2、3年前まではバイオエタノールはCO2削減の救世主の第一人者と考えられ、特別に温かいまなざしで注目されていた。
ところが、投機マネーで石油が高騰し、資源価格も急上昇。
そして、トウモロコシ、コムギ、ダイズ、コメなどの穀物価格の世界的高騰。
その原因が、主としてトウモロコシを原料とするアメリカのバイオエタノールへの急激で、過剰な投資にあるかのように報道された。
洞爺湖サミットで、このアメリカのバイオエタノールへの投資抑制を打ち出せなかったのは、大失敗であるという論調が横溢している。
本当にそうなのか?
その素朴な疑問に答えを用意してくれているのが下記の著書。
山家公雄著「日本型バイオエタノール革命……水田を油田に変える地域再生」(日経出版1800+税)
著者は日本政策投資銀行調査部の審議役。
開銀に入行以来、主に環境やエネルギー畑を歩き、ロス駐在の経験もあってアメリカのエネルギー事情に精通している。
そして、日本のバイオの現場を歩いて書いた本だから、単なる机上の空論ではない緻密さとフィールドワークが評価出来る。
まず、世界のバイオエタノールの生産量だが、2007年で6,300万キロリットルと言われている。
このうち、アメリカが39%、ブラジルが30%を占めている。
なんと2ヶ国で70%ものシェアを持っている。
トップのアメリカのバイオエタノールの原料は、その95%がトウモロコシ。
これが飼料とからんで問題視されている。
アメリカのエタノールの生産量は2001までは横ばいであった。ところが02年から目覚ましい伸びを見せている。
2001年 670万キロリットル
2002年 806
2003年 1,064
2004年 1.291
2005年 1.476
2006年 1,855
2007年 2,460
このように、過去7年間で4倍の生産量となっている。
そして、07年の12月に両院を通過した「エネルギー自立・安保」によると、2022年までには昨年の5.6倍の1億3680万キロリットル(うちトウモロコシ原料が5700万キロリットル、セルロース等で7980万キロリットル)の生産にまで高めることにしている。
しかし、これからの11年間でトウモロコシの需要量は31%増加するが。バイオエタノール用としては急速な伸びはここ当分の間だけで、2018年の比率はそれほど変わらないとしている。
飼料用 バイオ用 輸出用 食品・工業
2007 49.9 18.9 19.0 12.2
2018 39.6 33.3 16.8 10.2
この間に、バイオエタノールの伸びが131.5%と特筆していて比率が1/3になるが、飼料をはじめ他の絶対量は減るわけではない。飼料は4.1%、輸出は16.5%、食品・工業用は9.5%伸びると予測している。したがって、飼料価格を必要以上に押し上げないとしているが、農家にとっては値下がりの要素がほぼ皆無になったことは事実。
そして、このところのバイオエタノールに対する投資は過剰で、早くも設備過剰による淘汰が囁かれているという。
アメリカが、ここまでバイオエタノールに力を入れるのは、カリフォルニア州に代表されるようにCO2排出源の40%が自動車からだという事実がある。車社会の泣き所。
シュワルネッガー知事が日本のハイブリッド車の普及に力を入れている理由がわかる。
そして、2025年までに中東原油の75%削減が国家のテーゼになってきている。したがって、一方的にアメリカのトウモロコシを俎上に揚げ、追求する姿勢は必ずしも正鵠とは言えない。むしろ、問題にしなければならないのはセルロース系の技術開発の遅れ。
このイノベーションこそ、バイオエタノールのカギを握っている。
このアメリカに対して、ブラジルの場合の原料はサトウキビ。
砂糖用をわずかにエタノール用が追い越したが、サトウキビは国際的な穀物価格を動かすことはない。
ただ、森がサトウキビ畑に開発されて、熱帯林が減少しているというインデイアン側から告発した南研子著「アマゾン、森の精霊からの声」という貴重な記述がある。
しかし、サトウキビはコムギやトウモロコシ、ビートに比べて単位面積当たりの生産量はダントツに高く、またコストの面でも小麦やビートの1/3であり、トウモロコシの半分にすぎない。
バイオエタノールとしての優位性は揺るぎがない。
ブラジルのサトウキビエタノールに対しては、三井物産をはじめとした日本の商社も食指を伸ばしており、これからは日本へも輸入されてこよう。
日本におけるバイオ燃料を推進している役所は、主として農水省、経産省、環境省。
農水省は2030年までに国産燃料を600万キロリットルという目標を建て、その内訳として糖・デンプン質5万kl、草木系180〜200kl、資源作物200〜220kl、木質系200〜220kl、バイオディーゼル燃料10〜20klとしている。
そして、2007年6月に補助事業として3ヶ所(苫小牧、十勝、新潟)、計3万1000klが採択されている。これは5年間の実証生産プロジェクトで、設備投資とランニングに対して1/2の費用が補助される。
この農水省のほかにもバイオエタノール実験事業として6ヶ所の事業が採択されている。
・北海道十勝(原料 ビート、小麦、コメ)
・北海道苫小牧(原料 コメ)
・山形県新庄(原料 コウリャン)
・新潟県(原料 コメ)
・大阪府堺(原料 廃材)
・岡山県真庭(原料 木質バイオ)
・北九州(原料 食品廃棄物)
・沖縄県宮古(原料 糖蜜)
・沖縄県伊江村(原料 サトウキビ)
残念ながら、著者はこの全ての動きを追ってはいない。
主として追っているのは農水省関係の3ヶ所の補助事業。
というのは、とくにコメを原料とする場合には、日本の食料自給率の問題、休耕田の問題など、日本の農政そのものと深くかかわっている。
そこに、なんとかバイオによって解決策がないかと的をしぼって探求している。したがって、木質系や廃材系のバイオに関心のある私共建築関係者からは、少し視点がズレている。
水田が休耕田として水利管理が行われなくなると、いざという時は食料の自給率を高める役割を果たせない。そこで多収米を植えて、それのワラを含めてバイオエタノールをとるという実験。
ガソリン価格やブラジル産のバイオエタノールの価格から考えると、コストはリッター当たり100円に抑える必要がある。
そのためには原料のコメは20円/kgで手当ができなければならない。農協の買い上げる一般のコメが200円/kgということを考えると、これはなかなか厳しい条件。
さらにエタノール精製プラントの規模やコストの問題、ワラなどセルローズ系の技術開発、ガソリン税の問題など、蓄積している問題は余りにも多い。
しかし著者は、休耕田の水田を油田に変える可能性はあると考えている。それには、コメ・エタノールは、地域再生の食料問題として捉える必要があると強調。


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