2007年11月10日

『無暖房は過大広告』 『パッシブは垢まみれ』  (塩尻随感1)


「旅はしてみろ、人には添ってみろ」
誰の言葉だったか戯言かは忘れたが、まさに至言。
塩尻へ行って、いろんな新しい考えや貴重な実績体験を聞いて、強い刺激を受けました。


RIMG4306.JPG
写真はパネルディスカッションの模様。右からマックス・シュテムスホルン氏、山下恭弘信大教授、田代育夫桜ハウス施設長、堀内正純事務局長



ハンスさんの「無暖房住宅」をいち早く日本へ紹介したのは山岡淳一郎氏の「あなたのマンションが廃墟になる日」だった。
東北大の吉野先生は、この本を読んだのかどうかは判らなかったが、ハンスさんのプロジェクトのことはとっくに熟知しておられた。
そして一昨年、山岡淳一郎氏とコンタクトをとったNPO法人外断熱推進会議がハンスさんを日本へ呼んできて、各地で講演会を開催した。
この講演会に最も強く反応したのが北海道でも仙台でもなかった。
ダークホースといえる信州だった。

信州大学工学部には温熱の専門家が不在。
そこで音響が専門の山下恭弘先生を担ぎ出し、建材業者やビルダー20社が集まりSAH会(信州の快適住宅を考える会)を組織して勉強会を続けていた。
そこへハンスさんが飛び込んできたというわけ。
一気にヒートアップして「無暖房をやってみようか」ということになった。
そして、信州大学の校内に16u平屋建ての実験棟(Q値0.72W)が建てられ、計測が始まった。

それだけでない。
ホクシンハウス(Q値0.68W)が長野市に、佐々木工務店(Q値0.77W)が御代田町にそれぞれモデルハウスを建て、一年間にわたって山下研究室に温熱の測定をしてもらっており、そのデータはすでに公表されている。
こうしたモデルハウスとは別に、井坪建設が駒ヶ根市に完成させた分譲地内の119uの4人家族の住宅でも5ヶ月にわたる実際の生活データも発表されている。
こうした住宅とは別に、タカネヒューマンサポート社が茅野で、RC造で延べ773.4u(234坪)の介護施設「桜ハウス玉川」(Q値0.62W)を完成させており、これまた山下研によって一年間に亘る詳細なデータがとられている。

このほかに、仙台の北洲ハウジングの「サスティナブルハウス」は東北大吉野研でデータがとられている。10月末に仙台で開催された国際会議でそのデータが発表されたはずだが、残念ながらまだ入手出来ないでいる。
一番PR活動に熱心な山梨のサンワホームは、実験棟が完成したというニュースがあったきりで、その後のデータの発表がない。山下研ではなく坂本研に依頼しているのかもしれないが、それにしても未だにSMASHによるシミュレーションだけで「無暖房」を謳い、堂々と商売をやっているくそ度胸には呆れる。
1日も早いデータの発表がないと・・・・・・。

こうしたデータを、ここで細かく分析することは省く。
ただ言いたいのは、日本で建てられた住宅のいずれもが「無暖房住宅」ではないという事実。表示に偽りがある。

ハンススさんの言った「無暖房住宅」の定義は、「暖房機のない住宅」。
「セントラル暖房設備費に100万円かかっているとしたら、40万円をより厚い断熱費にかけ、40万円でより性能の良いサッシに変え、残りの20万円を熱回収率の高い換気装置にかける。そうすれば、建築コストを上げることなく無暖房住宅が得られる。つまり暖房のランニングコストが一切かからない住宅が得られる。このことは消費者にとって大きなメリットがある」というのが無暖房住宅。

ハンスさんは、いきなり無暖房住宅を建てたわけではない。
25年前に16世帯のための2リッター/uハウスを建てている。
そして、23年前には1.75リッター/uハウスに成功している。
つまり、現在ヨーロッパで共通の目標とされているパッシブハウス(1.5リッター/u)に近いものを23年前に建てた実績を持っている。

この実績と経験をもとに、イエティボリに2000年に完成したタウンハウスで、無暖房を実現した。
ところが、そのごスウェーデンでは、無暖房住宅は建てられていない。
建てられてきたのはパッシブハウス。
これが昨年まで141戸だったという。
それが、今年と来年の計画を合わせると一気に1046戸に急伸していると堀内氏は報告している。
スウェーデンに建てられているのは「暖房費ゼロ」住宅ではなく、どこまでも「パッシブハウス」であるという事実を、はっきり認識しておきたい。

