂けても言ってはならない。
言った途端に、貴方はアラブかロシヤの成金並みの億万長者と考えられ、天文学的なサービスと請求書に見舞われることになる。

前回も軽く触れた坂井洲二著「ドイツ人の家屋」は、3年前の「独善的週刊書評」(2005年12月23日付)の第10号で取り上げているので、関心のある方は見て頂きたい。
内容を要約すると、日本では紀元前3000年から4000年前に、栗林と一部の野菜栽培の成功で人類としていち早く定住をなしとげた青森の山内丸山遺跡。ここには巨大な栗材で大展望台1棟と高床式倉庫3棟の建築がなされた跡が確認されている。
しかし、住居は竪穴式で、木造住宅とは呼べなかった。
ところがドイツのボーデン湖では紀元前2200年前の木造住宅群が湖底から発見された。
日本と違って湖の底も周辺も固い岩盤。そこに最初はカシ、トリネコ、ヤナギなどの広葉樹で家を建てた。そして、青銅器時代に入ってアカマツなどの針葉樹が加工出来るようになり、ログハウスが建てられていた。
だが、やがて氷河期が終わって湖水面が上昇し、それらの木造住宅が湖底に沈んでしまった。酸素が供給されない水中では、木材は腐朽しない。それを掘り起こして湖岸に4000年前の姿のまま再生しているという。世界最古のログハウスは、ボーデン湖周辺を嚆矢とするらしい。
折角ボーデン湖まで足を伸ばしたのに、事前の調査と打ち合わせ不足のためにその再生住宅を見るチャンスを失したことを、いまさらながら悔やんでいる。

しかし、ドイツ建築の主流になったのは木骨土壁造。
地震がないから建築物は鉛直荷重を支えるだけでよい。
このため、ドイツでは早い時期に通し柱が姿を消した。
そして、太い柱と同寸の筋交いと厚い土で固めて壁をつくった。その壁の柱にセイの大きな根太を床として渡して各階を区切った。現在のブラットフォーム工法の原型。
このプラットホームで、5階から6階建ての建築物を建ててきている。
ドイツを代表するチャンピオン建築物はこの木骨土壁造。
これは過去の工法で、現存するものはそれほど多くはない。しかし、ドイツ旅行の案内本には必ず「絵」として下のような写真が掲載されている。このため、これが普遍的な建築物だと勘違いしている向きも少なくない。こうした中層建築物は歴史的な建造物で、新築物件はほとんどない。

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そんな次第で、私も木骨土壁造の美しい写真を1、2枚は摂りたいと考えていた。
初日の夜、フランクフルトの中心にあるレーマー広場へ行ったが、夜景と言うこともありシャッターを押したくなるほどの美しさと感動がなかった。
上海を連想させる超高層ビルや中層の商業ビルにも食指が動かない。
近代建築を調べるためにドイツへきたわけではない。
ということで、ワゴン車の最前列に座っていたが、都心部ではほとんどカメラに触れずじまい。
それなのに、ネッカー川の対岸には吸い寄せられた。

今から30年前、ツーバィフォー工法が普及する以前の日本の住宅は、ほとんどが切り妻か寄せ棟の、味もそっけもないプレハブ住宅が日本を制覇していた。
私はこの時代を「住宅デザインの白黒テレビ時代」と呼んでいる。
動いている映像が写っているだけで嬉しかった白黒テレビ。
住宅も雨風をしのげることさえ出来ればよかった。
それが、ツーバィフォーの出現で一変した。

