山林の生産性向上には、高性能な大型機械の導入が不可欠。
しかし、その大型機械が効率よく稼働するには、山林内に道路網が整備されていなければならず、またその機械が効率良く働けるだけの広い山林が用意されていなければならない。
この事前整備が大変に難しい。
前回見たように、日本の山林は20ha以下の地主が83%も占めている。
1人や2人で機械を購入しても稼働率が低く、とてもソロバンに合わない。つまり宝の持ち腐れとなる。
このため、日本では大型機械の導入が大きく遅れた。
前回紹介した鶴岡市の加藤さんはたまたま100haという3%しかいない大地主であったから独自で機械を導入することが出来た。そして、その効率の良さを見た地元の山林組合の面々が、その機械をレンタルで活用した。
林業白書では、そのことを「団地化の必要」と「路網の整備の必要」と書いている。
書いてはいるが、これこそがポイントだと力説していない。他の項目と同じように並べて、さらりと触れているだけ。
このことが問題だと思う。
日本の山林を本当に立て直すには、このポイントをしっかり抑え、成功事例を出し、その成功事例を全国に拡げてゆかねばならない。これこそが山林経営戦略。
その戦略論が林野庁に稀薄なことが情けない。
そこで、日経の夕刊に掲載された京都の日吉町森林組合の成功事例を取り上げるわけだが、その前に、前回紹介しきれなかった林業用機械のいくつかを、先に紹介しておきたい。
まず、フェラベンチャ。
これは伐採と集積機で、ヨーロッパでは幅広く採用されているが、日本では少ないようだ。日本では間伐材の小径木は電動ノコで伐採され、プロセッサという枝払い、玉切り、集積の3つの機能を持つ機械で処理するのが一般的なよう。
また、ヨーロッパでは、フェラベンチャよりも上写真のハーベスタの方が多く採用されているらしい。
日本で一番多く用いられているプロセッサは3つの機能しか備えていないのに対して、ハーベスタは伐倒という機能も備えている。
つまり伐倒、枝払い、玉切り、集積の4つの機能を果たしている。
そして、キャタピラ機もあれば太いタイヤ機も用意されている。
上は、前回紹介した演習林の尾張氏のコラムの中に掲載されていたスウェーデンの山林現場でのハーベスタとフォーワーダのスナップ写真。
このほかに、タワー付きの集材機のタワーヤーダという機械も採用されている。これは集材専用機。値段は高いが鶴岡市の加藤氏が購入したスィング・タワー・ヤーダの方が多目的に使えるので素人目には優れているように感じられる。
さて、こうしたハーベスタという伐倒と造材、プロセッサという造材、フォーワーダという集積・配送、スイング・タワー・ヤーダという多機能な機械が山に入るには、幅員が2.5mから3.5mの道路網が山林の中に整備されていなければならない。
かつて林野庁が進めたスーパー林道は、山を破壊する以外の何ものでもなかった。言うならば土建屋のための道づくり。
先進しているヨーロッパ各国の山林の実態調査をすれば、こんなものよりも路網の整備が緊急事だということが誰にでもわかったはず。
湯浅勳著「山も人もいきいき 日吉町森林組合の痛快経営術」(全国林業改良普及協会刊、税込み1900円+税)は林業の現場からの報告書としては出色。
この本を見て、日経が3回に亘る記事として取り上げた。
著者は工業高校の機械科を卒業して旭化成や中小企業で働いていたが、35才の時、定年退職の父親の跡を継いで1987年に森林組合へ転職。所得が半分以下になるのは覚悟の上だったが、組合の内部の全てがひと昔前の旧態のままだったのには呆れた。
組合員は他の産業界のことを何も知らない。したがってどこに問題があるかが分からない。管理体制もいい加減なら現場作業のデータもない。責任体制もはっきりしていない。労働条件も出来高の日給制。雨の日は休みで、仕事は下草刈りや枝打ちなどの単純作業のみ。とても魅力のある職場ではない。
何よりも問題だったのは仕事の中身。
森林組合は森林所有者の出資で運営され、その目的は森林の保全と生産力の増強を図ること。ところが、実態は公共事業や官公造林への依存度が高く、本来の目的を放り出して下請け仕事で食いつないでいる有様。
