2008年11月05日

悩ましい床根太スパンと驚異の遮音  ドイツパッシブハウス調査(5)



フランクフルト空港に到着し、早速9人乗りのワゴン車にバックを詰めこんで、午後4時前に乗り込んだのが郊外のW邸。
最初、バウマンさんから2年前にアース21のメンバーが訪ねた「パッシブハウス小学校視察」の打診があった。「その小学校のことならドイツ人よりも日本の先進的なビルダーの方が内容をより正確に把握している」と断った。いまさらである。
そしたら、変わりにとても素晴らしい住宅を探し出してくれていた。

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ご主人は高校の先生。お子さんが3人の5人家族。
約110坪の土地は、幸運にも親からのプレゼント
建物は1階76.09m2、2階75.42m2、3階63.3m2で、延べ214.81m2(65坪)。
5kWの太陽光発電を搭載しており、太陽熱温水器も付いている。後で説明するがアース・チューブの換気設備も暖房設備も付いている。これで総建築費が40万ユーロ。
1ユーロが130円とすると5,200万円。単純計算すると坪80万円。
これだけを聞くと、建築費は日本とそんなに変わらないと考えてしまう。
事実、林業関係者のほとんどの報告書には「ドイツの住宅建築費は、日本とほとんど変わらない」と書かれている。

ところが、ドイツの戸建や中層住宅は、必ずと言ってよいほど地下室を持っている。
そこは物置スペースや機械室になっている。時には居室にもなる。
このスペースは、建築面積にカウントしない。
この高校教師の家の地下室は70m2。
そして、壁厚は約300mm。
ドイツをはじめヨーロッパでは、家の大きさは内法寸法で表示する。
日本のように構造体の芯での表現ではない。
ということは、日本流に表現するならば、この高校教師邸は地下室までを含めると延べ90坪の大豪邸ということになる。
Q値が0.5Wの高性能住宅が、防水地下室工事、セントラル空調換気工事、給湯工事を含めて坪58万円。日本でこの価格で出来ますか?
この基本的なことを、先達諸氏はきちんと伝えてくれていないように感じる。

この家のパッシブハウスの性能について語りたいことが一杯ある。
それは後で詳しく述べることにして、「床構造」の問題を先に取り上げさせていただく。パッシブハウスの前にもう一回だけ、建築屋の寝言に付き合っていただきたい。
何故かというと、この家は2階及び3階の床の遮音性能がやたらと良かった。
大勢の仲間が2階で写真を撮っているのに、1階にいて2階の音が全然気にならない。木造住宅でこんなことは珍しい。
極論すれば、初めてと言えるほどの驚きの体験。
「ドイツの木構造の床はどんな構造になっているのだろうか?」
最初に抱かされた大きな疑問。
いつも施主から2階床の音で泣かされているビルダーにとっては、パッシブハウスはさておいても床遮音に関心を持たざるを得ない。
この疑問を、すでに何回もドイツを訪れている先達諸氏が解明し、広く公知されているならば、私どもビルダー仲間がドイツの木質構造について語る必要は毛ほどもない。
「どんな遮音材を使っているのだろうか?」
「それよりも根太セイとピッチかを知りたい!」
「工事中の現場が見たい!」

日本の木軸組の関係者は、クギの径やたるき、根太、まぐさ、梁などのセイやピッチに対しては鷹揚というか、律儀にこだわっている人は少ないように感じる。
未だに経験と勘に頼って、細いクギを使っている無知な大工さんも多い。そんな行為が許されている。
これに対して、ツーバィフォーの場合は、公庫の標準仕様書にクギの太さ、長さが明記されている。
樹種ごとのたるき、根太、まぐさ、梁のセイと、ピッチごとに可能なスパンが決められている。それに従わないと公庫の融資が得られなかった。

先月24日の十勝2X4協会の30周年記念の「現場見学会」の時も、仲間同志が鋭い目で工事現場をチェックしていた。
「ここにCN75クギを使っているのはおかしい」
「スパンが2間半とんでいるから、210のTJIを2枚合わせに使っているが、212のTJIだと1枚で済む。コスト的に考えると212にすべき」という具合に。
つまりスパン表がお互いの頭の中に叩き込まれており、共通の土俵がある。
これを聞いていた木軸組の仲間が「ツーバィフォーの仲間と付き合うようになってからクギは必ずCNクギを使うようにしている。また、横架材のたるき、根太は208や210材を使ってスパン表を守っている。こうしたハイブリッド木構造は耐震性にすぐれ、科学的で構造解析がやりやすい」と話してくれたのが印象的。

私どもが知りたいのは、CADでの構造設計の前提条件となる樹種毎の、ピッチ毎の、基本的断面毎の、床・壁・天井・屋根・まぐさ用のオープンなスパン表が、ドイツに存在するのかどうかである。
それがあれば、大工さんや現場監督の教材とチェック用として非常に有効に機能してくれる。
また、ドイツのマイスター大工さん用の教材に、アメリカで使われている「カーペントリー」のような優れた教材があるのかどうか。もしあれば、それを部分的に改善して日本の木軸組用の教材として使えるかどうか…。
さらにドイツの地場ビルダーは、小屋裏3階建ての一般的な住宅でも、都度構造設計事務所に構造設計を依頼しているのだろうか…。
木構造科の有無よりも、われわれ現場人にはドイツの実態について知りたいことが限りなく発生してくる。どなたか、われわれの疑問に対する解答が、すでに日本で発表されているのをご存じでしたら、その報告者名とレポート名を教えてやって下さい。

