すでに見てきたように、ファィスト博士が17年前、ダルムシュタット市に建てたタウンハウスの外壁および屋根の熱貫流率は0.15Wであった。
パッシブハウスというからには、最低この条件を備えていなくてはならない。
この0.15Wの断熱材の厚みとは、一体どの程度か?
プロである以上は、瞬時に判定出来なければならない。
私はこのように覚え、判定することにしている。
「5寸角の木軸の15cmの壁、ないしは206の14cmの外壁に、熱伝導率0.038Wの高性能グラスウールかロックウールを充填し、その外側にKMブラケットを使用して隙間無く熱伝導率0.036Wのロクセラムを10cm施工すれば得られる」と。
おおよそ、25cmの断熱厚で達成が可能。
したがって、驚くほど難しい仕事ではない。これだったらやる気になれば誰でも出来る。
しかし、熱伝導率が0.04Wの木質などの繊維系断熱材やEPSだと、充填+外断熱+内断熱を全部含めて30cmの断熱厚がなければならない。
つまり、木質繊維系断熱材が多いドイツの木造住宅の場合は、断熱厚の合計が30cmあればパッシブハウスと呼べる資格があると思う。
そういう視点で、ミュンヘンの木造住宅の展示場を見た。
ミュンヘンの木造住宅展示場には56棟もの住宅が並んでいる。
どんな展示場でも、消費者が入って見るのは多くて8棟。
外観のデザインとか、値段とか、大きさとか、自分の好みから考えて、どんなに沢山の住宅が並んでいても、入るのは8棟が限度。それ以上は疲れてムリ。
外観の写真を撮ったのは28棟。ちょうど半分。
私にとって、めぼしいデザインはそれだけしかなかったということ。
しかし、中に入ったのはその半分の、おそらく13〜4棟であったろう。
最初から調査目的がはっきりしておれば、片っ端から入ったかもしれない。しかし、展示場見学となると、日本での癖が出てしまう。自分の気に入ったものしか眼中に入らない。
入ったモデルハウスの2/3に、外壁断面図のミニチュアを展示してくれていた、という気がする。
なにしろ初めての経験だから、それぞれのモデルハウスによって、こちらの関心があっちへ行ったりこっちへ行ったり。焦点が定まらない。
いろんなところをパチパチとデジカメに納める作業で忙しい。
その中で、外壁の断面図のミニチュアを撮影したのはたった6点。
今となって、徹底的に全戸の外壁断面を撮影して回るべきだったと考えるのだが、文字通り後の祭り。
強行日程の最後の日だということもあって、集中力が欠落していた。
その6棟の外壁断面のミニチュアを紹介することにする。
すでに、皆さんが学習なさったとおり、ドイツの木軸の柱、および壁工法の間柱の外壁の厚みは16cm。
日本の木軸流で言えば5寸3分3厘。
ツーバイフォー流で言えば、私の命名した3×7(スリー・バイ・セブン)。
まず、この16cmの壁厚一杯にグラスウールが充填されている。その外側にEPSが10cm。内側に木質ボードが6cm。合計32cm。文句なく合格。
これは16cmの充填断熱材の外側に2cmの木質系と6cmのEPS。内側に2cmと6cmの木質ボード。計32cm。これも合格。
そして、下の写真は同行の小林氏が撮影してくれたもの。
この家はペアーガラスに過ぎなかったが、110uで売価が「91,999ユーロから」とあった。1ユーロが130円と計算すれば1200万円。120円だと1100万円。坪単価に換算すると33万円から36万円。本当?