ともかく機械化をやらねばならないが、それには資金が必要。幸い89年から97まで日吉ダムを建設するため立木伐採の仕事が入った。その請負金からハーベスタ(伐倒造材機)などの機械を徐々に揃え、作業道の路網づくりも始めた。
他の業界のことが分かっていたから、著者には改善策が用意出来た。そして、その改善案に対する反対は一切なかったという。このままではダメだということは分かる。しかしどうしたら良いかが分からないというのが、他業界を知らない全国の森林組合に共通の現象ではなかろうか。
同組合で間伐事業を本格的に開始したのは95年。
組合の機関誌に間伐を呼びかけたけれども、待てど暮らせど一つの依頼もない。
思い至ったのは、木材価格の長期低落で山林所有者はほとんど山へ入って居らず、荒れている実態を知らないという事実。そこで写真で実体を知らせる。
同時に間伐の見積もり費用を写真と一緒に提示した。
この見積もりの精度を高めるのには大変な苦労をしたが、併行して小規模所有者の境界を確認しながら山林の「団地化」を進めた。
路網をつくるには、この境界線の確認と団地化が避けられない。これこそが零細な日本の森林を活性化させる基本作業。作業道のない山林は、間伐も伐採、搬出も出来ない。極論すれば価値のない山。
こうした「森林プラン」をつくり、写真と見積書を所有者に郵送した。
そしたら、狙いどおり90%以上の契約率が得られた。
そして、驚かされたのは不在地主の反応。
同町の山林面積の23%が祖父や親の代に山を離れた不在地主のもの。その不在地主に写真と見積書の森林カルテルを郵送したら、ほとんどから直ぐに契約サインが返送されてきたという。きちんとした計画を立て、組合が責任を持って管理するならば、日本の森林は管理出来ると言うことを湯浅氏は立証してくれた。
しかし、路網づくりと機械化に先鞭をつけた同組合だったが、04年の台風で大打撃を受けた。なぎ倒された樹木は2万本。作業道の破損箇所は500ヶ所にも及んだ。
林野庁の作業道の基準に従ってつくった路網の被害がもっともひどかった。流れてきた枝葉が排水管に詰まって作業道を破損した。
各地の識者に聞いて歩いた結果、よく管理されている山は人工的なものはほとんど使っていない。山のランドプランニングというのは、山のあるがままの姿を活かすというのが欧米での基本。日本の土木工事のように、やたら切り土とか盛り土はしない。
こうした貴重な経験に学んで、現在では路網の最大縦断傾斜角は25%以内で、出来るだけ自然を活かすようにしている。
それと著者は、針葉樹を植林してはいけないところまで植林しているのを見直す必要があると書いている。宮脇昭伝氏がいみじくも指摘しているように、昔は急斜面や水源などはウラジロガシやアカガシなどの自然林を残し、未然に災害を防いできた。同組合はどこまでこうしたことをやっているかは分からないが、絶対に忘れてはならない視点である。
同組合には、昨年は150余の組合、今年は200の組合から研修依頼が舞い込んできているという。成功事例の普及ということで、とても素晴らしい事件だと思う。
しかし、路網づくりは未だに30%に過ぎず、100%を達成するにはあと10年はかかるという。まだまだ手放しで喜べる状態ではない。それに枝や樹皮を含めたバイオマス活用のことを考えると加工工場の有無が気にかかる。
と同時に、地場のゼネコンさんにとって大変なチャンスが到来しているのではないかという感じがしてならない・・・。
というのは、ゼネコンの社員はパワーショベルの扱いに慣れている。したがってハーベスタ、フォーワーダなどの扱いは慣れればお手のもの。
ただ、今までの切り土とアスファルトと土管だらけの道づくりは役に立たない。
ランドプランニングというソフトと、植林のノウハウと、しっかりとした経営力を身につけることが出来たら、山づくりのプロ、力強い助っ人になれる最短距離に、地場ゼネコンが位置しているのではなかろうか・・・。
【木質構造と林業・加工業の最新記事】

