2007年05月05日

「消費者志向」から「テクノロジー・オリエンテッド」へ

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2年前に出版された長田貴仁著「シャープの謎 勝ち続ける日本力!」(プレジデント社 952円+税)に書かれていた「テクノロジー・オリエンッド」という言葉を思い出し、改めて読み返した。

2004年の時点では、シャープはまだ三洋電機の後塵を拝しており、大手電機メーカーでは9位という位置にあった。
それが今年度の売上げ3.3兆円、利益1000億円近く、設備投資3000億円という超優良企業に変身し、売上高でも三菱電機に迫ろうとしている。

シャープと言えば液晶と太陽光発電。
今から20年も昔。それほど名を知られていなかったシャープと提携して「高気密・高断熱住宅で3kWの太陽光発電を無料で搭載します」というキャンペーンを張り、太陽光発電普及の初期の2年間で100棟を売ると言う離れ業をやってのけたことがある。
当時の住宅業界では150万円とか200万円の値引きが日常茶飯事。
「値引きを一切やらない変わりに太陽光発電設備をサービスします」という新しい商法を編みだした。 地場中堅ビルダーのこの商法をNHKや大新聞が画期的だと大きく取り上げてくれ、エコ派とか未来志向派の顧客にマッチして、売れた。

しかし、補助金制度は抽選制ということと期間的な制約があり、これがネックになってスムーズに需要が計画出来ない。そこで2年間でこのキャンペーンは打ち止めに…。
だが、シャープはこの商法から学んだ。
つまり、省エネ性能の悪いザルのような住宅に太陽光発電を搭載しても意味がない。狙いは高気密・高断熱を志向しているメーカーであり、ビルダー。
ということで、シャープは京セラや三洋を抜いて太陽光発電のトップメーカー躍り出て、その後もトップランナーとして走り続けている。

当時、液晶の最大の需要はパソコンでもテレビでも携帯電話でもなかった。
電卓で開発した液晶を、電子手帳などのモバイルとしてなんとか拡販しようとしていた。今では信じられないが、当時の液晶の最大の顧客はパチンコメーカーだった。電卓とパチンコが日本の液晶事業を立ち上げた。

当時のシャープの社長は三代目として就任したばかりの辻晴雄氏。
この人は「商品の辻」と呼ばれた。
「お客様の目線で商品をつくれ」が口癖で、自ら消費者の立場に立って商品開発をリードした。いわゆる「消費者志向型の経営」をいち早く唱えた経営者。
残念ながら直接辻社長に会って話を聞いたことはない。
担当の取締役に、消費者志向型の商品開発の具体的な姿とは何かと聞いた。
「簡単ですよ。技術者を営業の第一線へ放り出すのです。ナマの声を聞くとピリリと締まってきます」という答えが今でも耳に残っている。そして、同社の多くの技術者と交流させてもらった。ギブ&テークで、朝日ソーラーの林社長に太陽光発電の販売ノウハウをレクチャーさせられたりもした。

さて、今では「顧客の声を聞く」のは当たり前のこと。
三菱自動車、雪印牛乳、不二家などの手厳しい「事件」を通じて、製造業だけでなく流通や金融、保険などあらゆる産業界で、消費者志向こそが商いの基本コンセプトとして認識されてきている。

ところが1998年からシャープの社長を務めている町田勝彦氏は、あえてアンチ・テーゼを投げかけている。
「ユーザーの要望、不満を聞いて商品化するユーザー・オリエンテッドの手法だけでは顧客に感動を与えられない」として04年から「テクノロジー・オリエンテッド」という言葉で訴求しはじめている。
消費者のニーズは多様化してきている。その多様化してきているニーズの全てに答を用意しようとすると多くの人とコストがかかる。
研究開発では、初期段階でどんなデバイス(部品)、材料を使ってやるかを探索する時点で多額の金と時間が必要。この時、マーケットの将来をしっかり見定め、的を外さないようにテーマを絞って研究開発をやらねばならない。ということは、自動的にテクノロジー・オリエンテッドにならざるを得ない。