三井ホームのスタート時のてんやわんや騒動は面白い。
「ツーバィフォーはフリープランである」ということで、モデルハウスのデザイン選定を本社の商品開発部で行うのではなく、各支店に一任してしまった。そしたら、3タイプのモデルが建てられた。
(1)千葉、名古屋、福岡などは田舎好みの和風タイプ (2)横浜などは三井不動産の分譲住宅の売れ筋タイプ (3)荻窪など都心部は若い設計士による目立ちたがりタイプ。
この中で(3)は入場者が多いが契約がまとまらない。(2)は堅実だが入場者が少ない。一番ひどかったのは(1)の和風で、和風で建てるのだったら軸組を選ぶ。わざわざツーバィフォーの紛い物を選ぶわけがない。このため入場者、契約率とも最低。
こうして、設立3年経っても売上げが伸びず、三井ホームの累積赤字は膨らむ一方。
撤退を心配しなければならないほどの不振を救ったのが永福展示場に建てた洋風住宅。入場、契約とも抜群の成績を見せた。
これにヒントを得て、協力設計事務所を対象に「洋風住宅の設計コンペ」を行った。こうしてウィンザー、マッキンレーという洋風モデルが開発され、あっという間に累積赤字が解消され、三井ホームはあっという間に優良企業に脱皮した。

たしかにツーバィフォーには地震と火災に強いという謳い文句はあった。だが、三井ホームを急成長させたのは洋風のデザインだった。
これが契機となり、以来日本の住宅業界はファッショナブルなデザイン化の道を突き進むことになる。いわゆる住宅のカラーテレビ化が始まった。
そして、ご存じの輸入住宅ブームが起きた。
私が年商7億円の木軸の中小ビルダーに単身で乗り込み、ツーバィフォーを武器に7年間で年商100億円の企業に変身させられたのも、三井ホームのカラー化、デザイン化の商品開発事例を目撃していたからにすぎない。
そして、美しいデザインを求めて北米を駆けめぐった。しかし、赤毛のアンのプリンスエドワード島のアーリーアメリカン以上のものには出会えなかった。
そこで、ヨーロッパを駆けめぐった。
しかし、ビクトリア、ジョージア、スパニッシュ、プロヴァンス以外のデザインを発見することが出来なかった。

それなのに、期待もしていなかったドイツの、しかもハイデルベルグという地方都市の片隅に、世界中で最も美しい歴史的なデザインを選りすぐって集めてきて展示している「西洋館の宝庫」と言える街並があろうとは…。
今まで、誰1人としてこのことを書いていない。観光案内書のどこにも出ていない。
これほど優れた観光資源はないはずなのに…。
40回近くの海外視察の中で出会った、間違いなく最高のロケーション。
文字通り、百年来の恋人に出会ったようなときめき…。


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車から降りて、写真もとらずに1つ1つのデザインを吟味し、心の底から堪能し、眼の底に焼き付けるようにゆっくり鑑賞して回った。
日暮れが迫っていたので、摂れた写真は数葉だけ。
なにしろ、延々と2キロ以上にわたってこのような風景が続くのだから、デザイン開発担当者にとっては垂涎のロケーション。デジカメで摂りだしたら200枚以上は必要になる…。
翌朝は朝食抜きで対岸に渡り、写真を摂り回る計画を建てた。

ところがこの時期、ヨーロッパの朝の外気は冷える。
このため、川とか湖の温かい水面から霧が蒸発し、午前中は霧に包まれることが多いということを知ったのは翌朝の5時。
霧雨で、シャッターチャンスがなくなった。
その口惜しさといったら…。
しかし、これから多くの日本人がハイデルベルクを訪れるだろう。
そして、私達に変わってこの美しいロケーションを日本へ紹介し、住宅産業人の美意識を変革してくれることだろう。
口惜しいけれども、一瞬でも美しい映像を脳裏に焼き付けることが出来たことを感謝すべきだと考えを変えることにした。

それにしても、上の写真は美しすぎる。
最近の、日本のシンプルモダンに馴らされた眼には過剰装飾に見える。
だが、住宅に携わる者にとって、住宅のデザイン史を知る上でこれほど勉強になる場所はない。
スパニッシュとプロヴァンスと日本の和風建築以外のすべてのデザインが、その壮烈な美しさを競いあっている…。
ともかく、ヒントがザクザク詰まった宝の山と言うか「宝の丘」。

それとも、そのように感じる私の審美眼そのものが、もはや時代遅れになってきているという証拠なのだろうか?…

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2008年10月15日

木質住宅の驚異的実力  ドイツパッシブハウス調査(1)



