2007年08月10日

「NOはいうべき! ナンバーワンビルダーの現場監督」

今週の「独善的書評」欄で、林田正光著「NOは言わない! ナンバーワンホテルの感動
サービス革命」を取り上げた。
たった2年間で日本1といわれるようになったリッツ・カールトン大阪のホテルの、そのサービスの実態をわれわれ住宅業界も知っておくべきだと考えたから。

しかし、住宅業界では「NOと言わない」ことが、必ずしもお客に対してのサービスになるとは限らならない。
私の経験では、むしろ毅然とした態度で施主に対して「NOと言って上げるあげることが真のサービスになる」ことの方が多かった。

施主の要望は徹底的に聞かねばならない。
例えば「ここに大きな窓が欲しい」と言った場合、それは採光を求めているのか、風通しを求めているのか。あるいは眺望を求めているのか、単なる思いつきの発言なのか。
そして、大きな窓を設けることによって家具の配置が限られ、生活の動線が制約されてくる。生活が大きな制約を受ける。その制約を納得した上での発言なのかどうか。また、奥さんや家族の同意を得ているのかどうか。奥さんの同意を得ていないご主人の思いつきは出来るだけ避けるべき。

つまり、発言の裏の裏まで聞かねばならない。
そういった点では、住宅のプランナーやコーデネィターは最大の「聞き上手」でなければならない。
徹底的に聞いた上で、施主の望んでいるものを、別の形で最大限に表現した空間を提案しなければならない。でないと感動してもらえない。

施主の言うことをそのまま聞いてあげるのは「満足」
施主の思いを、施主が想像も出来なかった意表な形で提案することが「感動」

プランナーの独善的な提案ではなく、どこまでも施主の要望に基づいた提案。
間違っても安藤忠雄のようなマスターベーションの自己主張をしてはならない。
なぜなら、そこに一生住むのは施主。設計士様ではない。
とくに女性の生活体験に根ざした希望は120%の消化してあげねばならない。

こうした、施主のいくつかの要望の中で、どんなに施主が望んでも私が絶対に受け付けなかった要望がある。
それは、2世帯住宅のダウンライトと天井面のクーラーの設置。

20年前、東京で仕事をするということは、80%が古い住宅を建て替え住宅を建てるということであり、60%が2世帯住宅をつくることであった。2世帯住宅でなくても残りの20%はアパート併用住宅という形が多かった。
単世帯で住む150m2までの住宅だと、それこそ吹き抜け空間もあれば勾配天井もある。
何でもありの世界。親子の音はほとんど問題にしなくてよい。
したがって、単世帯の場合はほっとした。
外部騒音さえ遮断すれば、内部騒音を無視してよい。こんな楽な設計はない。
勝手に何でもやってくださいで済む。

ところが、2世帯となると、小さな設計ミスが全部クレームとなって上がってくる。
担当設計者の段階で解決出来る問題でない。
そして、何十、何百という施主を訪ねて、クレームの実態を聞き、具体的な対応策を提案しなければならなかった。

そうしたクレームから、いくつかの法則が出来てきた。
(1) 子供室の下におじいちゃん、おばあさんの部屋をつくってはならない。
(2) 体重が100キロを超えている婿さんがいる部屋の下には親世帯の寝室は設けない。
(3) 親世帯の朝が早い場合は、親世帯のフロアーの上に置きカーペットを敷く。
(4) 二階に裸足でぺたぺた走り回る幼い孫がいる場合は、二階のフロアーに置きカーペットを敷く。
(5) 二階の床は、公庫の仕様書で求めているものよりもランク上の剛のものにする。
 例えば210の根太で間にあっても、212の根太以上のものにする。
(6) 二階の床に、音響性能を決定的に落とす穴は絶対にあけない。
例えばダウンライトや天付クーラー、セントラル空調の天井吹出口は絶対に設けない。
(7) 二階の排水管の位置を徹底的にたしかめ、一階の寝室から大きく離す。
(8) アパートの界床には必ずシンダーコンクリートを打ち、原則としてアパートの根太間隔は210で2730ミリ以上とばさない。
(9) 本格的な二世帯住宅は、玄関を別にして直接お互いの音が階段室から抜けないようにする。
(10) 別玄関に出来ない二世帯住宅の場合は、階段室の上と下に、階段室へ入るドアを設置する。

このほかにもいくつかあるが、大きな家で二世帯が住む可能性がある場合は、最低この10の法則を守ってもらった方が絶対に施主のためになる。
したがって、いかに施主の強い要望であっても、私は絶対に妥協しなかった。
つまり、堂々と「NO」と言ってきた。
このため、一時的には施主から恨まれたが、この「NO」のおかげで室内の上下の音に関するクレームを画期的に少なくすることが出来た。

それと、もう一つ大切な「NO」がある。
それは、工事がはじまってからの「NO」。
構造的に明るくない施主は、工事現場をみて「ああしてほしい。こうならないか」と必ず言う。大手の企画住宅だと簡単に断れるが、地場ビルダーの注文住宅の場合は断りにくい。つい、監督が「なんとかしましょう」と言ってしまう。
私の経験では、なんとかなるのは2割弱。
素人からみれば何でもないようだが、鉛直荷重を考えるととんでもない工事になる場合が多い。この場合は「何とか考える」のではなく、即座に「NO」というのが親切。

それと、施主に約束して、守ってもらわねばならないことがある。
それは、現場で変更したいことが出てきた場合、職人に可否を聞き、相談することは大いにあってよい。ただし、直接職人に「仕事を頼んではいけない」ということ。
施主に言われたからと職人が動き、そのことで将来問題が発生した場合、ビルダーは責任を負うことが出来ない。保証が出来ない。
職人には「施主の変更希望は快く聞いてあげなさい。ただし、変更を承認するのはあくまでも現場監督。私共には決定権はありません。直ちに監督に伝え、指示を受けます」と言わせねばならない。
すべての職人が「YES」と言ったのでは現場の安全と性能と精度の確保が出来なくなり、工程と収益管理が出来なくなる。

完成したホテルと異なり、建築中の住宅の場合は耐震、防火、結露、気密、断熱、遮音、健康などに関わるさまざまな問題があり「NOといわない!」と言っていたら欠陥商品を生み出すことになりかねない。
「NO」と言う勇気を持つことと、ルールを守っていただくことこそが、ビルダーに出来る感動サービスの基本だと思う。

posted by unohideo at 08:49| Comment(0) | TrackBack(0) | ビルダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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