そして2日後に、そこいらでよく見かける消費者相手のDIY(日曜大工の店)ではなく、プロの大工さんやビルダーを相手とする大きな建材販売店を訪ねることが出来た。
そこには、外壁や屋根の無数の実物大模型とともに、床断面の構成模型が十数点も展示されていた。下の写真はその一部。
いや、面白いのなんの。
視察予定時間がはるかにオーバーしてしまい、完成現場視察を1ヶ所キャンセルしてしまった。

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この写真には2階の床だけでなく1階床の断熱・遮音例も含まれている。
2階の床の遮音に、ここまで手をかけた断面が現実に存在するとは…。

アメリカでは、昔は床根太に210とか212のランバーが使われていた。
しかし、大径木の減少から、最近ではランバーに変わって210や212のTJIの使用が主流なってきている。
そして、ダクト工事をスムーズに行うために412とか414という平衡弦トラスの採用が増えてきている。そうした横架材の上に厚い29mmの4X8の構造用合板を弾性接着剤併用で千鳥貼りする。
その上に厚いクッション材を敷いて、これまた厚いシャギーのカーペットで仕上げる。
この29mmの剛な構造用合板と吸音性の高い厚いクッション材とシャギーカーペットで、2階の音は遮断されている。

日本でも初期のツーバィフォー住宅は、圧倒的にカーペット仕上げが多かった。しかし、夏期の高温多湿で、カーペットがダニの巣になった。
そして20年前から2階の床もフロアー仕上げに変わった。そして、吸音性能を失った日本の全ての住宅は、反響音に悩まされてきている。とくに2階の音の遮音が大問題として浮上。
中でも問題が先鋭化したのが1階に親が住む2世帯住宅。
2階床にシンダーコンクリートを打つとか、鉛などの遮音材を敷くとか、吸音石膏ボードを施工するとか、釣り天井にするなどとあらゆる試みがなされてきた。
しかし、未だにこれはという決定打が得られていない。

これに対して、ドイツではなんとまあ派手に吸音施工をやっていることか!
しかし、よくよく考えてみたらドイツには地震がない。床合板を根太に接着剤併用で直接千鳥貼りをする必要性がない。
つまり、プラットフォームを構成しなくてよい。ダイヤフラム理論は無視してよい。
このため、根太の上に吸音性の高いボード類や吸音材を施工することも出来る。そのクッション効果で2階床の音を抑えられる。
さらに、外壁のスタッド厚は75×160mmと剛。そして壁石膏ボードの下に吸音性の高いシージングボードなどを施工している。したがって壁を伝わって2階の音が1階へ響くということが極めて少ない。
このために、W邸で私共がびっくりした遮音性能が、ドイツでは簡単に得られている。
大きな謎が一つ解けた。バンザイ!

そしたら、次の新しい疑問が出てきた。
アメリカでは210のランバーを406mmピッチに入れれば、床スパンの長さは3間まで可能。
ところが日本では303mmピッチに最強のダグラスファー材を入れても、スパンを3間とばすことは出来ない。
これは、北米の許容応力度は木材、鉄骨、RC造とも短期荷重200キロに対して長期荷重は一律に150キロ。
これに対して日本の木質構造の短期荷重は200キロに対して長期荷重はたったの110キロしか基準法上認めていない。北米に比べて36%も余分に材積がかかる。
この非を唱え続けているのは、私くらいしかいなくなった。
林業家も林野庁も、大学の先生も設計家も、住林も三井ホームもナイスも、我れ関せずと社会的な責任を放棄している。
見事なまでの知らぬふり。あるいは本当に無知なのか、私の方が間違っているのか…。

ドイツの床根太構造を見ていると、自重が日本よりも重い。それでいて信じられないほどのスパン間隔。どう考えてもドイツの長期荷重は150キロかそれ以上。
ヨーロッパの学界と交流があるという諸先生方は、当然そのことをご存知のはず。としたら、声を大にしてその事実を叫んでいただきたい。日本の基準法のいいかげんさ。陰湿なランバー虐めの実態を世に問うて欲しい。
ドイツやオーストリアから学ばなければならないのは、何はさておいてもその点だと考えるのだが…。

それにしてもドイツの床根太は、ツーバィフォーで鍛えられてきたビルダー仲間にとっては悩ましい存在。頭が混乱して理解が出来ない。
積載荷重の基準は変わらないはず。
床荷重に対する力は、根太のピッチもさることながら、そのセイの大きさで決まると教わってきた。

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ドイツの住宅で、根太や梁を現しにする現場は少ない。住宅展示場では4ヶ所で見た。
その現しの根太と梁のセイはせいぜい5X10か3X10にすぎない。これをおよそだが4尺とか6尺ピッチに入れていた。
上の写真の場合には、根太というか梁の上に、かなり厚いサネ加工された無垢の長尺板が直行して施工されているのだと思う。そして石膏ボードで天井面を防火被覆。
その上で、スパンを3間近くもとばしている。これで撓わみの心配がないのだろうか?
ドイツのトウヒやモミは、ダグラスファーと同程度の曲げや剪断力を持っているのだろうか?
ドイツ床は、根太構造ではなく梁構造として計算されているからなのだろうか?
直行しているT&Gの板厚も、計算上有効に働くのだろうか?
いや、日本の110キロ長期荷重の数値に慣れた目に、150キロのドイツの施工が異常に見えるだけのことなのかもしれない?
ま、素人の考えは休むに似たり。

そう言えば良いことを思いついた。
岐阜の金子建設工業の金子社長。
木質構造に明るく、かなりの年配なのに東大の安藤直人先生に弟子入りして博士課程に挑戦中。勇気と意欲のある貴重な高気密住宅の先達者の一人。
安藤先生に変わって、私どもの単純で素朴な疑問に答を用意していただけないか…とお願いをすることにしょうか…。
posted by unohideo at 06:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 海外情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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