さて、困った。

7人の仲間で「ドイツ・オーストリアのパッシブハウス調査隊」を組織して10月5日から12日までの8日間、弥次喜多道中をしてきた。
新規訪問先の開発 & アポイント取り & 通訳 & 運転手という1人4役を、エコ・トランスファー・ジャパンのバウマン代表にお願いした。
9人乗りのワゴン車で、フランクフルト以南の南ドイツとオーストリアとスイスの一部を、1週間で延べ2000キロ以上も走破。

目的は、どこまでもパッシブハウスの実態調査。
ところが、目にし続けた住宅は「木質構造のパッシブハウス」。
パッシブハウスもさることながら、途中からドイツの木質構造そのものに心を奪われた。
ドイツに、こんなにも豊かなエンジニアリングの木構造があったとは…。


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リチャード・ウイス氏は、ヨーロッパの住宅を4つの種類に分類している。
(1)石造 (2)木造 (3)土造 (4)木組に土壁造。
石造はスペインからフランス、イタリア、ギリシア、トルコに至る地中海沿岸一帯。
木造は北欧3国からロシアにかけての一帯。
土造はブルガリア、ルーマニアなど黒海の周辺。
そして、木組に土壁造はオーストリア、ドイツ、チェコ、ポーランドなどバルト海の南側に面した国々。

数年前に読んだ坂井洲二著「ドイツ人の家屋」(法政大学出版局)は大変面白かった。
この著書は「木組プラス土壁造」の歴史を丹念にさぐり、針葉樹や広葉樹が採用された時代的背景などに独自の見解があり、大変に参考になった。
また、史上最古の木造住宅が、ドイツの湖から発見され、ドイツは日本よりも古い木造建築の歴史を持っているということも教えてくれた。
しかし、ドイツの家はどこまでも土壁が中心で、木質構造住宅が普及を見せ始めているという記述は一ヶ所もなかった。
したがってドイツの木造は、イタリアがそうであるように特別の金持ちか、あるいはエコロジーオタクなどが趣味的に建てているのだと考えていた。

そのような次第で、過去に三回ドイツを訪ねていたが、木造住宅を調べてみようなどという不埒な考えを起こしたことは一度もない。
それは、三角州のデルタ地域に行ってイワナを探すと同じくらいの愚挙と考えられたから…。
そして、建築業界で語られてきたドイツ建築は「バウビオロギー学説」であり、「エコロジーハウス」でしかなかった。
ホルガー・ケーニッヒが唱えた建築生態学(バウビオロギー学説)は、いまでもささやかなフアン層を日本の学者の中に持っている。しかし、主流になることはない。
また、私の友人であるナカジマホームの松岡社長を中心に、熱心にドイツのエコハウスが語られ、ルナファザーやエコ塗料、木質繊維断熱材の輸入が進められてきた。
これは大変に素晴らしいこと。その業績には誰一人として反対は出来ない。 

しかし、松岡氏が犯した罪は、エコロジーを熱心に語るがあまり、ドイツで強力に進められていた3リッターハウスとか、パッシブハウスという怒濤のような省エネ運動のうねりを、何一つ日本に伝えなかったことにある。
年に数回もドイツに足を運びながら…。
まして罪深いのは、ツーバィフォー工法と木軸工法の分譲と注文住宅で喰っていながら、ドイツにおける木質構造材の飛躍的な進歩を黙殺してきたこと。
そして、意識的か無意識かは知らないが、ドイツにはエコハウス以外には何も存在しないかのように、臆面もなく何冊かの共著の中で伝え続けたこと。
私は、彼の存在とその役割を大きく評価しているだけに、その社会的な責任を追求されるのも当然のことだと考えている。
残念ながら、私も彼のマインドコントロールに毒されてきた一人。
この歴史的な損失を、中野博氏とともに猛反省してもらわねばならない。
日本の木質構造のイノベーションを阻害した罪は大きい。