設備がどこまで含まれているのかは分からないが、タマホームよりははるかに魅力的。
今回は、価格を本格的に調べなかった。したがって、平均的な坪単価を明言することは残念ながら出来ない。
だが、日本のペラペラなプレハブに比べたら、はるかにお買い得であることは請け合える。
これは16cmの充填断熱材の外側に2cmの木質ボードと10cmのEPS。内側に2cmの木質系ボードで30cm。
これは16cmの充填断熱材の外側に2cmの木質ボード5枚を重ねていて10cm。内側に2cmだから28cm。ギリギリセーフというところか。
これは壁の構造が特殊。北米の寸足らずの204材ではなくまともに5cm×10cm。したがって充填断熱材は20cm。その外側に6cmの木質系。内側は1.5cm程度。計27.5cm。これもギリギリ。
これは16cmの充填断熱材の外側に6cmの木質系、それに通気層をとって無垢板仕上げ。内側に2cmだから計24cm。これだけが明らかにパッシブハウスには失格。
しかし、石膏ボードの下にあるのは「電磁波ボード」かもしれない。その性能とか内容を確かめることが出来なかったが、ドイツには電磁波ボードなるものが存在する。
しかし、このような断面を見ていると、日本のダイワハウスが「外断熱だ」というだけで大威張りし、セキスイハウスが5本の木を植えてエコだと騒いでいることが、いかに消費者をバカにし、ナメていることかがわかる。
日本のプレハブメーカーと国土交通省の役人が、日本の住宅を「後進国の後の後」へ追いやっている。
そんなプレハブをのさばらせているビルダーも、実は情けないのだが…。
さて、ここまで見てきて、皆さんは日本の住宅とドイツの住宅との決定的な違いを感じられたでしょうか?
それは、合板とかOSBという構造用面材が一切使われていないこと。
地震のないドイツは、シージングボードが、十分に耐力壁の役割を果たす。
それと、仕上げにサイデングとかタイルなどを使っていない。
木質系の断熱材にしても、EPSでも、その上に薄い透湿系の下地を塗り、ガラス繊維の薄いメッシュを入れ、これまた薄い透湿系の上塗りと、仕上げは雨は通さないが湿度は透すという透湿系の塗料を塗っておしまい。
そして時折、縦胴縁を入れて軽い無垢の木のサイデング仕上げ。
ついでに言うならば、内部の仕上げに一切ビニールクロスを使っていない。もっぱらルナファーザーという紙クロス。
つまり、ドイツの木造住宅というのは、ランバー以外は全て透湿系の素材で構成されている。
このため、べバーバリアとして、冬期は室内の湿度を壁内に入れず、夏期は壁内の湿度を室内へ吐き出して逆転結露を防いでくれる「インテロ」という画期的な調湿バリア材が開発され、大流行している。
この新しいバリア材を日本へなんとか売り込もうと頑張っているが、マーケティングとアプローチにやや難点が見られる。
ビニールクロスを用い、OSBや構造用合板を採用しているところに、いきなりインテロを売り込もうとしても価格面で徒労に終わる可能性が高い。
地震国日本では、夏の逆転結露を防ぐ方法として、乾燥材や集成材を使っておれば現場発泡ウレタンの方が安く、高いシェアを持っている。東京以西でこの壁を突破し、インテロのメリットを実証することはなかなか困難。
地震国日本では、何はさておいてもまず完全な耐震性ありき。
それが大前提。
しかし、ドイツの木造住宅を見ていたら、つくづくうらやましくなってきた。
木軸の柱は5.33寸角の含水率15%以下の乾燥材。
壁工法にしても3×7の丈夫な乾燥材が2尺間隔。
このランバーが、内外とも全て透湿の建材で覆われている。確かに外部の塗装は、何年かに一度は塗り替える必要がある。それは絶対条件。
サッシは最低でも熱貫流率は1.1W以下。
とすると、どこにも結露が発生するところがない。
結露の危険が一杯にあり、断熱・気密性能が低くて実質的には20年の使用にしか耐えられないような日本の住宅が、「200年住宅」として認証されようとしている。
国土交通省が音頭をとって、バカ騒ぎに一役も二役も買っている。
これは世紀的な喜劇。
200年住宅の中で、まともなのはQ値を1.3W以上と定めた北海道の北方型エコ住宅だけ。
しかし、厳密に結露という面を検証するならば、中には怪しいものもあろう。
そして日本の、あの程度のものが200年住宅だと言えるのなら、ミュンヘンに建っていたほとんどの木造住宅が400年住宅とか500年住宅と言える。
外装を剥がさなくても、サッシは途中でちゃんと取り替えることも出来る。
二重にも三重にも厚い断熱材を纏った家が、健やかに呼吸をしている。
健やかに、健やかに深呼吸を……。
「地震のない国がうらやましい」と嘆いてばかりいてはいけない。
今までの優れた体系とは別に、耐震性と省エネ性と耐久性の高い透湿システムを持った外壁を、なんとか構築してゆくべきだと思う。
それを、単なるエコ運動と捉えると、間違いを犯すことになる。

