2007年09月25日

カナダ生まれのアンさんの「産農協同の無農薬米による酒づくり」


カナダ生まれの「あん・まくどなるど」さん。
高校および大学時代に日本へ留学した経験がある。
バンクーバーにあるブリテッシュ・コロンビア大学の日本語学科を首席で卒業。
長野県のトムソウヤ(富夢想野)舎の農村塾で6年間にわたって農村をフィールド・ワーク調査。

その研究成果を「原日本人の挽歌」(清水弘文堂)として発表し、世に出る。
しかし、1994年に長野の定点観測拠点が火災で焼失し、生活の基盤を失った。
それからの7年間は「原日本人観測」から「現日本人観測」に視点を変え、日本全国の農村漁村をフィールド・ワークしてまわった。

そして、2001年に宮城県のJR松山町駅に降りた時「この町こそ私の永久的な観測点、カントリー・ホームである」と直感。
それからの6年間、きれいな沢の水で無農薬の米をつくり、その同じ沢の水で酒をつくる「産農協同プロジェクト」の一会員として参加させてもらいながら書き上げたのがこの本。
あん・まくどなるど著「田園有情 ある農家の四季」(発行アサヒビール・発売清水弘文堂  税込み1990円)


RIMG3094.JPG

ことの起こりは、宮城県の若手酒造組合員4社による「醸和会」という勉強会。
中小企業構造改善制度に共鳴して企業合同をし、1972年に「一の蔵」を誕生させた。
そして、松山町に7つある沢の水の良さにこだわって、環境保全型の米造りによるおいしくて安心な酒造りの模索をはじめた。
その農家側の受け皿となったのが「松山町酒米研究会」。
発足当時の会員農家数は12。栽培面積は8.6ヘクタールだった。
それが今年は36農家に増え、栽培面積は8倍以上に増えて70.6ヘクタールになっている。

この一の蔵の広報を担当していたのが故人となった鈴木和郎さん。
あんさんの講演を聴いてその「農業感」に共鳴し、松山町へ呼んできて講演会を開催したのがきっかけ。
当時あんさんは山形に住んで、宮城大へ専任講師として通っていた。
そこで鈴木さんが当時の狩野町長にかけあって、「町が管理している旧家老屋敷を提供するから松山町に住まないか」ということになった。それが01年のこと。

仙台藩伊達家臣には「一門」から「郷士」まで12の家格があった。
松山町の殿様茂庭家は上から4番目の「一族」で禄高は1万3千石。
その由緒ある広大な屋敷。樹齢350年という樹木が育ち大きな池もある屋敷の最後の住人は子孫の鈴木博子さん。学校の先生で生涯独身だったが、死ぬ前に先祖代々の貴重な遺産を後世に伝えるために町に寄贈。
そこへ、カナダ生まれの若きおばさんが住みついた。
そして、02年から酒米研究会に特別会員として参加させてもらい、米づくりのママゴトを
はじめたというという次第。

この著書は、歴史のある美しい農村の写真集でもある。
と同時に、新しい農村の息吹も謳っている。
4年半も前から撮りはじめた数多くのカラー写真と白黒の陰翳に富んだ写真が、ほぼ全ページを飾っている。
いかにもフィールド・ワークを主体にした著者の意気込みと感受性が伝わってくる。
カナダ人女性が捉えた感動がビンビンと響いてくる。
したがって、やれ環境問題とか、農業問題とかと肩をはらずに、詩か俳句集を詠むような気楽で素直な気持ちで読めるのが嬉しい。

それと、面白いのはこの本が出版されたのが今年の7月。
その1年前の昨年8月に、一の蔵の関係者とか酒米研究者を集めて「あとがき座談会」を行っていること。故人の鈴木さんがこの座談会に加わっているのが印象的。
あとがきというからには、当然著作作業が終わって、ゲラ刷りを読んでの座談会。
ところが、この座談会の時点では、一行も書いていない。
写真が集まり、構想がまとまった段階での座談会。
したがって、この座談会がきっかけとなり、ペンが一気に進んだのだと読みとれる。
これも、考えようによっては「いかにもフィールド・ワークに軸足を置く著者らしい振るまい」ということになる。

いち早く高気密・高断熱住宅に取り組んだビルダーと同様に、いち早く有機農法・無農薬栽培に取り組んだ農家。
それは「地球を守る」という大袈裟なことが動機ではなかった。
自分が食べたくない農薬まみれの不健康な野菜や果物、米はつくらない。
量が売れさえすれば良いという、農協指導の量産作物づくりはお断り。
「健康で、おいしいものを作りたい」というのが動機だった。
そして、自分の手で仲間と消費者を開発していった。
ビルダーの場合も、次世代省エネ基準で、スカスカの気密性しかないプレハブ住宅では絶対に健康な子どもが育たない。「自分が住みたい家は、もっとソフトな温かさと爽やかで涼しい家でありたい」という動機からスタートしている。

そして、温暖化という地球的規模の環境問題から、有機農業も高気密・高断熱住宅も、次第に主流になろうとしている。
しかし、いずれの世界でも既得権を守ろうとする守旧派が各派を巻き込んで抵抗を続けている。

その中にあって松山町のプロジェクトが素晴らしい点は、一の蔵という酒蔵がリスクをとって契約栽培を軌道に乗せつつある点。
環境保全型農業の審査に合格した酒米を一の蔵は通常より高い価格で買う。審査を通らなかった酒米は通常の値段で買う。いずれにしろ、契約栽培のものは審査を通る、通らないにかかわらず、全部酒造会社のリスクで引き受ける。
初年度は2戸の審査不合格が出た。
決められた量の除草剤を散布したあと液体が残った。それを「もったいない」と、ついつい余分に散布して落伍者となった。

しかし、落伍者は切り捨てない。カイゼンしていこうじゃないか。
だが2年目。審査外れがまた出た。
今回は初年度ほど甘くはない。生産者に罰が与えられ、現場は真剣になった。
3年目。全員外れ無し。
今年の5月、酒米研究会全員がエコ・ファーマーとして認定された。
そして「一の蔵」のはニューヨークの酒場でも大好評を博している。

著者はこのほかに、機械をはじめとした農業のエネルギー問題に言及している。
私が心酔している岩澤信夫氏の「不耕起農業」のすばらしい可能性にも触れている。
カナダ生まれの若きおばさんは、あなどれないどころか、その好奇心あふれるバイタリティから学ぶべき点が多い。
posted by unohideo at 04:58| Comment(1) | TrackBack(1) | 食品と農水産業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
で、この、おばさんは、2014年、何してるんでしょうか?
Posted by 箕輪伝蔵 at 2014年01月03日 22:31
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

短歌研究 2007年 10月号 [雑誌]
Excerpt: 短歌研究 2007年 10月号 [雑誌]・「俳壇目安箱」抄(2)・早期 英語教育 : 幼児の早期教育について幼児 教育 研究 家・髪型 関連 可 速について幼児 教育 研究 家・韓国における俳句の受容..
Weblog: ゆうかの日記
Tracked: 2007-09-29 00:40
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。