つまり盲目の男が、象の鼻を触り「ドイツの住宅は柔らかくて太く、エコそのものでしかない」と喧伝していたという図である。

こうした事情により、日本の住宅業界からドイツの木質構造は、意識的に視野の外に置かれてきた。
まさに死角的存在。
私が今回の調査隊で一番痛感したのはそのこと。
日本では、地場の林業家やビルダーを中心に「地場の木材で家を建てよう運動」が叫ばれ始めてきている。その意図は良い。だが…。
たった8日間の旅行で、分かったような口をきくつもりはない。
しかし、地産地消の運動を、正しく実行しているのがドイツだと思った。
私が目撃したのは南ドイツとオーストリアだけ。
中央部から北部ドイツのことは分からない。


P1000161.JPG

フランクフルト空港は、広葉樹の森の中にある。
市内に向かう車窓からの、ほんのり紅葉し始めた広葉樹の美しさがたまらない。
電柱が一本もなく、立て看板がない風景とは、こんなにも神々しく美しいものだったのか…。
こうした広葉樹は、ポーゲンポール、ミーレ、アルノなどのシステムキッチンや家具、床材に使われるのだろう。
どこまでも続く広葉樹の森が、なんと愛しいことか…。
日本の針葉樹のトゲトゲしさに痛みつけられてきた視覚には、心の底からほっとさせられ、文字通り癒されてゆく…。


P1000160.JPG

縦横に走るアウトバーンを南下すると、広葉樹の中に針葉樹が混ざってくる。
残念ながら木に明るくなく、樹種はよくわからない。だが、後でビルダーの工場で拝見して見た製材品から、多分トウヒとモミではないかと想像した。


P1000258.JPG

そして、更に南下して山に近づくとマツを含めた針葉樹の森に変わる。
この針葉樹がドイツの木質構造を支えている。

これからの数字はあまり正しくない。
バウマンさんのお嬢さんに頼んで、ドイツの新築住宅の着工戸数と構造別、用途別、戸建てと集合住宅の比率の最新情報を調査してもらっている。
少なくとも過去10年間のデータを手にしていないと、発言権はない。
したがって、これから述べることは1つの仮定として考えていただきたい。
 
10年以上も前、私が記憶しているドイツの新築住宅の着工戸数は年間60万戸以上であった。
ところが近年は、30万戸程度に減っていると聞く。
ただし、その中にあって断熱性能が評価され、木造住宅の比率は15%近くにまで伸びてきていると仄聞する。
つまり4.5万戸近くまで来ているかもしれないと言うのだ。
この4.5万戸を大きいと見るか、小さいと見るかで評価が一変する。
北欧各国の新築住宅着工戸数を知る者にとっては、とてつもなく大きな数字。
それが、着実に消費者の支持を得ながら増大している。

土壁の国ドイツで、パッシブハウスの大きなうねりの中で、木造住宅が前進しているということは、朗報だと思う。
そして技能者の国、マイスターの国の木造建築の技術と技能レベルは、私が想像していた以上に素晴らしいものだった。
少なくとも、アメリカやカナダを上回っている。
そして、日本のトップ技能者に比べても遜色がなく、場合によっては日本を凌駕しているのではないかと感じさせられた。

工場と完成現場を見て回って、そのことがとてもショックだった。
「決定的なアッパーカットを喰らった」という気がした。
posted by unohideo at 13:09| Comment(0) | TrackBack(1) | 海外情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月20日

なぜドイツが太陽光発電で日本を追い抜けたのか?


私のホームページのリンク先のビルダーの1つに、鹿沼市のハートランドホームがある。
小さな加工場を持ち、高性能住宅を手造りしている堅実な地場ビルダー。
宇都宮の分譲地の中に建てた延44.5坪のオール電化住宅を一昨年建てた。
370リッターのエコキュート、IHヒーター、食洗器に除湿を主目的にした2.5kWのエアコンが2台。
Q値0.85Wと優れており、C値は0.5cm2。
そして、5.7kWhの太陽光発電が搭載されている。