今度の講演でドイツの建築士であり大学教授でもあるマックス・シュテムスホルンさんは次のように語った。
「ドイツでは、今まですでに8000戸のパッシブハウスが建てられている。しかし、暖房費ゼロの住宅はコストが20%から30%も割高になるので実用的ではない。ドイツでは誰もが無暖房住宅を建てようとは考えていない」と断言した。
そして、講演会が終わった後で通訳に聞いてもらった。
「ドイツでは近い将来、パッシブハウスの比率は何パーセントぐらいになると考えておられますか」と。
そしたら氏は、あくまでも個人的な見解にすぎないがと前提して「5年後には、新築の30%にまではゆくでしょう」と答えた。
パッシブハウスを侮るなかれ! である。

こうした諸外国の現実を前に、山下先生も一部の業界人の「無暖房住宅」という無責任で不用意な発言に苦言を呈した。
「北海道の先生方とも相談したのですが、日本で無暖房住宅と呼んでいるのは正しくない。いま北海道で訴訟事件が起こっている。業者がいい加減なシミュレーションに基づいて、年間灯油代が400リッターで上がりますとか、無暖房住宅ですと誇大広告を行い、それを咎める動きが出てきている。無暖房住宅という表現は、謹んでゆくべき」と。

全く、その通りだと思う。
日本で実現したのは、ハンスさんが25年前に達成した2リッターハウス/uにも及ばない。
無暖房住宅と呼べるのはおそらくQ値が0.5W/u以下であろう。
どんなに断熱材を厚くしても、K値が1.0W以下のサッシを入手することが出来ない日本においては、適正価格での無暖房住宅は不可能。
日本で「無暖房住宅」とか「ゼロエネルギー住宅」と叫んでいる会社は、羊頭狗肉で消費者を愚弄するニチアスや赤福と同系列の会社と考えてよい。

といって「パッシブハウス」で良いのかどうか・・・。
私はヨーロッパの実態から「パッシブハウス」と割り切ってきたが、日本には「パッシブ」という言葉には大きな拒絶反応がある。
かつての中断熱低気密の、何とかソーラーとかなんとかサーキットなどという「パッシブソーラー」での、手垢で汚れた不快な住宅を連想させるから・・・。

とすれば、なんと表現したら良いだろうか。
カナダのネット・ゼロもピンとこない。
堀内氏によるとスイスの建築家ヘルシンボリ氏は「Self Heating House」と呼称しているそうだ。なかなかとは思うが、パンチ力に欠ける。

どなたか、素晴らしいネーミングを考え出して下さい。
お願い!

posted by unohideo at 11:47| Comment(4) | TrackBack(0) | シンポジウム・講演 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
大変有益なお話と思い感心しきりに拝見していたのですがその中で一つ質問があります。無暖房住宅とQ1程度の住宅で暖房ありの場合とでは快適性においてはどちらが有利ですか?素人考えですと後者の方が優れているように思うのですがいかがですか?
Posted by ソレア at 2007年11月11日 23:51
ごめんなさい。
すっかりご質問を見落としていました。
快適性は明らかに無暖房にあります。
何しろ、性能はQ1の2倍ですから。
窓際へ行っても冷えを感じませんし、室内の温度差はゼロ。
しかし、本当の無暖房住宅はやたらと高価に。
したがってQ-0.7W程度が、価格と性能で最適ではないかと考えます。
Posted by uno at 2007年12月10日 08:47
ごめんなさい。
ご質問を見落としていました。
無暖房の方がはるかに優れています。
性能がQ-1Wの2倍。したがって窓際でも冷気を感じなく、温度差はゼロ。
しかし、無暖房は価格が高すぎます。
Q値0.7W程度が、日本では最適のようです。
Posted by uno at 2007年12月10日 08:55
ご丁寧に回答下さいまして有難うございます。

こちらこそお礼が遅くなり申し訳ありません。
大変参考になりました。

書き込んだ後にフォーラムがある事を知ったのですが
今後はそちらへ質問させて頂きたいと思っておりますので
どうぞ宜しくお願いいたします。
Posted by ソレア at 2007年12月27日 08:34
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