つまり、多様化した消費者のニーズに応じるよりは、革新的なイノベーションで新市場を創出する商品の方が、はるかに消費者に感動と共感を与える。
電卓の商品化の過程で液晶を生み、それをベースにいろんな新しい商品を開発してきた。白モノ家電でも消費者のニーズからではなく新しいテクノロジーで商品やデバイスを産んできている。
売れる商品を効率よく開発するには「顧客の声を聞け」だけを金科玉条のように考えていてはいけない。イノベーションに磨きをかけてゆくことこそがポイントだというのがシャープの一貫したポリシー。

このポリシーがあったからこそ、バブルの時に財務主導で投機に走らなかったし、商品技術よりも経営戦略を語るトップがもてはやされた時代にあっても、シャープのトップは技術の蓄積を着実に進めてきた。
いたずらに海外に生産拠点を移し、技術の流失を損なうようなこともしなかった。
いや、生産技術を労働力の安い海外に移すと、その時点で意識が安住して思考が停止する。イノベーションが停まるという。
そして、テクノロジーが生産技術と一体化してはじめて継続的なイノベーションが可能になることを体得。また、開発した新技術が機械メーカーを通じて韓国や台湾に流失して2番手企業の追従を許してきたという苦い反省から、工場を丸ごとブラックボックス化してきている。
テクノロジー・オリエンテッドという今までになかったテーマを掲げ、国内の工場を舞台に急速に力をつけてきている企業の代表がシャープ。

さて、何故今頃になってシャープを取り上げようとしたのか?

住宅産業。なかでも注文住宅業界は、基本的には消費者志向型であるべき。
多様化した消費者のニーズを的確に汲み上げ、消費者が想像していた以上のデザインを提供し、考えもしていなかった楽しい空間を演出して豊かな情緒を育ててゆく…。
安藤忠雄のように消費者のニーズを無視し、自分を主張するための手段としてしか住宅を考えない人間を、賢い消費者は完全にボイコットしてきている。
これは非常に健全な、喜ばしい現象。独善的な建築家は住宅には不要。
そしてビルダーの中に、消費者志向で提案型の素晴らしいデザイナーが何人か育ってきている。

しかし、シャープの躍進を見ていると、それだけで良いのかという疑問がついて回る。
この10年間で、日本の住宅は長足の進歩を遂げた。
基礎工事は飛躍的に良くなったし、耐震性も画期的に改善されてきている。
サイデングにはびっくりするものが現れ、システムキッチンやシャワートイレなど設備機器も長足の進歩を見せている。

だが、住宅メーカーやビルダーは、アウトソーシングという美名のもとに全てを外注に出し、単なるアッセンブラーになってきている。そして、工法的には原価償却が終わった古い手法を死守している守旧派に堕している。
省エネ面や快適さ、健康面で画期的なイノベーションが見られない。
新しい設備投資がなされていない。
工場や現場をブラックボックス化しなければならないような、住宅メーカー主体のテクノロジー・オリエンテッドが不在。

未だに「蔵のある家」などを謳い文句にして商売が続けられ、低性能のパネルでフランチャイズが維持し続けられている住宅産業界…。
やはり、どこかが狂っている。

posted by unohideo at 05:06| Comment(1) | TrackBack(0) | 書評(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 Technologyかmarketかという議論は、2014年の今日でも当てはまるが、この記事は古すぎる。カレンダーも2009年7月でストップしている。三洋はいまや存在せず、シャープの業績も上がっていない。いまや液晶は、商品価値はそんなに高くない。このままでは、日本の家電業界が危うい。
 Technologyで勝ち上がってきた、ソニーも昔日の面影が薄れている。やはり、marketにも重点を置く必要がある。
Posted by 森 健一 at 2014年05月01日 21:28
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