RIMG5941.JPG

このオール電化住宅の電気代が5.7kWの太陽光で間に合うかどうかという試み。
Q値が1.0W程度の性能では、とても賄えないだろう。
そこで、Q値を0.85Wへアップした。そして、暖房目的と言うよりも夏の除湿を主目的に2.5kWのエアコンを2台入れた。
冬期と夏期の室内の温湿度が測定されておればベターだったが、ともかく2006年12月から2007年11月までの電気代が明示された。

それによると、この一年間の東電への売電が155,370円で、買電が101,896円。
その差額である53,474円が儲かったというかお釣りがきたというか・・・。
つまり、Q値が0.85Wという高性能住宅であれば、宇都宮だと5.7kWの太陽光を搭載すれば東電に電気代を払う必要がなく、逆に年に5.3万円、10年で53万円、20年だと106万円払っていただけることがわかった。
このことを見事に証明してくれた。

これは売電5,988Kwに対して買電の方が6,353kWと365kWも大きいのだが、エコキュートなどで安い夜間電力を利用しているから。
そして、年間の売電力量は5,988kWということは、5.7kWで割ると1kWの設備で1050kWの電気を年間発電しているということになる。
また、金額的に言うと、宇都宮では1kW当たり年間27,300円稼いでくれているということでもある。

そして、この太陽光の設置費用がどれだけかかっているかはわからない。
設置費が60万円/kWだったと仮定すると5.7kWだから342万円かかったことになる。
これを毎年15.5万円ずつ稼いでくれるとすると、単純計算では太陽光発電の償却には約22年かかるということになる。
この償却期間を長過ぎると見るか、あるいは妥当と見るかによって、太陽光発電の評価が変わってくるが、こうした基本的なデータを発表して頂いた施主とハートランドホームには心から感謝したい。

さて、ドイツの家庭用の太陽光発電の実態を知らなかったごく最近まで、このデータは世界的に通用するデータだと考えていた。

エコ・トランスファー・ジャパンのバウマン代表は2年前に地下室のある小屋裏3階建てのアパート併用住宅を建てた。延べ面積が248m2(75坪)。
その自宅の話を細かく聞いているうちに多くの発見があった。

DSC01033_convert_20080619182908.jpg
バウマンさんの11kWの日本産の太陽光発電を搭載した延べ100坪のドイツの住宅。

まず、ドイツでは地下室は居住空間として建築面積にカウントしない。そこは機械室であり、アパートの住人分を含めた倉庫スペースである。したがって、地下室を持ったドイツの住宅は、それだけで日本よりは20%広い勘定になる。

次は部屋の広さの表示。これは内法寸法での表示。
日本のように外壁構造体の中心線ではない。
レンガ造とか厚い断熱材を入れて400mmという壁構造体だと、中心線で表示すると消費者は10%以上損をするということになる。したがって、充填+内断熱というのは、日本の消費者にとっては有難いものではなくなる。
しかし日本の表示が、ヨーロッパのように内法表示に変わることはあり得まい。

それと、小屋裏のカウントが面白い。
勾配天井高が1.5mまでは居住空間としての床面積にカウントしない。そして1.5mから2.0m高までは、その面積の半分をカウントし、2.0m高以上は全部カウントする。
これは非常に合理的なカウント方法だと思う。
ということは、バウマンさんの自宅は、地下室、内法寸法、それに小屋裏のカウントを含めて考えると75坪の住宅ではなく、日本流に言えば100坪の住宅だということがわかってくる。

DSC01040_convert_20080619183413.jpg
地下室に設置された地下水ヒートポンプ用のコンバーター。

このバウマン邸は地下水ヒートポンプによる天井暖房システムを採用している。そのシステムも大変に面白いが、ここでは割愛。
ともかく、この住宅の暖房・給湯の平方メートル当たりの年間燃費は25kWhという。暖房だけでなく給湯を含めているから、ほぼパッシブハウス仕様。
Q値で表現するならば0.5Wから0.6Wというところ。
日本では見られない飛び抜けた性能。

さて、今回はそのパッシブ仕様のことを語ろうとしているのではない。
このバウマン邸はなんと11kWの、日本製の太陽光発電装置を搭載している。
この搭載費用は、当時で5万ユーロ(最近はユーロ高で168円近くもしている。仮に165円とすると825万円)かかったという。(消費税は別。当時は16%で現在は19%)
75万円/kWという高い設備投資。消費税まで含めるとKW当たり90万円となり、とても償却出来そうにない。

ところが、ドイツ政府はサスティナブルな電力を普及させるために強力な施策を用意していた。
それは、家庭に太陽光発電を早く普及させるために、30kWまでの設備に対しては有利な価格で電気を買い上げる制度を指示していた。(1ユーロ165円換算)

2004年契約住宅  0.574ユーロ(94.7円)
2005年契約住宅  0.545ユーロ(90.0円)
2006年契約住宅  0.518ユーロ(85.5円)
2007年契約住宅  0.492ユーロ(81.2円)

つまり、早く太陽光を導入すればするほど、有利な売価が得られる。
バウマン邸は2006年の12月に完成した。
そして、2006年12月から1kW当たり0.518ユーロ(85.5円)で電気を買い上げますという20年間に及ぶ長期契約を電力会社としている。
しかも、日本の3kWとか5kWではなく、30kWまで買い上げるという。
これを宇都宮の買い上げ価格と比較してみる。
5,988kWの電力の売価が15.537万円だからkW当たり約26円となる。
なんとバウマン邸の売価は日本の3.3倍もしている。
もちろん、ドイツのkWh当たりの電気料は0.19ユーロ(31.4円)としているから、単純に比較するわけにはゆかない。

そして、バウマン邸が昨年一年間の売電は12,800kWhだったという。これに0.518ユーロを掛けると6630.4ユーロ(109.4万円)となる。
つまり、バウマン邸は一昨年11kWの太陽光発電を、消費税込みで5.8万ユーロで搭載した。しかし、毎年6,630ユーロずつ償却出来るとなると、単純計算で8.75年間で償却できるという勘定になる。残りの11.25年間は毎年109万円ずつ儲かるということ。
日本では、バウマンさんの半分の5.7kWの償却に22年間もかかることを考えると唖然とさせられた。
だいたい、太陽光発電の寿命そのものが何年なのだろうか。20年程度のものではなかろうか? 
とすれば、少なくとも12年から15年で償却出来るようにすべきではなかろうか。
道路に5兆円もお金を投じるのではなく・・・。

そしてドイツのこの事実を、誰も今まで教えてくれなかった。日本の太陽光発電メーカーさんも、セキスイハイムさんも・・・。

ドイツが急速に太陽光発電を普及させ、日本を上回って世界一になったという背景には、このようなしっかりとした政治姿勢があった。
基本がぶれないポリシーがあったのである。
「200年住宅」という、血迷ったお遊びをしている日本・・・。

日本の政治と役人と大手住宅メーカーが「劣化」しているというのは、決して大袈裟な表現ではないと思う。

posted by unohideo at 07:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 海外情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月25日

追加訂正

本文の後半に「ドイツの過去30年間の省エネ基準」の推移とあるのは、正しくは「住宅の年間暖房費の基準」です。これも訂正させて頂きます。
posted by unohideo at 22:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 海外情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

訂正


ご指摘をいただきましたので訂正致します。
本文の中央辺りに「EPSは自己消化性があり」というのは「自己消火性」の間違いでした。
お詫びして訂正致します。
posted by unohideo at 22:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 海外情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ドイツのRC造の断熱改修  湿式外断熱の実績


日本では「耐震補強」が叫ばれている。
とくに四川大地震で多くの学校が倒壊し、空前の規模で若い命が失われた。そのニュースを見て、学校の耐震補強が大きく叫ばれている。
耐震補強のなされていない学校が、全国に40%あるという。
「道路建設より学校の耐震補強を優先すべし」という意見に肯かされる。

一方ドイツでは、大きく叫ばれているのが「断熱改修」。
戸建て住宅もさることながら、RC造の中高層アパートなどが主な対象。
とくに旧東ドイツ時代のアパートは、断熱面できちんとした工事がなされていなかった。
古い建物は、一定の期間がくると外装などの改修が必要になる。
どうせ改修をするのなら断熱まで改修をした方が、消費者と地方自治体と、おまけに地球のためになる!
ということで、サッシの取り替えとRC造の外側にEPSやロックウールを外断熱として施工をしている。こんな現場はザラで、ドイツでは珍しい現象ではない。

木造住宅の場合は、壁の中へ断熱材を充填する「充填断熱」が世界の主流。
それで不足すれば、壁の外側とか内側へ断熱材をプラスする。
木造で、外断熱しかやっていないというのは折角の空間のムダ使い。こんな馬鹿げたことをやっている国は、先進国では日本しかない。
実にお恥ずかしい話。

しかし、RC造の場合は充填断熱という器用なことは原則として出来ない。
RCの内側か外側のどちらかで断熱するしかない。
暖かい日本では、ごく最近まで断熱の必要性がそれほど叫ばれてこなかった。断熱材を入れたとしても内側に25mmとか、最大でも50mmの断熱材の施工。
ところが、寒いドイツでは内断熱だと結露が多発し、とくに冬期にカビ、ダニが発生してシックハウスの最大の原因に挙げられ、社会問題化してきている。
このため、早くから外断熱が採用されてきた。

そのRC造の「湿式外断熱協会(WDVS)」が、なんと50年前に設立されている。
そして、さる23日にNPO外断熱協議会主催のセミナーが開かれ、ドイツ湿式外断熱協会の専務理事ヴォルフガング・セッツラー氏が講演を行った。
この講演は、特別新しい技術情報はなかったが、今まで知らなかった側面を教えてくれて面白かった。先に取り上げたエネルギー・パス問題にしても、同協会の周辺からドイツの新しい情報がいろいろ発信されてくる。
木造住宅にあまり関係のない話だが、日本では公営・公団住宅をはじめとして古いマンション住宅や社宅などRC造の断熱改修が急がれている。
CO2の削減には、新築住宅もさることながら既存の古い「非断熱共同住宅」の改修がこれからのポイントになってくる。
ということで、今回はドイツの湿式外断熱に焦点を当ててみた。


RIMG5911.JPG

50年前に始まったドイツのRC造の外断熱での改修。
強固な保持金物をコンクリートに打ち込み、断熱材を施工し、サイデング等の乾式のパネルで仕上げる方法は各国で試みられている。
しかし、これでは建物の質感やイメージが全く異なってしまう。そして、コストは必ずしも安くない。
そこで、断熱材を接着剤で外壁に固定し、その上に薄いモルタルなどで仕上げる湿式工法が早い時期から試みられてきた。
ところが、最初の時期にはキツツキが薄いモルタルを破いて中の断熱材の中に巣をつくるとか、サッカーボールが当たって亀裂が生じるとかのクレームが続出した。

そうした試行錯誤の結果、現在行われて方法に集約化されてきている。
その方法とはRCの外表面をよく洗い、あらかじめ混合された接着剤を塗布して70mmから100mm厚のEPS、または板状のロックウールを施工する。
その断熱材の上にセメントを含まない樹脂系のベースコートを薄く塗布してグラスファイバーのメッシュを入れ、その上をもう一度ベースコートで抑える。
そして仕上げは着色自在な2mm〜4mm厚の塗装仕上げ。
この塗装仕上げのほかに、非凍結の疑似レンガによる仕上げ方法もある。

そして、現在では湿式外断熱として名乗りを挙げているメーカーの数は100社にも及び、認可を受けているシステムは350にも及ぶという。とても特許と言えるような状態ではなさそうだ。
低層木造用の木質繊維系の外断熱の場合も、薄いベースコートとグラスファイバーを使っている。このベースコートと仕上げの塗装は、湿度を透すようになっている。
グラスファイバーのメッシュが開発されたことによって、薄くても亀裂が生じなくなったことと、断熱材の種類によって透湿、非透湿の仕上げ塗料を使い分けられるようになったことが、ドイツで湿式外断熱が普及した大きな原因と考えていいようだ。

RIMG5913.JPG

さて、RC造における外断熱用の断熱材の比率は、上図の通り。
EPSが圧倒的に多くて82%も占めている。そしてもっと多いと思われたロックウールが以外に少なくて15%。残りの3%が木質系や真空パネルなど。
ドイツでESPが圧倒的に多いのは、防火に対する考え方が日本と根本的に違うという点に留意しておくべき。
ESPは自己消化性があるからといって、日本の防火や準防火地域の中層住宅にそのまま採用されるとは考えられない。おそらく、試験データを提出して認可を受けなければならないはず。
詳しく調べたわけではないか、ドイツでは防火認定をとらなくても、中高層住宅にPVCやウッドのトリプルサッシが使える。
そして、サッシの上部分に防火のカバーを取り付けるとか、界床部分に全面に縁を切る防火カバーを施工すれば良いとされているようだ。
日本では、何でも試験させられ、役人のOBが食ってゆけるようになっている。
消費者のことを考えて、良いシステムをオープンにしてゆこうという考えがない。
湿式外断熱はこうした防火の面で、日本の役所の対応という大きな壁にぶつかることになろう。

さて、その湿式外断熱工法の普及である。
2007年のヨーロッパにおける普及率は下記のようだったと専務理事は言う。

ドイツ        4000万m2
ポーランド      1000万m2
チェコ         960万m2
オーストリア      860万m2
スイス         360万m2
フランス        300万m2

そして、ドイツでは過去50年間に7億6000万m2の湿式外断熱を施工してきているという。これは新築と断熱改修の両方を兼ねた数字だと考えられる。
この湿式外断熱の施工によって節約されたオイルは2500億リッターにも及ぶという。これをユーロに換算すると1500億ユーロ以上(24兆円)というけたたましい数字になる。

こうした断熱改修された住宅は、今年の7月から始まる「エネルギー・パス」で明記されてゆく。省エネ性能の高いアパートとか戸建てが評価されるシステム。
先に見たように、このエネルギー・パスという制度は、消費者にとって最も分かり易い優れた省エネ性能表示システムだと思う。
このシステムの登場によって、日本の各省、各団体、研究機関から提案されていた省エネ性能表示システムは完全に影が薄くなってしまった。
日本で、エネルギー・パス制度が採用されると、断熱改修工事が一気に進むことになる。断熱改修とエネルギー・パス構想は表裏一体の関係にある。
このことを強調しておかなければならない。

ドイツの省エネ基準は過去30年間に以下のように変化してきた。
1977年     200kWh/m2
1984年     150kW/m2
1995年     100kWh/m2
2002年      70kWh/m2
2009年      50kWh/m2
2012年予想   35kWh/m2
2020年予想   15kWh/m2

つまり、2020年にはパッシブハウスの提唱している15kWh/m2という数値がドイツの省エネ基準になるというのである。
昨年のパッシブハウス実績はドイツ7000戸、オーストリア1600戸、その他400戸、計1万戸だったという。これがあと10年余30万戸から40万戸になるというのだ。
そして、省エネ基準が厳しくなれば、当然断熱改修の基準も厳しくなってゆく。
過去10年間に湿式外断熱の断熱材の厚みが、1998年の74mmから2007年の100mmへと26%も増加してきている。この動きはエネルギー・パス政策の実施によって、更に加速されることになろう。

RIMG5915.JPG

ドイツの新築住宅の着工量は10数年前に比べて半減してきている。その分、ゼネコンとか住宅業者が断熱改修の分野へ進出してきているのだと考えていた。
ところが、上図のように出身業種は塗装と左官が圧倒的。
これには意表を突かれた。日本の塗装屋さんと左官屋さん。ちーとは考えた方がいいですよ。
そしてゼッツラー氏は次のように叫んで講演を終えた。
「環境と消費者に貢献しながら利益をもたらすことが出来るのが断熱改修工事だ」と。
posted by unohideo at 11:42| Comment(1) | TrackBack(0) | 海外情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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